ほぼ日 |
あと、品川のお台場が、
このころ造られたって知りませんでした。
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市川 |
これも驚くべき技術なんです。
たった3ヶ月で3基造るんですよ。
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ほぼ日 |
すっごいですね。埋め立て事業ですよ?
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市川 |
埋め立てなんです。
お台場っていうのは、江戸湾岸沿いに、
前面に1、2、3、造って、
後ろに4、5、6って造るんですけどね。
嘉永6年の6月にやってきて、
また来るぞ! と捨てぜりふで
ペリー艦隊が去って行くわけですよね。
で、もう必ず1年後に来ることが
わかってるわけですから。
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ほぼ日 |
そうですね、焦りますよね(笑)。
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市川 |
どうしてここかっていうと、
ここに澪筋っていう筋があるんです。
海溝みたいなもんで。
船は、とくに軍艦みたいな大きな船は、
そこを通らないと入ってこれないんですよ。
座礁しちゃう。遠浅ですから、江戸湾は。
ここを押さえてしまえば、
入ってこれないんですよ。
ちゃんと理由はあるんです。
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品川御台場 五番台場平面図
江戸東京博物館蔵
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ほぼ日 |
糸井事務所から魚籃坂を上って
伊皿子を越え、坂を降りたら、
もうすぐ海だったんですよね。
たてもの園には、埋め立て事業がわかる絵が
展示してありましたね。
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市川 |
お台場って確定できないのが
残念なんですけどね。
当時の土木技術のあり方を示す、
ひじょうに興味深い絵ですよね。
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ほぼ日 |
できるまでが全部わかりましたね。
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市川 |
周りをまずガバッと囲んで水を抜いて。
石垣とか造って、最終的にまた水が満ちて。
そういう工法ですよね。
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ほぼ日 |
それを3ヶ月で‥‥。
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市川 |
3ヶ月で3基、ものっすごい金と人数が
投入されたんですよ。
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ほぼ日 |
すごいですよね。
人足はどこから集めたんですかね?
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市川 |
人足はね、江戸じゅうから。
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ほぼ日 |
江戸じゅうから集まって。
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市川 |
ええ。ものすごいですよ。
もう、すごい好景気に沸いたんですよ。
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ほぼ日 |
江戸の人、ヒマだっていいますからね、
町人はわりと、実際(笑)。
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市川 |
あの、そういう肉体労働をする人足は、
江戸にものすごいたくさんいたんですよね。
ま、必要でもありましたし。
そうすると人件費の高騰とかね、
いろんなとこで、
波及効果が生まれるんですけどね。
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ほぼ日 |
沸いたでしょうね、当時の江戸は。
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市川 |
沸いたんですよ、ほんとに。
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ほぼ日 |
自分がどっちにいったかって、気になるね。
武器を持つほうにいったか、
人足になったか(笑)、
物見遊山をしてたか、
それで稼いでたか。
やっぱり物見遊山かな、
「おー、お台場つくってる」なんて
メガネ借りて見てたりして。
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市川 |
(笑)。
では、そろそろ
新選組の話をしましょうか。
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ほぼ日 |
はい。質問があるんです、これ。
これって、下手なんですか?
それともデザインなんですか?
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近藤勇着用 稽古着
小島史料館蔵
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市川 |
まぁ‥‥ヘタウマっていう世界も
いまは、ありますけど。
これね、熱烈なファンが
いるんですよ(笑)。
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ほぼ日 |
僕らも好きです、これ。
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市川 |
この異様な絵は、やっぱり新選組のファンは
もうあまねく知ってる有名な絵ですよね。
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ほぼ日 |
惹きつけますよね。
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市川 |
これ、近藤勇の妻、ツネが刺繍した
ドクロっていうふうになってますけど、
私はこれ、近藤自身が
縫い付けたと思ってますけど。
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ほぼ日 |
はぁ!
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市川 |
ツネが刺繍したなんていう記録は、
ないんですよ。
刺繍したから妻だろうという
想像なんですよ。
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ほぼ日 |
あ、そうなんですか。
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市川 |
でもこれ、図録の参考資料にあるように、
ドクロの模様を染めた服。
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ほぼ日 |
かっこいいですよね(笑)。
ジュンヤワタナベ・マンみたい(笑)。 |
銃隊式沿革図「集中断の武士」「犬と武士」
写真提供=靖国神社 遊就館
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市川 |
これはやっぱり、
幕末の一種の流行であって、
幕末の武士たちが、
もう決死の覚悟、
「骨まで愛して」じゃないけど、
骨になっても戦い抜くっていう。
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ほぼ日 |
つまり、これを着てる人たちは、
武器を手に取った人たちのおしゃれで、
町人のおしゃれではないわけですよね。
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市川 |
町人のおしゃれではないです。
でも、そういう心性は、
やっぱり共有してたんですよ。
私は、そういう気持ちを込めながら、
あの、近藤がヘタながらに、
自分で勝手に縫ったんじゃないかなって
いうふうに思えてしょうがないんですけど。
ツネがそういう気持ちで縫ったとは、
ちょっと思えないんですよね。
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ほぼ日 |
これ、とにかく、勢いがあるんですよね。
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市川 |
やっぱり時代の精神なんですよね。
だから、近藤の個人的な趣味ではなくて、
歴史的には重要なのは、
そういう精神の発露であったって
いうことなんですよね。
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ほぼ日 |
それがたまたま下手で。
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市川 |
オリジナリティあふれる
かたちだったんですね(笑)。
私にはね、奥さんが縫ったとは、
到底思えないんです。
そういう精神に憧れた人が、
勝手に縫ったんじゃないか。
下手でもいいんですよ、
自分の心意気を表したいっていうか。
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