ほぼ日 |
なるほど。他の学芸員の皆さんは
どうおっしゃってたんですか? |
市川 |
「尊攘」の二大字ていう人もいますし、
中島登(のぼり)筆の
「戦友絵姿」も、いいですよね。 |
二大字「尊攘」松延年筆 弘道館蔵
戦友絵姿(新選組隊士姿図)中島登筆
市立函館博物館五稜郭分館蔵 |
ほぼ日 |
「戦友絵姿」は、
最後のほうに展示されていましたね。
これは後から書いたものですね。
明治3年。 |
市川 |
後から、供養っていうか、
なんか写経の世界のように思えて。 |
ほぼ日 |
思い出しながら、こう、みんなの‥‥。 |
市川 |
中島登って、個人的には
絵が好きな人だったんだろうけど、
見ればわかるとおり、素人なんですよ。
たとえば中島登の自画像があって、
机に向かってなんか書いてる。
この机の曲り方とか、
後ろにある棚の情けなさとか、
めちゃめちゃ素人なんです。
ハッキリ言って。 |
戦友絵姿(新選組隊士姿図)中島登筆
市立函館博物館五稜郭分館蔵
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ほぼ日 |
デッサン狂ってますしね(笑)。 |
市川 |
絵のイロハもわからない人に
筆を取らしむる心情‥‥。
1点1点見ていくと、
描き崩れがないんです。
これ、すっごい長い巻物なんで、
そういうものって、
最初は気合い入れて描いてても、
途中からいい加減になってきたり
することがあるんですよ。
でも、そういうのがね、ないんです。
下手は下手なりに、
一生懸命描いてるんですよ。
土方の陣羽織の裾に虎が描かれてますが
ほんとうに一生懸命描いてるなぁ、
って思いますよね。
写経みたいだなと思うんです。
写経も1字間違えたら描き直しですね。
集中力持って書かなきゃいけない。
そういうのに似てる。
下手なんだけど、
一生懸命、一生懸命、
一生懸命描いてるわけですよ。
絵の素人をしてね、
そういうことをさせしむる
エネルギーっていうか、
戦友に対する思いが、
やっぱりそうさせてるわけですよね。
そういう普遍的なものを、
感じるんですよ。 |
戦友絵姿(新選組隊士姿図)中島登筆
市立函館博物館五稜郭分館蔵
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ほぼ日 |
自分は「生き残って
この絵を描いている自分」なんですね。
生き残ってしまった自分から
戦友たちへのオマージュ、
なんでしょうね。 |
市川 |
芸術家が傑作を描くときって、
それなりのモティべーションがあって、
アーティストとして描かざるを
得ないような、そういう状況で
描くわけですよね。
描くことによって救われるっていうか。
そういうのを感じるんですよね。
僕らはまだ人生経験が少ないから、
文字で読むしかないわけですけど、
一緒に死ぬか生きるかっていうのを
くぐり抜けた人って
特別な思いがあるのでしょう。 |
ほぼ日 |
永倉新八の名前覚(なまえおぼえ)も
いいですね。 |
市川 |
ああ、はい。これ、彼が死ぬ直前に、
生涯に出会った人々の名前を
書き連ねているものですね。
これもね、展示しちゃうとね、
大したことないんですけどね。 |
ほぼ日 |
カタログをあらためて読んで、
ジーンとくるものがあるんですよ。 |
市川 |
そうですねぇ。
自分が死ぬ直前になって、
全部こうやって友人の名前を
書き出してくっていうね。
新選組の関係者の名前もあってね。 |
ほぼ日 |
何かやらなきゃ死ねなかった。
生きてしまった、ひと時代先まで
生きてしまったっていう気持ちが、
彼にこれを書かせたのかなって
思いながら見てました。 |
市川 |
うん、それはありますね。
この白髪の老人になって。 |
永倉新八肖像写真(前列中央)
写真提供:北海道開拓記念館
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ほぼ日 |
明治時代、永倉新八は
どういうふうに生きてたんですか? |
市川 |
彼はね、剣術の先生をしながら
過ごしてます。 |
ほぼ日 |
島田魁(さきがけ)も、
剣術の指導をしたりしたんですよね。 |
島田魁肖像写真(中央)
写真提供:霊山歴史館
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市川 |
そうですね。島田魁は、
もちろんやりましたけどもね、
西本願寺の警備員もしていました。
「夜警監督申付」という資料を
展示しています。 |
ほぼ日 |
この人は、大男だったんですよね。
このあたり、わりとドラマチックで、
エピローグとしてすごくいいなと
思いました。 |
市川 |
あと、スタッフの中には、
いちばん面白かったのは英名録だな、
っていう人がいてね(笑)。
名簿なんですよ。島田魁が書いてます。
これ、新選組の名簿の中では、
もっとも情報量が多いんです。
面白いのは、
隊士の出身が出てるんですよ。
武蔵江戸でしょ? 陸奥白河でしょ?
伊予松山でしょ? 備中松山でしょ?
常州っていうのは水戸ですよね。
薩摩もいれば、播州、肥後、筑後‥‥
和州っていうのは和歌山ですよね。
丹後、甲州、京都、浪花、
ほんとに全国区なんですよね。
で、これはね、やっぱり珍しい。
これはほんとに珍しいことですよね。
全国区なんですよね。 |
新選組英名録(部分)島田魁筆 霊山歴史館蔵
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ほぼ日 |
なぜ、最後の一部分だけ
筆が乱れてるんですか。 |
新選組英名録(部分)島田魁筆 霊山歴史館蔵
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市川 |
乱れてますね。
これがまたいいんですよ。
これ、芹沢鴨一派ですね。
ほんっとに初期のころ
粛清して死んじゃった人たちです。
これが書かれたのはおそらく
慶応の何年かだと思うんですけど、
どんどん書いていって、
あ、そういえば、初期のころ、
こういうヤツいたな、みたいな、
最後の付け足しなんですよ。 |
ほぼ日 |
芹沢鴨って‥‥。 |
市川 |
ドラマでは佐藤浩市ですね。 |
ほぼ日 |
そうでしたそうでした。
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市川 |
この英名録は後世になって、
歴史の後の立場から
振り返っているわけなんですけど、
やっぱりこれだけ全国区だった、
ということは、
ある意味で、これはもう単純に
幕府方とか、薩長方とか尊攘方って、
なかなかいえないんですよ。
おそらく、全国におんなじように、
ミニ近藤とかミニ土方っていうのは
ものすごいたくさんいて。
そういう人たちを
組み込んでいったんですよね。
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