佐藤 |
「唾液を出させるデザイン」はね、
追究しはじめると深いんです。 |
田中 |
それは、単に食の領域だけでなく、
たとえば人間を突き動かしていくような
エロスも対象に入っていきますよね(笑)。 |
佐藤 |
んー、そういう展開もありますよね。
結局、“シズル感がある”なんていう言葉ね、
あれ、面白い言葉ですよね。
もともと、
肉をジュージュー焼く音を
表現する英語でよね。
それが、肉だけでなく、
唾液を出させる要素にまで
意味が、広がってきて、
最初は、食べるものまでだったんですけども、
日本においてはさらに広がってきて、
たとえば“車のシズルがよく出てるね”なんて
いう言い方まで。
「シズル」っていう言葉は
日本で勝手にどんどん進化してますよ。 |
田中 |
英語では通じないぐらい
拡大解釈されてますよね。 |
佐藤 |
外国では通じないと思うんですよ。
でも、日本で独特の進化をしているというのが、
面白いですね。
車のシズル出てるね、ってね、
車の撮影で言う時には、
なんていうのか、
車の味わいを言おうとしているのか。 |
田中 |
走行感であるとか
ボディへの風景の映り込みとか含めて、
「車のシズル」を表現しようとしますよね。
あの「シズル」って何だ?、って
気がしますね、すごく。 |
佐藤 |
まあ、「らしさ」ですよね。
だから、その「らしさ」を、
どうしたら受け取る側の脳から
引き出せるかっていうことですよね。
あくまで受け取る側から引き出なければ
意味がないっていうね、ことですよね。 |
田中 |
送り手である作り手は、
受け手にあるものを
見つけることになりますね。 |
佐藤 |
そう、作り手がいくらこう唾液を出してたって、
受け取る側が、
「らしさ」を感じないとね。
だから、
普遍を探すっていうことなんですよね。
多くの人が共通に持っている、
経験、記憶、体験っていうものが、
どのへんなんだろうかっていうものがわからないと、
引き出せないんですよ。 |
田中 |
たとえば牛肉販売のチェーンで、
牛肉のマークで、
牛のイラストがあっても、
牛を扱う場所だとは伝わっても、
美味しそうには見えないですよね(笑)。
あれはやっぱり食べるっていう本能とか、
生理とかとは別のところで成り立つ
デザインになってますよね。 |
佐藤 |
その通りですね。
でも、たとえば牛のイラストでも、
いろんなイラストがあるじゃないですか。 |
田中 |
ああ、そうですね(笑)。 |
佐藤 |
やっぱり、なんか田舎のね、
素朴な紙質に素朴なタッチで、
もしかしたら描いてあったら、
別の意味で、なにかシズルが、
沸き上がってくるかもしれない。 |
田中 |
あ、自然に放牧されて、
伸び伸び育ったんだみたいな
牛の美味しさ感とか。 |
佐藤 |
ちょっと遠回りだけど、
そこから、いい肉だな、質のいい肉だって
いう方向へつながっていってね。
で、唾液へつながるってこともあるかもしれない。
だから、いろんな可能性があると思うんですよ。
それをいろいろ探すわけですよね。
で、そのときに、デザイナーが陥りやすいのが、
美しいということなんです。
美という基準が邪魔をするんですよね。 |
田中 |
あー! |
佐藤 |
われわれが持ってる美っていうのは、
モダンデザインをベースに教育をされているので、
その基準が刷り込まれているんです。
で、デザインをするときにね、
どうしてもそのモダンデザインの美の基準で、
つくろうとするわけですよ。
デザインが唾液を出させないといけないときに、
美っていうのは、
対極に近いものであったりすることが
多いんですよね。
あの、美って、
右脳で判断してるように思われますけどね、
世の中の美ってね、
意外と左脳で判断してるんじゃないかって。
美しいものはこういうものだっていう
概念に照らし合わせて
「美しい」って言ってることって、
意外に多いんですよね。 |
田中 |
はぁ〜。
モダンデザインの基準だと、
ついついシンプルであったり、
なんか均等なバランスを求める方向に
行きますよね。
たとえば大阪の鶴橋の焼き肉屋が
持ってるような、
街ごと唾液が出るような環境みたいなものとは、
まったく違いますね。 |
佐藤 |
そうそう!
ぜんぜん基準が別なんですよ。
小汚いラーメン屋のほうが唾液を出せるとか、
いわゆる飲み屋なんてそうですよ。 |
田中 |
そっちのほうが、
ついついお酒が進んだりするわけですもんね。 |
佐藤 |
で、そういうところはほとんど語られずに、
われわれは美の教育を受けてるわけです。
だけど、実際に口に入れる、飲んだりする
食べるものっていうのは、
食べるということに対する本能に、
どう訴えてくるかなんですよ。
だから、ある意味では、
習ってないぞ、っていう(笑)。
ところが、習ったことで、
みんなやろうとするわけですよ、どうしてもね。 |
田中 |
教科書に出ているデザイン論はあっても、
唾液を出させるデザイン論は
できてないですよね(笑)。 |
佐藤 |
ない、ない。私はそれを作りたいぐらい(笑)。
脳の問題とか、
経験とか記憶とか体験とか、
そういうことまで含めるんで、
すっごく深いことになると思うんですけど。
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