感心力がビジネスを変える!
田中宏和が、
感心して探求する感心なページ。



第十二回
特殊を普遍につなぐマスプロダクト



田中 もし「唾液を出させるデザイン論」を
突き詰めようとすると、
人類の英知集めて、
“さて、どうする?”みたいなことに
なってしまいますね。
佐藤 これが、デザインの中でもいちばん難しいね。
食べもののデザインより、
化粧品のデザインのほうが簡単です。
美しいものを作ればいいんですよ。
化粧品のデザインはね、左脳でできますね。
田中 あ〜、なるほど〜。
佐藤 たとえばね、
すごくきれいなね、四角い箱に
ロゴを1個、小さく入れました。
これ、きれいですよ。
これは、理屈で作れます。
でも食い物は、これでは届かない。
田中 あ〜、手が出ないですね、それでは。
佐藤 手が出ない。
人間の持ってる感覚を、
総動員して考えなきゃいけないですね。
自分がデザインという
視覚伝達から入ってるので、
そういう関心がどうしても深いのかも
しれませんけど、
視覚っていうのは、
全ての感覚を引き出すわけですね。
場合によっては臭いも引き出しますよね。
やっぱり、
ウンコを見たときに
ウンコの臭いを引き出す。
記憶が蘇るわけですよね。
ただ、視覚っていうのは、
いろんな感覚を引き出す力を持っちゃっている。
田中 視覚が、すべての感覚の引き出しになるような
強さがありますよね。
佐藤 だから、
この唾液が出るか出ないかっていうのは、
同じことが二度とないんです。
そのラーメンがどういうラーメンかによって、
それは違うわけじゃないですか。
たとえばお蕎麦だって、
田舎蕎麦もあれば更級もある。
都会的な蕎麦もあれば、
田舎っぽい蕎麦もあって、
それがパッケージが同じでいいわけがない。
田中 美は取り替えがきくけども、
唾液はそうはいかないわけですね。
あー、そうなると、
それを見る場所や環境にもよっても
唾液の出方は変ってきますね。
南国のラーメン屋と北海道のラーメン屋では、
店舗のデザインや
メニューの書体が変るでしょうしね。
佐藤 そうそう、だから、
環境とともに情報っていうのは
届くということです。
だから、紙1枚、われわれがこう見て、
この紙1枚の情報だけが語られてるかというと、
そうではないわけです。
その紙に当たってる光はどうなのか。
その紙が置かれたテーブルの質感はどうなのか。
今の気温はどうなのか、湿度はどうなのか。
そういうことも含めて、
紙1枚からラーメンの情報が書いたときに、
唾液が出るか出ないかなんですよね。
田中 佐藤さんのご関心としては、
そういう繰り返しやコピーが効きにくい
「唾液を出させるデザイン」にある一方で、
マスプロダクトをデザインされてますよね。
大量に生産されて大量に消費される
チューインガムのような商品の場合、
それが消費される環境とか
ユーザーに届く時間とか、
お構いなしに、
最終的には消費されたり使われたり
するわけでしょう?
佐藤 まったくお構いなしだね(笑)。
田中 ましてやガムだと、
おじいちゃんおばあちゃんから子供まで
食べるわけじゃないですか。
一回一回に特殊な対応を
求められるようなデザインの一方で、
「唾液が出る」っていう普遍的なところを
追究されているのが面白いですねえ。
佐藤 確かにね、それは、醍醐味なんですよ。
でね、それを醍醐味だと思ってる人はね、
そんなにいないかもしれない。
それを醍醐味だと思えてるのはうれしい。
実はすっごく難しくてね、面白い。
難しいから、やりがいがあるんです。
田中 はあー、そういうもんなんですか?
佐藤 一般には、デザイナーにとっても、
何をデザインしたいかという
好みがありますから、
「食品のパッケージなんて」っていう
気持ちで携わっている人もいるんですよ。
どうしても車や家具のデザインをやってみたい、
という人がいますから。
たとえば、レトルトカレーのパッケージって、
インドのほうからカレーが渡ってきてから、
日本で進化を遂げてね、
ものすごい技術で、今に至ってるわけですよ。
そして、中身が見えない
箱でしか伝えられない商品です。
もしパッケージが透明で、
カレーのルーや具材が、いろいろ見えたら、
それでシズルって出てくるじゃないですか。
だけど、紙箱になっちゃう。中身が見えない。
じゃ、見えない中身をどう伝えて、
唾液を出させるかって、
すっごい難しいんですよ。
田中 制約があるほうが燃えるんですね(笑)。
保存とかコストを考えると、
レトルトカレーのパッケージは、
今の形態に落ち着いてしまうんでしょうね。
佐藤 車なんて見えるんだもん。
車がね、大っきな箱に入っててね、
箱売りしなきゃなんないんだったら
難しいっすよ。
写真を撮ってね、
パッケージにその写真をレイアウトして(笑)。
車の箱売りって、
面白いかもしれない(笑)。
田中 巨大プラモデルみたいなことですね(笑)。
車の売り方もそうとう変るでしょうね。

ワンポイント考察

先日の『智慧の実を食べよう2』で、
物理学者の松井孝典先生も
普遍と特殊の問題について
語っていらっしゃいましたが、
普遍を考え出すと、
とても観念的になってしまうものです。
でも、佐藤卓さんの場合は、
その向かう先がデザインという
具体物ですから、
試行錯誤の結果が出やすい分だけ、
ついつい普遍に走る考えに
ブレーキをかけにくくなりますよね。

そもそも問題解決型の職業というのは、
凝り性的なところがないと、
うまくいかないのかもしれません。
「難しいほど燃える」って、
確かにまわりを見渡しても、
問題解決ラブでないと、
言えませんよね。
と、自分でも思いあたったりしてますが、
みなさんはいかがですか?
あ、男のほうが、
難しいほど燃えやすい、
難易度で引火傾向が
あるんでしょうかねえ。
ということは、
問題解決型職業が増えると言われる、
これからの社会は、
眉間にシワ人口比率が増えるってこと?
うす暗い世の中にはしたくないですよね。
はははー。

2004-05-24-MON

BACK
戻る