ほぼ日 |
今回の展示は、「尊攘」と「東照大権現」の
ふたつの大きな書が対照的に展示されたり、
黒船のサスケハナ号と
その15年後の蒸気軍艦の開陽丸があったり、
もちろん近藤勇と土方歳三だったりと、
コントラストがはっきりしていますね。
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土方歳三肖像写真パネル
(佐藤家蔵/写真提供=
日野市ふるさと博物館) |
近藤勇肖像写真パネル
(佐藤家蔵/写真提供=
日野市ふるさと博物館) |
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市川 |
ええ、それを強く意図しました。
なかなかわかりづらいかもしれませんが、
手紙のコントラストっていうのもあります。
近藤勇の手紙と、
土方歳三の手紙っていうのが、
ほんとうに対照的なんですね。
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ほぼ日 |
どれを見たらわかるんですか?
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市川 |
たとえばですね、
まず近藤勇の書簡は、
壬生浪士組の結成のいきさつが
くわしく伝えられているもの。
重要な書簡なんですけど、
とにかく近藤の書簡はね、
天下国家を論じるわけです。
あとは親孝行の話なんです。
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近藤勇書簡(清川一件)(小島資料館蔵)
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ほぼ日 |
まさしく武士の「忠」と「孝」。
土方はどうですか。
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市川 |
これもまた面白いんですけど、
いちばん有名なやつはですね、
これでしょうね、きっとね。
新選組ファンだったらあまねく知ってる、
小島鹿之介宛の土方歳三書簡。
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土方歳三書簡 小島鹿之介宛(小島資料館蔵)
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ほぼ日 |
あー、これは読みました!
もてて、もてて、っていう。
本題は、親戚の子の入隊を断りたいという
依頼の文章なんだけれど、
なんだか話題が逸れて、
「モテ自慢」になるんですよね。
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市川 |
15人ぐらい女の名前を挙げて、
「報国の 心ころを わするゝ 婦人哉」
なんて、これ、めちゃくちゃいいでしょう?
これだから土方って
人気あるんだろうなって。
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ほぼ日 |
もてる男は違うんですよね(笑)。
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市川 |
堅くないんですよ。
けれど近藤はね、
とっても堅いんですよ。
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ほぼ日 |
これがおんなじグループにいたんですよね。
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市川 |
同じグループにいたんですよねぇ。
その組み合わせの妙が
新選組の魅力だったりするんだろうな、
なんて思うんですけどね。
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ほぼ日 |
近藤の違う側面は見られない?
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市川 |
実は今回は、近藤勇の柔らかい歌を、
ひとつだけ、発見してるんですよ。
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ほぼ日 |
え? なんという?
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市川 |
和歌色紙なんですけど。
2首ありましてね。ひとつが
「いかにせん 世のさまみれは
かれもまた みなきみかたと
言ひもはてにき」
もうひとつが、
「をしからぬ 命一つを二つ三つ
四つもほしきは君がためかは」
後者が、近藤らしからぬ、めずらしい、
艶のある歌なんですよ。
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近藤勇筆 和歌色紙「いかにせん」「をしからぬ」
(市立函館博物館 五稜郭分館蔵)
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ほぼ日 |
なんか、ロマンチックですよ。
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市川 |
しかも品がよくて、人間的で、
めちゃくちゃいいですよね。
純粋な感じがしますよね。
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ほぼ日 |
純ですよね。
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市川 |
純ですよね、近藤は。
そういうふたりのパーソナリティの
コントラストみたいなものも
やっぱり面白いですよね。
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ほぼ日 |
糸井事務所は三田にあるんですが、
周りは赤羽橋とか品川とか泉岳寺とか、
幕末のゆかりの地が多いんです。
清河八郎なんか一の橋で斬られてますよね。
あのあたりっていうのは、
その当時、討幕派と攘夷派が
入り乱れてるころじゃないですか。
町中の様子っていうのは
どんな感じだったんでしょう?
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市川 |
そうですよね。
知識の上で、たとえば開港したとか、
貿易が始まったっていうのは、
皆さん知ってるんですよ。
日米修好通商条約を皮切りに
5ヶ国とまったく同じような条約を結んで、
世界市場の中に入っていくわけですね。
貿易が始まるってどういうことか、
あんまりリアルには伝わらないですよね。
江戸東京たてもの園の展示では、
そういうところが
よくわかるようになっています。
開国を肌身で感じるのは、
外国人が江戸にやってくるように
なるっていうことなんですよ。
で、それに対する驚きとか、
好奇のまなざしとかを、
まずは変化のひとつとして
見ていただきたいんですよね。
国を憂える人々がいたいっぽうで
面白おかしくして
商売にしてる人がいたりとか。
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ほぼ日 |
物見遊山系の人たち。
ねぇ! お調子者ですよね、みんな。
アキンドが多い(笑)。
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市川 |
ここぞとばかりに茶屋つくって。
遠眼鏡を見てるおじさんがいるでしょ?
あれ、持参してるはずないんです。
あんなの持ってませんから。
だから、あれはね、貸してるんです。
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茶店から黒船見物を楽しむ人々「黒船来航風俗絵巻」より
(原資料館蔵/写真提供=埼玉県立博物館)*たてもの園展示
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ほぼ日 |
レンタル遠眼鏡!
オペラグラスレンタルだ。
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市川 |
むかしデパートの上には、
必ず望遠鏡があったでしょう?
ああいう文化を、やっぱり日本人は
持ってるんですよね。
それはね、外国人が来る前から、
駒形堂みたいなとことか、
隅田川越しに本所のほうを見るのに、
貸しメガネ屋さんが出たりとか
してるわけですよね。
ペリー来航の衝撃は、
確かに一部の人にとっては
衝撃なんですけど、
それは日本人の受け止めた
ペリーのイメージの、
ごく一部を切り取ってるに過ぎないんです。
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ほぼ日 |
じゃあ、普通の人っていうのは、
もっとなんか、楽しんだというか。
もうそれこそ宇宙人が来た!
みたいな。黒船はUFOみたいな。
そりゃ、見に行くかも、僕も(笑)。
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市川 |
ええ、物見遊山で見るわけですよ。
さらに言うとね、
もっと細かく分かれるんです。
たてもの園で展示しているなかに
「あわて絵」というものがあります。
これは、たとえば文久2年、
生麦事件があって、賠償金問題で
イギリスと幕府の間でもめるんですよね。
法外なお金を要求され、
その金額をめぐって、
なかなか交渉が妥結しない。
イギリス艦隊は、怒って、
江戸に近づいてきて、威嚇をする。
そうするとですね、
やっぱり対応がふたつに分かれるんです。
江戸の市民の中でも、
平気な人と平気じゃない人といるんですよ。
平気じゃない人たちっていうのは、
財産を持ってる人たちなんです。
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新作浮世道中(町田市立博物館蔵)*たてもの園展示
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ほぼ日 |
あ〜!
守らなきゃいけないんだ。
取られちゃう(笑)。
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市川 |
でも、平気な人がほとんどなんです。
宵越しの銭を持たないぐらいの人たちは、
財産なんかないんですから。
で「あわて絵」っていうのは、
お金のない、その日暮らしの人たちが、
金持ちを揶揄している絵なんですよ。
財産を大八車に乗っけて、
あわて坂っていう坂を昇る人、
度胸ヶ原で酒盛りしてる人‥‥。
だから、ペリー来航がもたらした影響は、
我々が教科書で学んだような
一面的なものではないんです。
でもまあ、これは新選組展ですから、
ほんとに一部を取り出しているんですが。
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ほぼ日 |
うん、背景として。
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