ほぼ日 |
司馬遼太郎さんなんかの本を読むと、
まず長州藩とか土佐藩とか、
坂本龍馬とかを読んで、そのイメージで、
新選組を見ると、見方が違うというか。 |
市川 |
うん、どうしてもネガティブですよね。
司馬さんなんかは、
土方は高く評価してるから、
まだ土方はいいんですよ。
土方はもう、評価されてるんですよ。 |
ほぼ日 |
そうですよね、土方が主人公の
小説『燃えよ剣』を書いてますから。
でも展覧会で重きをおいているのは
今回は、近藤勇ですよね。 |
市川 |
土方はもう、評価されてるんですよ。
司馬さんの目で見ても、
土方はひじょうに魅力的な人物として
映るんですよ。でも、やっぱり
近藤っていうのが、
新選組の本質的な部分を担ってて。
彼が評価されないっていうことは、
新選組をほんとの意味で
再評価っていうふうには
ならないんですよね。 |
ほぼ日 |
なんで評価されないんですか。 |
市川 |
たとえば、慶応4年の4月3日に流山で、
拘束されるっていいますか、捕まる。
で、そのときに、
近藤はもう逃げ切れないから、
ここで腹を切るというふうに言うわけです。
武士らしく逝きたい。
で、そしたらね、土方はね、
それは犬死にだって言うんですよ。
なにがなんでも生き抜け。
きっとそういう合理性が、
司馬さんの評価するところ
なんだと思うんですよ。
だって龍馬だって高杉だって、
もう最初は尊王攘夷なんて
言ってるわけですね。
でも上海行って、
こんなこと言ってる場合じゃねぇぞと
確信したり、
勝海舟に会って、目を開かれて転向する、
その柔軟さを、ある意味で
評価してますよね、司馬さんはね。
おそらく近藤は、そういう意味では
もう、真っ直ぐ過ぎるっていうか、堅いんですよ。
もう真っ直ぐにしか行かないんです。
そこがダメといわれるんでしょうねぇ。 |
ほぼ日 |
魅力的じゃないんですかね、描くのには。 |
市川 |
私はそういうふうに見えて
しょうがないんですよね。
土方の凄さって、ま、あとはまあ、
魅力的ですよ、やっぱり、いい男ですし。
硬軟織り交ぜみたいなね。 |
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土方歳三肖像写真パネル
(佐藤家蔵/写真提供=
日野市ふるさと博物館) |
近藤勇肖像写真パネル
(佐藤家蔵/写真提供=
日野市ふるさと博物館) |
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ほぼ日 |
そうですよね(笑)。 |
市川 |
土方いなけりゃ新選組はなかったって、
ま、それはそうだと思うんですけど。
ただし、バカさ加減っていいますかね、
バカ真っ直ぐっていいますか、
それがほんとうの武士の精神なんですよね。
で、新選組が評価されるとすれば、
やっぱりそういうところで評価されない限り
もう評価されないような気が
するんですよね、私は。 |
ほぼ日 |
不器用だけども、この、誠実というか。 |
市川 |
やっぱり、今の時代から見て、
最も遠くにいる人なんですよ。
今はこういう人、
まったくあり得ない社会ですよね。
で、だからこそ、こういう人たち、
近藤のバカさとか無私とか忠義とかって
いうところに、もう、価値が出るような
気がするわけなんですよね。
今まではほんとに、
敗者と勝者がすっかり分かれたんで
近藤は、朝敵であり賊なんですよね。
さらし首になって。子孫の人たちは、
もうたいへんな目に遭ったわけです。 |
ほぼ日 |
大変な時代を過ごした。 |
市川 |
ええ、関係する書類はみんな捨てたとか、
焼いたとか隠したとか、
どこ行ったかわからない。
やっぱり過酷な明治を生き抜いたわけですよ。
でも、よく考えてみて、
歴史の目で見てみたらですね、
勝ちも負けも、ほんとは
ないわけですよ。
たまたま勝っちゃったほうが、
負けたほうを悪者にしてるだけの
話であって、っていうところは、
やっぱりひとつありますよね。
そういう意味では、
まったくの私のない正義感に燃えた
若者たちが両方にいて。
で、両方とも、やっぱり、正しくって、
違いはなにかといったら、
唯一、勝っただけの話であって。
時代を駆け抜けた若者としては、
ほんとはイーブンに取り上げてあげないと
いけない、っていう意味での
再評価はひとつあります。
で、さらにもうひとつ言えば、
こういう現代の社会から見たときに、
およそ対極的な世界なわけですよ。
正義のために命を落とすなんて、
そんなヤツはいないわけですから、今はね。 |
ほぼ日 |
江戸博の展覧会は最後に
「新選組残影」という、
生き残った人にもスポットをあてていて。
生き残った永倉新八なんて、
明治時代をぜんぶ生きたわけですよね。 |
市川 |
そうですね、明治時代をずっと生きてます。
残影のコーナーでほんとに言いたいことは、
新選組へのオマージュなんです。
江戸、明治、大正を生き抜いた隊士からの、
新選組へのオマージュだし、
現在は新選組の時代とは
ほんっとに違う社会に
なっちゃったんですけども、
現代に生きる我々が捧げる、
新選組に対するオマージュですよね。
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