江戸が知りたい。
東京ってなんだ?!

新選組の生きた時代。 第3回
武器をとって立ち上がった人々。

市川 ね、なんとなく日本は後進国で、
先進国の製品がダーッて来るように
思うじゃないですか。
ほぼ日 違うんですか?!
市川 ぜんっぜん違います。
ものっすごい黒字なんです。
ほぼ日 へぇー。ははー。
何を外国に‥‥。
市川 何を売ったか。それが生糸なんです。
生糸とお茶なんです。
ほぼ日 お茶も?
市川 ええ、生糸とお茶なんですが、
なんといってもデカイのは生糸なんですよ。
ほぼ日 そんなに珍しかったんですか?
市川 価格がぜんぜん違うんですね。
しかも品質がとても高かったんです。
たとえば八王子が、
すごく織物が盛んな町なんですね。
でも開港によって生糸が、
もうどんどん横浜に流れるんです。
それで、八王子のほうから横浜へと、
絹の道ができるわけです。
ほぼ日 なるほど。
そんなに黒字で潤っていたんですね。
とくに繊維業界。
市川 大商人の典型は、みんな呉服商なんです。
三井、白木屋‥‥。
ほぼ日 あ、越後屋とか。
市川 越後屋さん、松坂屋。
土方歳三が丁稚してた松坂屋。
ほぼ日 後にデパートになったところは‥‥。
市川 多くが呉服屋なんですよね。
彼らが金持ちになったのは、
武士階級に売ったからだけではなくって、
庶民を相手に商売したからだって
言われてますけども。
つまり、生産量も販売量も、
もう江戸時代初期とは
比較にならないほどですよ。
いっぽうで米の生産力が
ものすごい上がりますね。
米価が低迷すると、必然的に、
生産力の高いもののほうに
労働力がシフトしますから、
当然、加工品にいくわけなんです。
タバコ、生糸、紙。
で、幕末になると、
一定の市場の流通が成熟します。
生産者がいて、それを媒介する商人がいて、
織り子がいて、販売店があって。
そういう体系ができあがってるわけですよ。
で、それがね、貿易黒字によって、
崩れちゃうんですよ。
完成した流通過程ができあがってるときに、
もう原料の生糸だけダッて出てきますから、
もうみんな困っちゃうわけです。
織り子は困る、流通業者も困る、
加工業者も困る、みんな困っちゃうんです。
ほぼ日 作りたいのに原料がない。
市川 そこで持てるものと持たないものの、
ものすごい差が出るわけです。
生産者とか、生産者に前貸しをして
作らせてる商人が、
ものすごい儲けを得るわけですよね。
ほぼ日 あー、ちょっとした混乱が
生じるわけですね。
市川 ここで「たてもの園」の展覧会の
テーマその2になるんです。
新選組を生み出した土壌としての多摩。
新選組のような時代の精神を
共有してた幕末の時代っていいますか、
多摩だろうが江戸だろうが、
幕末的な心性は、
みんな分有してるところがあって。
それをわかりやすい言葉で言いますと、
正義感なんです。
国難に対して正義感を燃やした人たちが、
新選組になったんですね。
ペリーがやってきて開港して、
物価が上昇し、絹の生産業の中で
携わってる人たちが、
まったく仕事がなくなったりする。
一方でものすごい儲ける人がいる。
貧富の差がものすごい出るわけですね。
その格差をなくそうっていう
運動が始まるんです。
これ、一種の正義感なんです。
それがたとえば慶応2年の武州世直し一揆、
それからまったく同じ年の江戸の打ち壊し。
両方とも背景にあるのは、
どんなときもそうなんですけど、
人間の大胆な行動とかを支えているのは、
自分なりの正義感であったりするんです。
幕末の時代っていうのは、
やっぱり、人間の考えとか、
自分の心の中では止めとけない正義感が、
ぶつかり合った時代なんです。ですから、
武州世直し一揆っていったときに、
今まで一揆っていうのは
百姓が領主をやっつける一揆なんですよね。
で、世直し一揆が世直したるゆえんは、
儲けてる人たちが
打ち壊しの対象になってくわけですよね。
幕府がやられるんじゃなくて、
米屋がやられたりとか
金貸しがやられたりとかする、
そういう運動になって表れるわけですね。
世直しっていうのは、
世の中が間違ってるのを直すっていう
意味なんだけども、
「世ならし」っていうふうに読むんです。
「ならし」っていうのは、
平均するっていう意味ですよね。
つまり、本来人間平等だっていう発想に
基づいてるわけです。
でもそれが実際の行動となって
多くの人々をとらえた。
多くの人たちが、かたちは違うけれども、
自分なりの正義感にとらわれて、
武器を持って立ち上がるっていう、
そういう時代なんです。
ですから、慶応2年の一揆と、
農村で生まれた青年たちが、
草莽の志士として、
政治の舞台に求めて京都まで上っていく、
そういう心性には、
おんなじ根っこがあるんですよ。
ほぼ日 新選組が、あれだけ若者が
集まったっていうのは‥‥。
市川 突然変異で出てきたりするわけじゃなくて、
広くみんなが分有してる、
そういう精神なんです。
ほぼ日 はぁ〜、そういうことかぁ!
市川 そういう意味での、
新選組を生み出した
多摩っていうことを言ってるんですよ。
ほぼ日 なるほどね。
市川 でも正確に言うと、多摩じゃなくても
そういうこと他でも起きえたはずなんです。
ほぼ日 うんうん、そうですよね。
市川 実際に新選組の隊士を見ると、
もっと全国から来てるわけですよ。
ですから、これはもう、
多摩とか江戸とかっていうんじゃなくて、
時代の精神を見てるわけです。
人間をして武器を取らしめる
っていうのはね、すごいことなんですよ。
なかなか人間、武器を持って
立ち上がろうとなんてしません。
ほぼ日 そうですよね。
近藤勇とかも農村の子どもじゃないですか。
そういう中で、なぜ京都まで行って、
人を斬るところまでいくんだろう、
っていう興味が、
やっぱり深かったんですけど、
今のお話を聞いて、わかりました。
市川 正義のために人を殺す。
殺すなんて悪いことに決まってるんだけど、
でも、正義のために人を殺さざるを得ない、
そういう正義って何か、ってことですよね。
ほぼ日 はぁー‥‥そういうことかぁ。

明日につづきます!


2004-05-01-SAT

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