ほぼ日 |
こうしてショーウィンドウで宣伝しますよね。
今だったらテレビがあるけれど
ここから先はどうやって
流行が伝わったんだろう?
銀ブラしてる人たちから伝わるにしても
地方までけっこう
波及してたわけですよね。銘仙はね。 |
小山 |
そうなんですよ。
今ならテレビか雑誌ですよね。
当時は、雑誌がすごく力があったようです。
これ『婦女界』っていう
いわゆる全国に出版が行き届いていた
雑誌の巻頭特集です。
こういった特集が組まれてて。 |
 |
ほぼ日 |
ああ、そうなんですか! |
小山 |
モデルが銘仙を着て立っていて、
ポーズをとっているという。
今のファッション雑誌と
本当に作りは変わらなくて。 |
ほぼ日 |
同じですね。 |
小山 |
この真ん中は、水谷八重子さんですよ。 |
 |
ほぼ日 |
あ、これ水谷八重子だ!
良枝さんのお母さんですよね。
これいつくらいですか? |
小山 |
1930年、昭和5年ですね。 |
ほぼ日 |
じゃまだ、戦争はそんなに。 |
小山 |
そうですね。戦前の一番華やかな。 |
ほぼ日 |
華やかな時期だったでしょうね。
だって街にいる女の人はみんな
華やかなあでやかな
着物着てるんですもんね。
さぞかしきれいだったろうねえ。 |
小山 |
この雑誌を見ていて気付いたんですけど、
この柄に名前が付いてるんです。 |
ほぼ日 |
あ、これがそう? |
小山 |
黒文字で書いてある。
例えば水谷八重子が着てるのは、
「超人」って書いて「エキスパート」。 |
ほぼ日 |
あ、エキスパートっていう名前なんだ。
かっこいーい。
ネーミングがあったってすごいですね。 |
小山 |
あったんですよ。
この隣の及川道子さんの着ているのは
「流行横顔」と書いて
ファッションプロフィール。 |
ほぼ日 |
これはどういうことでしょう?
流通の仕組み上、
名前があった方がよかったから、
というんじゃ、なさそうですよね。
やっぱり売るためかな?
通りがよかったのかな?
「あらあなたのお召し物、よろしくってね」
「これはエキスパートと言うんですのよ」。
「あたくしのは、
ファッションプロフィールと申しますの」。
っていう会話ができるわけですよね。
これもネーミングは東京っぽい。
百貨店ぽいですね。 |
小山 |
生産してた伊勢崎の人は
知らなかったとおっしゃってました。
たぶんこれは
販売していた百貨店が
独自につけたものだったんでしょうね。 |
ほぼ日 |
そうか。 |
小山 |
この生地の名前はクレオパトラです。
とかって。
クレオパトラになれるかもという
イメージとともに
買われていたのかなあというふうに
ちょっと想像しちゃったんですけど。 |
ほぼ日 |
「1930年」っていう名前もかっこいい。
この、なんていうか、
いい気になっちゃってるっていうか、
流行がぐんぐん加速して、
上気した感じが、すごくいいですね。
今って、生地に名前はあるんでしょうか?
あまり聞きませんよね。
手ぬぐいならね、
伝統の「かまわぬ」って柄はあるし
タータンチェックみたいに
紋章として家の名前があるとかは
あるけれど‥‥
もし、あっても、メーカーの
「型番」じゃないのかな?
ましてや商品になると、
Tシャツ1枚に、名前つかないですよね。
あ「ほぼ日」は、つけるか‥‥
うちはこの流れかもしれません(笑)。 |
小山 |
そうかもしれないですね(笑)。
家電にはネーミングの流行がありましたね。
ポットに「しあわせ」とか、
洗たく機に「ひまわり」とか「愛妻号」とか
空調に「霧ケ峰」とか。 |
ほぼ日 |
そっかー。
この『婦女界』って、
読んでてさぞ楽しかった
だろうなあと思いますよ。 |
小山 |
この雑誌は同時に、通販のカタログも兼ねていて。 |
ほぼ日 |
え? すごい。通販があったの? |
小山 |
『婦女界』には通信販売部って
いうのがあったんです。
このページは三越で売られていた
銘仙の特集ですが、
地方の人は三越なんかには
一生に何度も行けないですし。 |
ほぼ日 |
そうですよね。 |
小山 |
この『婦女界』に手紙なりで申し込めば、
この生地が買えたんです。 |
ほぼ日 |
クレジットカードなんかないから
郵便の現金書留の世界ですかね。
じゃ、地方のちょっと
流行に敏感な女性たちは
一生懸命これを使って買ったんでしょうね。
でも地方にもお店があったでしょうに。 |
小山 |
地方にももちろん
地元のお店はあったけれど、
よりダイレクトに
東京から買いたかったんだと思いますよ。
水谷八重子の着ているこれがほしい、って。 |
ほぼ日 |
そっか。
この、水谷八重子の起用もいいですよね。 |
小山 |
そうなんですよ。
伊勢崎では銘仙を売るために
水谷八重子を
キャンペーンガールに起用したんですね。
女性にも人気があったんです。
水谷八重子は当時純情派として
売っていた女優さんですから、
とっても印象がよかったんでしょうね。 |
 |
ほぼ日 |
今と同じですね。
女性誌で黒田知永子とか
長谷川京子が着てるから
どうとかってありますもんね。 |
小山 |
ありますね。 |
ほぼ日 |
ほかにも、銘仙のキャンペーンに
使われた販促グッズなんかは
あるんですか。 |
小山 |
音楽がありましたね。 |
ほぼ日 |
CMソング? |
小山 |
というわけではないんですが、
バーゲンセールを巡回でやるときに
流すレコードがあったんです。 |
 |
ほぼ日 |
うわあ、この当時の
景気のよさっぷりが分かりますね。 |
小山 |
そうですね。 |
ほぼ日 |
すっごい上り調子な感じ(笑)。
だって自分のとこで、
音頭作って、売る時に
ジャンジャンかけてたんでしょ?
このノリのよさは凄い。
勢いを感じますね。 |
小山 |
これね、会場で聞いていただけるように
なっているんですけれど、
なかなか面白いですよ。
一番最初は「伊勢崎~~、伊勢崎~~」
っていう駅のアナウンスで始まって、
伊勢崎駅に買い付けに来た
東京と関西の問屋さんが、
会話をするところから始まるんです。 |
ほぼ日 |
おお、ドラマ仕立てだ。 |
小山 |
「ご当地はいつもベストを尽くされてるので
東京方面では安心して扱っておりますよ」
とかって言って。関西客は
「いやあ、関西方面もなかなかよろしおすなあ」
って! |
ほぼ日 |
あはははは。ノリノリですね。 |
小山 |
で、音楽の内容を読むと
新婚夫婦と銘仙の商品名を
かけ合わせた詞なんですよ。
例えば、
「最もめでたく月華の契り、
結ぶ新婚手に手を取りて、
抜いた抜染変わりはせんと、
文化絣にその身をまとい、
主は段織り、お対に仕立て、
人目晴れ晴れ霞ヶ浦へ、
目指すところは大島絣」って。
要は新婚さんが手を取って
旦那様は段織りを着て、
霞ヶ浦や伊豆大島に
新婚旅行に行きましたっていうような
そういうドラマと、商品名がかかってて。 |
ほぼ日 |
織り込んでるんですね。 |
小山 |
そうなんです。
で、この歌、夫婦に
子供が産まれるまで続くんです。 |
ほぼ日 |
あはははは。
調子に乗ってて楽しい! |
小山 |
ぜひ聞いてみてください。 |
ほぼ日 |
あの、すごく着物の好きな
「ほぼ日」読者の方から、
着物の柄の名前が違うんじゃないかなって
指摘をいただきました。 |
小山 |
そうなんですよ。カタログの方で、
実は違うっていうことがありまして、
私も実はこの本が出版されてから
気付きました。
重版のとき、修正します。 |
ほぼ日 |
何がどう違うんですか? |
小山 |
例えばこの「柿の実」っていうのは
ほんとうは「橘の実」でした。
ほんとにお恥ずかしいんですけど。
今、常設展示で
江戸の「橘の実」を展示しているんです。
まさしくそのデザインでした。
「東京流行生活展」では
昭和の「橘の実」がありますから
ぜひ、比較してごらんくださいね。
こういう伝統的な柄を使いながらも
いかにビビッドな色使いにしたかが
わかっていただけると思います。 |
 |
ほぼ日 |
なるほど、わかりました。
ところで、銘仙って、どれくらいで
廃れちゃったんですか?
やっぱり戦争と同時みたいな感じ? |
小山 |
そうですね。
戦争がやっぱりまず大きくて、
こんな派手なものは
着れなくなっちゃったってことも
あるんですけど、
みなさん戦争になっても
おしゃれ心っていうのは
そうそう消えないので、
銘仙をそのまま標準服、
いわゆるもんぺに変えちゃったりとかって
いう人もけっこう多かったんですよ。 |
ほぼ日 |
派手なもんぺ。
派手な防空頭巾。 |
小山 |
すごい派手なんです(笑)。 |
小山 |
今回、展示室で映写している
フェーレイスのカラー写真で
銘仙のもんぺを着けていた女性が
写っていた東京駅のものがありましたよ。 |
ほぼ日 |
フェーレイスって戦後間もない東京を
カラー写真で撮ってた、
進駐軍のカメラマン。
銘仙を仕立て直して、戦後、
着ていたんですね。 |
小山 |
仕立て直したり、
また、残った着物をそのまま着たり。
日常着が着物だった時代って
昭和30年代まで残ってましたから。 |
ほぼ日 |
そうなんですってね。
糸井は、子どもの頃、
足袋履いてたって言ってました。 |
小山 |
だから、洋服が一般化して、
銘仙は廃れてしまったんでしょうね。 |
ほぼ日 |
日常着から着物が消えて、
残ったのが高級反物、ですよね。 |
小山 |
伊勢崎ももう銘仙っていう言葉を
使わなくなっちゃって、
いまは「絣」と言ってますよ。
ただ、製法とかは昔ながらの
いわゆる手織りの、伝統的なものに
戻ったような感じですね。 |
ほぼ日 |
いま、銘仙は買えないんですか?
かえって、オシャレな感じ。
かわいいんじゃない? 今着たら。 |
小山 |
アンティーク着物、
流行ってますしね。
大量生産されたので、
今も残ってるものが比較的多いですし、
値段も安いので。
といいますか、今回、
展覧会の出口のショップでも
販売しているんですよ。 |
ほぼ日 |
あ、ショップ、ありますね!
あそこで売ってましたか? |
小山 |
売ってます、売ってます。
8,000円くらいから売ってますよ。 |
ほぼ日 |
ああ、だったら1枚思いきって、
ブラウスを1枚
買うくらいのつもりで買えちゃいますね。
ただ、着付けできないけどね、今の子。 |
小山 |
うん。でも一生懸命勉強して
自分なりに来てやって来る子も
着てくれますよ。 |
ほぼ日 |
そういえば今、出口のとこに
着物を着て展覧会が見れるって
書いてありましたよ。 |
小山 |
はい、そうなんです。
土日と祝日だけなんですけど、
ハクビ京都きもの学院の人に
ご協力頂いて、
展覧会に来ていただいた方には
無料で着付けをしてさしあげています。
1時間ならフリーで
館内散策OKということに。 |
ほぼ日 |
ほんとに?
すごい。 |
小山 |
彼氏が着ろよなんて言って、
彼女が着る、というカップルも
多いですよ。
2人で撮った写真もプレゼントしてます。 |
ほぼ日 |
いいですね!
でも出口にあるから
気づいたときには遅いよ~。
これ、「ほぼ日」読んでる方は
ぜひ試してみてくださいねー。
土日祝日に来たら女の子は
着物を借りて着て回ると。
より楽しめるはずです!
|
小山 |
それから!
10月24日にはきものデーを開催します。
着物で来られた方には、
企画展への入場料を無料にします!
また、この日のイベントでは
カフェーの女給さんの衣裳などを
実際にモデルさんに着てもらって、
大正昭和のおしゃれを探る
楽しいイベントもあるんです!
|
ほぼ日 |
ほお~~!
楽しみです!
|
 |