芳賀 |
源内のところには
いろんなお店の旦那さんもやってきて、
源内先生、ウチの商品がどうも売れないんだけど
何かないかなぁ? なんて。
それじゃあ、ウナギは土用の丑の日に、って。 |
糸井 |
あれは、ほんとの話なんですかね。
コピーライターっていう商売では
「土用の丑の日」っていうのを考えたの、
源内だということになっているんですよ。
土用にウナギを食べるのは
それより前からあるとも言われていて
ちょっと、あやしいんだけれど。
つまり、キャンペーンの始まりだと
いうことですよね。 |
芳賀 |
うん。なんで丑の日にウナギだったんだろう? |
糸井 |
何も関係ないらしいですね。 |
芳賀 |
あ、そうですか。
何にも関係ないところがいいのかもしれませんね。
丑の日に、急に奮い立つんだね。 |
糸井 |
ええ。それ、素晴しいなと思うんですよ。 |
芳賀 |
頭文字の「う」だけがつながってるから。
「うし」と「うなぎ」とね。 |
糸井 |
そうですね(笑)。あ、それは、ありますね。
ウナギ屋なんかに、
「う」だけ書いてありますよね。 |
芳賀 |
あるかもしれませんね。 |
糸井 |
江戸文化って、言葉が重なってるだけのことで、
ずいぶんやってますからね。 |
芳賀 |
うん、そうそうそう。
そういう遊びをしょっちゅうやってますからね。
いい文化ですねぇ。いい時代ですよ。 |
糸井 |
面白いですね(笑)。 |
芳賀 |
糸井さんみたいなのが
何百人、何千人といたわけだ。 |
糸井 |
(笑)みんな、そんなバカなこと
考えてたわけですねぇ。 |
会場 |
(笑) |
糸井 |
いや、素晴しいなと思うのが、
たとえばある町に、インテリたちが集まるだとか
文化人が集まるだとかっていうと、
たとえばサルトルとボーヴォワールがいた
喫茶店が、ラ・クーポールといいまして、とか、
よくそういう話がありますよね。 |
芳賀 |
うんうん。 |
糸井 |
だけど、なんか一色なんですよ、話が。 |
芳賀 |
うん、そうね。実存主義で一色ですね。
黒いシャツ着てね。 |
糸井 |
いわば、組織的なんですよね。
だけど、源内のところには、おしゃれがある、
西洋がある、国益がある(笑)。 |
芳賀 |
学問がある、蘭学がある。
国学だってあるし、絵もあるし、
エレキテルもあるし。
それから、寒暖計もあるし女の人の櫛もあるし。
あの、お財布も煙草入れもあるし。
源内はいつもあれは、いい着物着て、
恰幅が良かったそうですからね。 |
【闡幽編:安原枝澄ほか】 (財)鎌田共済会郷土博物館・個人蔵
|
糸井 |
バッラバラなものがぜんぶあるっていうのは、
「豊かさ」だと思うんですよ。 |
芳賀 |
ああ! ほんとだ。ほんとだ。
そうですよ。で、なんか、
排除したり整備したりしないですね。 |
糸井 |
しないですね。 |
芳賀 |
これそうすると、豊かにバラバラだと、
いつのまにかそのバラバラが
お互いに繋がったりするからね。 |
糸井 |
そうですね。 |
芳賀 |
それはいいんですね。 |
糸井 |
思いもつかない繋がり方が。 |
芳賀 |
人の頭は、考えたんじゃ出てこない繋がり方が、
雑然たるものがあることによって、
クシャッと磁石が変わるものですからね。 |
糸井 |
カオスですよね、いわばね。 |
芳賀 |
ね、うんうん。確かにそういうことはありました。 |
糸井 |
芳賀先生のお話に、そういうの、
とっても好きだっていう様子が、
よく表れてますよね(笑)。 |
芳賀 |
ああ、そうですか(笑)。 |
糸井 |
芳賀先生も、ご自分のお話ですから
言いにくいのかもしれないですけど、
興味の持ち方が、やっぱり飛び飛びに‥‥。 |
芳賀 |
あ、どうも、ほんとにすいません。 |
会場 |
(笑) |
芳賀 |
で、飛んでった先でチョコチョコっとやって、
またこっち、チョコチョコっとかね。 |
糸井 |
で、そのへんで源内に共感なさるっていいますか。 |
芳賀 |
まぁ、どうでしょうか。いつかわたくしが
『平賀源内』っていう本を書いて、
サントリー学芸賞をもらったときに、
サントリー文化財団の専務の人が間違って、
平賀徹さん、って呼んだんです。
それはひじょうに嬉しかったです(笑)。 |
会場 |
(笑) |
芳賀 |
芳賀源内、平賀徹というので。
まあ、でも、そういうこと大事ですね。
これからまだまだ大事ですよ。
あんまりこう、縦軸・横軸で整理せずに、
わざと雑然とさせる。
で、雑然としたところで、
思い掛けない繋がりが出てくる。
インターネットが形成される。 |
糸井 |
つまり、今っていうのは、
映画の『マトリックス』じゃありませんけども、
縦軸・横軸で、
中心軸からどのくらいの距離であるから、
どのくらいの番地であるというか、
碁盤の目の番地でしか、
表されないもの同士の関係ですね。 |
芳賀 |
うん、なるほどね。 |
糸井 |
大きさもわかんなければ、場所もわかんない。
だけど、これとこれは
ウナギと丑の「う」がいっしょだから
いいじゃないか、とか。 |
芳賀 |
ついでに、ウナギの蒲焼きのことを、
「サイテヤーク(裂いて焼く)」と、
源内が名付けたと言われますがね。
ありゃあ、ほんとかねぇ。 |
糸井 |
はぁ〜! |
芳賀 |
いつかNHKの番組でね、その真偽を訊かれて、
ほんとに源内が「サイテヤーク」と言いましたか?
なんて。そんなの書いてないわけですよ。 |
糸井 |
これ、タモリさんのレベルですよね。 |
芳賀 |
しょうがないからわたくしが出て。
「えー、そんなふうに言った記録は、
何もありませんが、
しかし源内のことだから
言ったかもしれません」と、
そうお答えしましたけどね。
いかにも面白いですね。
ウナギのことをサイテヤーク。 |
会場 |
(笑) |
芳賀 |
それから、もうひとつあるのが、
源内が発明した機械をグルグル回して、
蚊取り機械があったんだそうです。
蚊取り線香じゃなくて。 |
糸井 |
蚊取り機械。 |
芳賀 |
うん、蚊を捕る機械。
それで、マーストカートル、
っていう名前を付けたんです。
それはほんとに、源内実記という、
源内没後にいろんなうわさ話を集めた本の中に
あるんですね。
ほんとに、いかに糸井さん式だったか。
だから今日は糸井さんが相棒で
ひじょうにいいなと思って。 |
糸井 |
あははは!
僕は芳賀先生が何でも知ってると思って、
もうあてにして来たんですけども、
やっぱり自分とも関係ありますね。 |
芳賀 |
ね、そうでしょ?
コピーライティングの走りですしね。
あの「清水餅」(きよみずもち)
っていうのも餅屋さんに頼まれて、
その宣伝文句を書いた。それから何でしたっけ、
歯磨き粉の宣伝文句。何か逆宣伝ですよ。
これを使えば、ほんとに歯がきれいになる。
口の臭いのもぜんぶ取れる。
だからやってみろ、
どうせ間違ったって安いもんだから損はしない、
とかいう、そういう広告。
清水餅のほうは、
これは甘くて美味しいというのが、
ワーッとこう書いておりますけどね。 |
糸井 |
春信から後ろの浮世絵っていうのも、
ちょうど今のブロマイドだとか、
広告のグラビアだとかの役割をしてたって
いうわけですから。 |
芳賀 |
ああ、そうですね。うんうん。
今よりもっとこう芸術品で、
もっと美しいですねぇ。 |
糸井 |
ですよね。 |
芳賀 |
あの春信が描いた、「柳家お藤」とか
「笠森お仙」。ねぇ。 |
糸井 |
春信はきれいですねぇ〜。 |
【採蓮美人:鈴木春信】 東京国立博物館蔵
|
芳賀 |
うん、ああいうのは、
ほんとに何でもない普通の人が買ったんですよ。
江戸見物に来た人、京都から江戸に下ってきた人、
そういう人が、最近大いに売れてる春信先生の
大和錦絵というんだそうだ、
といって買って帰る。なんでもない人々がね。 |
糸井 |
う〜ん、いいですねぇ! |
芳賀 |
ねぇ! 文化の水準の高いこと。
源内、春信の時代の文化に比べると、
今の日本はなんと文化の地に落ちたことか。 |
糸井 |
つまらないですねぇー。 |
芳賀 |
だから糸井さん、頑張って下さいよ。 |
会場 |
(笑) |
糸井 |
いやぁ、頑張りたいですよ、その‥‥。 |
芳賀 |
マーストカートル。サイテヤーク。うん。
我々は小さいころ、よく、スカートのことを
スワルトファーなんて言いましたよ。言いません? |
会場 |
(笑) |
糸井 |
ああ。ヒネルトジャー(水道)もありますね。
オストアンデルっていうのもありますよ。 |
芳賀 |
あれみんな平賀源内式。 |
糸井 |
外国語を学んでるうちに、
リズムに反応したんでしょうね。 |
芳賀 |
今、薬の名前っていうのは、
よくそういうのが多いですね。 |
糸井 |
ああ、ありますね。 |
芳賀 |
ノムトデールとか。 |
糸井 |
ケロリンなんていうのはもうすでに。 |
芳賀 |
うまいことやるね(笑)。
どうもやっぱり源内のころからの、
ああいう戯れ言葉、ダジャレの続きですね。
|