ほぼ日 |
ところで、
この絵はいったいなんですか? |

*「民防空」 |
新田 |
漫画シリーズなんですよ、これ。
「民防空」という
北沢楽天の作品なんです。 |
ほぼ日 |
戦争中も、
漫画はオッケーだったんですか。 |
新田 |
漫画は
プロパガンダとしてのものならば、
認められていました。 |
ほぼ日 |
これは、一コマ漫画で、
兵隊さんが、
もんぺ姿の女性に、
ガスマスクを付ける練習を
させています。
それを見ながら怖がる子どもに、
お母さんが
「坊や、怖いことないよ。
奥様、よくお似合いですこと。
おほほほほほ」
と。
これって、プロパガンダなんですか?? |
新田 |
「統合の生活を楽しく過ごしましょう」
というプロパガンダですね。
防空演習みたいなものが、
のどかにというか、
なごやかに描かれています。 |
ほぼ日 |
ある意味、のどかですよね。 |
新田 |
代用品に象徴されるみたいに、
「戦争だ、みんなで頑張ろう」
という雰囲気があって、
代用品以外でも、
「まずは、戦争をやるために
とにかくみんなで
お金を貯めましょう」
という動きもありました。
貯蓄報国運動というんですけど、
戦時国債みたいなものを買ったり、
貯金をしたりして、
とにかく、国にお金を集める。
それによって、
戦費を調達しようとしたんです。 |
ほぼ日 |
ほお。 |
新田 |
貯金の奨励のポスターを
見てください。
意外と、かっこいいんです。 |

*貯蓄奨励ポスター |
ほぼ日 |
不思議なんですけれど、
共産主義時代の、
ロシアや東ヨーロッパのデザインも、
こういう感じなんですよね。 |
新田 |
そうですね。
やはり、デザインの世界だと、
かなり、ロシアの影響は受けています。 |
ほぼ日 |
ロシアのアバンギャルド芸術って
面白いんです。
ロシアの人っていうのは、
共産圏だから、
芸術も共産主義的に行われるべきで、
やっぱり芸術には
意味がなくちゃいけないし、
プロパガンダとしての意味も
そこにはあって、
その中で表現したことって、
すごくかっこいいものとして、
ここ20年ぐらい、
再評価されていますよね。
そういうロシアの
アバンギャルド芸術のニュアンスが、
この貯金奨励ポスターにもありますね。 |
新田 |
アバンギャルドですね、うん。
この、ふかし具合というか、
エアブラシも
普及してないような時代だろうに。 |
ほぼ日 |
レタリングも、
すごくかっこいいですよね。 |
新田 |
おそらく、ロシアの
アバンギャルドみたいなものが、
村山知義などを通して、
日本の芸術界に入ってきて、
という流れでしょう。 |
ほぼ日 |
同じように戦争に巻き込まれて、
銘仙を仕立て直してもんぺにしたら、
けっこう派手になっちゃった
という話もありましたね。 |
新田 |
そうです。
|
ほぼ日 |
当時、派手なおばさんが
いっぱいいたようですね。 |
新田 |
カーキやオリーブグリーンの
国防色も流行しましたが、
新しいものには
お金がかかりますもんね。 |
ほぼ日 |
だって、女性の5割が、
銘仙のような
派手な着物を着ていた時代から、
あるもので仕立て直して
もんぺを作りましょうっていったら、
派手に決まってますよね。 |
新田 |
そう考えると、戦争って暗くて
カーキ色のイメージがあるとは
思うんですが、
意外と、派手だったんです。
戦後の話になりますが、
展覧会場では、
アメリカ従軍カメラマンの
フェーレイスが撮影した
カラースライドが上映しています。
終戦直後の東京の風景とともに、
銘仙の派手なもんぺ姿の女性たちを
リアルに見ることができますよ。 |
ほぼ日 |
おしゃれな代用品も
けっこうあったんですよね。
この内側に花柄のあて布を使った
ヘルメットも、
関東大震災以降の、
派手な文化のなごりですよね。 |

*花柄緩衝材入りヘルメット |
新田 |
ええ。 |
ほぼ日 |
防空頭巾も、
花柄で、派手ですよね。
これだと、目立っちゃいそうですが。 |

*花柄の防空頭巾 |
新田 |
代用品のイメージというのは、
物資が不足していたことを
表わすように伝えられることが
多かったので、
そのように捉えられがちですけど、
すでに、戦争が始まる前の、
物資が豊富になりつつあった時代を
経験した人たちが、
なにかと制限の多い世の中になっても、
おしゃれをしたいという気持ちは、
なくならなかったんですね。 |
ほぼ日 |
そこらへんの印象が、
この展覧会を見ると変わりますよね。 |
新田 |
その確信を強めたのが、
やっぱりこの、灯火管制用の、
紙製のランプシェードの柄なんです。 |

*紙のランプシェード |
ほぼ日 |
派手ですね。
こんな柄にする必要ないのに。
|
新田 |
これは、もうまさに、
企画商品といっても
いいようなものです。
なぜかというと、
灯火管制っていうのは、
夜になると外から飛行機が、
空襲でやってきたとき、
電気が窓から漏れていると、
狙われてしまうというので、
窓の外に明りを漏らさないために
作られたものなので、
スポットライトみたいなかたちで、
真ん中しか照らさない。
そうするためには、
専用のマスキングをした
電球というのをつけて‥‥ |
ほぼ日 |
電球からして違ったんですね。 |
新田 |
ええ。
で、さらには、
ランプシェードの光が、
拡散しないように、
布でもなんでも被せて、
真下しか照らさないようにしなさい
っていうような指導が、
国からあったんですね。
それだったら、
それまで普通に使っていた
ランプシェードに、
黒い布を被せればいいだけの
話なんですけれど。 |
ほぼ日 |
ですよね(笑)。 |
新田 |
なのに、紙という、
流行りの代用素材を使って、
ボール紙の遮光性を売りにして、
花の柄をつけるという。
これは、やっぱり
消費を喚起するもの以外、
何ものでもないんじゃないのかな、
と思います。
だから、素材に関しては
制限があったけれど、
その制限の中で、
このほうが気持ちがいいかな?
というような、
気分を求めていた日常が、
戦時中にもあったのではないでしょうか。 |
ほぼ日 |
なるほど。
毎日を少しでも明るい気持ちで過ごしたい、
というようなことは、
いまと変わらず、
当時の人たちも思っていたんですね。
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