ほぼ日 |
人相のデータベースである「相学」か。
面白いですね!
応挙が、相学を使ったことが
よくわかる例はありますか? |
江里口 |
『七難七福図巻』がそうですね。
要するに悪人は悪人のパターンの顔、
いかにもっていう感じで。 |
『七難七福図巻(人災巻)』(部分)(重要文化財)円山応挙 萬野美術館蔵
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ほぼ日 |
ものすごいリアリティですね。
いかにも実際に目撃した、
事件写真のような構図なんですけれど、
ただ、視点が「高い」ですね。
空から見下ろしたような構図です。
つまり、これは、神様の視点というか、
仏教の教えを描いたんですか? |
『七難七福図巻(天災巻)』(重要文化財)円山応挙 萬野美術館蔵
↑絵をクリックすると拡大図を別ウインドウで開くことができます。
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江里口 |
ええ。やっぱり悪いことをすると
こういう災難に遭いますよと、
そういう教えがあるらしいです。
仁王教(にんのうきょう)の教えで
7つの災難と7つの福を。 |
ほぼ日 |
なるほど、この人々の表情が
相学に由来するんですね。
悪人の悪さと善人のよさが
すごくはっきり分かります。 |
『七難七福図巻(天災巻)』(部分)(重要文化財)円山応挙 萬野美術館蔵
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江里口 |
典型的な顔で描いてますね。
でも地震の絵にも、ほら、
ここに犬がこけてる。やっぱり。 |
『七難七福図巻(天災巻)』(部分)(重要文化財)円山応挙 萬野美術館蔵
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ほぼ日 |
あっ! 何かかわいいものを
混ぜずにはいられない! |
江里口 |
『七難七福図巻』は圓満院祐常からの依頼で
完成までに4年かかっているんですよ。 |
ほぼ日 |
4年! たしかに、一人描くのに、
例えばこの乾布摩擦をしてる人は
どういうふうに肩甲骨が寄るのかな、
っていうのも、
写生に基づいているんでしょうから、
下絵にしても、そうとうな時間が
かかったでしょうしね。
地震だってそう滅多にないだろうから、
エキストラ呼んで、
一斉にあわてふためいてもらったり? |
『七難七福図巻(福寿巻)』(部分)(重要文化財)円山応挙 萬野美術館蔵
↑絵をクリックすると全体の拡大図を別ウインドウで開くことができます。
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江里口 |
一度に人を集めたかどうかは
わかりませんけれど(笑)、
実際に写生で描いたものを
元にしたんじゃないかと思いますよ。 |
ほぼ日 |
ところで骸骨もいましたよね。
あれは何ですか?
すごい不思議だったんです。 |
江里口 |
『波上白骨座禅図』ですね。
波の上で座禅を組んでるから、
何か宗教的な意味合いがあるんじゃないかと
言われているんですけども、
はっきりしたところはわかりません。 |
『波上白骨座禅図』円山応挙 大乗寺蔵
*展示は終了しています。
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ほぼ日 |
でもここまでお話を聞いてきて、
応挙が骸骨が描きたい気持ちは
分かる気がします。
解剖学的な興味のある人だから。 |
江里口 |
ええ。そこにね、座禅させてしまう、
っていうところにたぶん何か
意味合いがあったんじゃないかと
思いますけどね。 |
ほぼ日 |
実際に骸骨を見る機会があったのかなあ? |
江里口 |
この頃、腑分けが行われ始めているので。 |
ほぼ日 |
腑分け。解剖ですね。
機会はあったかもしれないんですね。 |
江里口 |
機会はあったと思うんですけど、
実際見たかっていうところの記録がない。
監修をなさった佐々木先生が、
知り合いの外科医にこれを見せたら、
かなりこれは正確な骸骨だと。 |
ほぼ日 |
ほお。 |
江里口 |
頭の上のとこに、神経を通す小さな穴が
ちゃんと描かれていて、
これは本格的なものだと
おっしゃっているそうです。 |
『波上白骨座禅図』(部分)円山応挙 大乗寺蔵
*展示は終了しています。
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ほぼ日 |
それから、歯が抜けているんですよね。
こういうところも、リアルですね。
しかし、応挙、奥深いですね。
作品も多くて。 |
江里口 |
いろんなパターンがあるっていうか、
犬のイラストっぽいのがあるかと思ったら、
『氷図』みたいなのがあったり。
大きい山水画だけじゃなく、
かわいらしいものもあれば、
ユーモアのある虎もいるし。 |
ほぼ日 |
会期中も何度か作品を
入れ替えるわけですね。
すごい数ですよね。
応挙自体、生涯に描いた絵の数も
かなりの数にのぼるんですよね。 |
江里口 |
ええ、すごいですよ。 |
ほぼ日 |
消失したものがだいぶあっても、
まだこれだけあるのだから、
もっとすごくいっぱい
あったってことですよね。 |
江里口 |
この展覧会を始めてから。
うちにも応挙がありますという
御連絡を、毎日いただくんですよ。 |
ほぼ日 |
ええ〜? |
江里口 |
残念ながら、応挙は贋作も多いんです。
明らかに違うのだけれど、
落款には「応挙」と入っている作品が
たくさん出てきています。
いかに、後世、応挙の絵が好まれたか、
っていうことのあかしですね。 |
ほぼ日 |
人気があったんですね。
ちがいって、すぐわかるものですか。
それは素人目に、僕らが見ても分かるくらい? |
江里口 |
うん、ありますよ。ぜんぜん違うの。
この展覧会を見た後は、特に。
いま常設展示室で、
応挙の『牡丹孔雀図』の孔雀を真似た
『孔雀図杉戸』を出しているんですね。
それは明治30年代に、円山四条派の画家
国井応陽によるものなんですが、
時代を経て、精神が受け継がれず、
技術だけが受け継がれるっていうのは
こういう感じなのかなあと
思ってしまうほどなんです。 |
『牡丹孔雀図』(重要文化財)円山応挙 萬野美術館蔵
『孔雀図杉戸』(部分)国井応陽 江戸東京博物館蔵
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ほぼ日 |
応挙の精神は受け継げなかったのか‥‥。
応挙の作品には、深みがあるっていうか、
余韻っていうか、何かがあるんですね。
何かちょっと絵に靄がかかってるような、
独特の色っぽさがあるんですよね。
あの‥‥応挙の真筆が
オークションに出たとしたら
いくらぐらいなんですか? |
江里口 |
この間、買いませんかというお話が
あったんですが、
それは時価1億くらいだそうですよ。
ものによると思いますけれど、
やっぱり数千万はするものも
あるんじゃないでしょうか。 |
ほぼ日 |
そうですか。すみません、下世話で。
今回の展覧会は、
画材も展示されていましたね。
筆箱や筆は本人が使ってたものなんですか? |
江里口 |
円山派のものですね。
幕末くらいのものらしいんです。
この所蔵していた植松家っていうのは
ご先祖が応挙の弟子になったっていう人の
おうちなんですよ。 |
画材 植松家伝来資料 個人蔵
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ほぼ日 |
そういうものが見られるのも、
応挙を身近に感じられて、よかったです。
会期、あとわずかですね。
これを読んだひとが、
見に来てくださるといいですね。
どうも、ありがとうございました! |