江戸が知りたい。
東京ってなんだ?!

新選組の生きた時代。 第7回
駆け抜けた先に、あったもの。

ほぼ日 司馬遼太郎さんなんかの本を読むと、
まず長州藩とか土佐藩とか、
坂本龍馬とかを読んで、そのイメージで、
新選組を見ると、見方が違うというか。
市川 うん、どうしてもネガティブですよね。
司馬さんなんかは、
土方は高く評価してるから、
まだ土方はいいんですよ。
土方はもう、評価されてるんですよ。
ほぼ日 そうですよね、土方が主人公の
小説『燃えよ剣』を書いてますから。
でも展覧会で重きをおいているのは
今回は、近藤勇ですよね。
市川 土方はもう、評価されてるんですよ。
司馬さんの目で見ても、
土方はひじょうに魅力的な人物として
映るんですよ。でも、やっぱり
近藤っていうのが、
新選組の本質的な部分を担ってて。
彼が評価されないっていうことは、
新選組をほんとの意味で
再評価っていうふうには
ならないんですよね。
ほぼ日 なんで評価されないんですか。
市川 たとえば、慶応4年の4月3日に流山で、
拘束されるっていいますか、捕まる。
で、そのときに、
近藤はもう逃げ切れないから、
ここで腹を切るというふうに言うわけです。
武士らしく逝きたい。
で、そしたらね、土方はね、
それは犬死にだって言うんですよ。
なにがなんでも生き抜け。
きっとそういう合理性が、
司馬さんの評価するところ
なんだと思うんですよ。
だって龍馬だって高杉だって、
もう最初は尊王攘夷なんて
言ってるわけですね。
でも上海行って、
こんなこと言ってる場合じゃねぇぞと
確信したり、
勝海舟に会って、目を開かれて転向する、
その柔軟さを、ある意味で
評価してますよね、司馬さんはね。
おそらく近藤は、そういう意味では
もう、真っ直ぐ過ぎるっていうか、堅いんですよ。
もう真っ直ぐにしか行かないんです。
そこがダメといわれるんでしょうねぇ。
ほぼ日 魅力的じゃないんですかね、描くのには。
市川 私はそういうふうに見えて
しょうがないんですよね。
土方の凄さって、ま、あとはまあ、
魅力的ですよ、やっぱり、いい男ですし。
硬軟織り交ぜみたいなね。
土方歳三肖像写真パネル
(佐藤家蔵/写真提供=
 日野市ふるさと博物館)
近藤勇肖像写真パネル
(佐藤家蔵/写真提供=
 日野市ふるさと博物館)

ほぼ日 そうですよね(笑)。
市川 土方いなけりゃ新選組はなかったって、
ま、それはそうだと思うんですけど。
ただし、バカさ加減っていいますかね、
バカ真っ直ぐっていいますか、
それがほんとうの武士の精神なんですよね。
で、新選組が評価されるとすれば、
やっぱりそういうところで評価されない限り
もう評価されないような気が
するんですよね、私は。
ほぼ日 不器用だけども、この、誠実というか。
市川 やっぱり、今の時代から見て、
最も遠くにいる人なんですよ。
今はこういう人、
まったくあり得ない社会ですよね。
で、だからこそ、こういう人たち、
近藤のバカさとか無私とか忠義とかって
いうところに、もう、価値が出るような
気がするわけなんですよね。
今まではほんとに、
敗者と勝者がすっかり分かれたんで
近藤は、朝敵であり賊なんですよね。
さらし首になって。子孫の人たちは、
もうたいへんな目に遭ったわけです。
ほぼ日 大変な時代を過ごした。
市川 ええ、関係する書類はみんな捨てたとか、
焼いたとか隠したとか、
どこ行ったかわからない。
やっぱり過酷な明治を生き抜いたわけですよ。
でも、よく考えてみて、
歴史の目で見てみたらですね、
勝ちも負けも、ほんとは
ないわけですよ。
たまたま勝っちゃったほうが、
負けたほうを悪者にしてるだけの
話であって、っていうところは、
やっぱりひとつありますよね。
そういう意味では、
まったくの私のない正義感に燃えた
若者たちが両方にいて。
で、両方とも、やっぱり、正しくって、
違いはなにかといったら、
唯一、勝っただけの話であって。
時代を駆け抜けた若者としては、
ほんとはイーブンに取り上げてあげないと
いけない、っていう意味での
再評価はひとつあります。
で、さらにもうひとつ言えば、
こういう現代の社会から見たときに、
およそ対極的な世界なわけですよ。
正義のために命を落とすなんて、
そんなヤツはいないわけですから、今はね。
ほぼ日 江戸博の展覧会は最後に
「新選組残影」という、
生き残った人にもスポットをあてていて。
生き残った永倉新八なんて、
明治時代をぜんぶ生きたわけですよね。
市川 そうですね、明治時代をずっと生きてます。
残影のコーナーでほんとに言いたいことは、
新選組へのオマージュなんです。
江戸、明治、大正を生き抜いた隊士からの、
新選組へのオマージュだし、
現在は新選組の時代とは
ほんっとに違う社会に
なっちゃったんですけども、
現代に生きる我々が捧げる、
新選組に対するオマージュですよね。

これにて第1回の取材ぶんはおしまいです。
すこし時間をおいて、第2回の取材の模様、
おとどけします。
新選組の池田屋事件の検証、
そしてここでもちょっと触れた
「生き残った人々」のことなどを、
さらにくわしくお聞きしていきます。


2004-05-05-WED

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