江戸が知りたい。
東京ってなんだ?!

新選組の生きた時代。第11回
生き残った人は、その後。

ほぼ日 なるほど。他の学芸員の皆さんは
どうおっしゃってたんですか?
市川 「尊攘」の二大字ていう人もいますし、
中島登(のぼり)筆の
「戦友絵姿」も、いいですよね。

二大字「尊攘」松延年筆 弘道館蔵


戦友絵姿(新選組隊士姿図)中島登筆
市立函館博物館五稜郭分館蔵
ほぼ日 「戦友絵姿」は、
最後のほうに展示されていましたね。
これは後から書いたものですね。
明治3年。
市川 後から、供養っていうか、
なんか写経の世界のように思えて。
ほぼ日 思い出しながら、こう、みんなの‥‥。
市川 中島登って、個人的には
絵が好きな人だったんだろうけど、
見ればわかるとおり、素人なんですよ。
たとえば中島登の自画像があって、
机に向かってなんか書いてる。
この机の曲り方とか、
後ろにある棚の情けなさとか、
めちゃめちゃ素人なんです。
ハッキリ言って。

戦友絵姿(新選組隊士姿図)中島登筆
市立函館博物館五稜郭分館蔵
ほぼ日 デッサン狂ってますしね(笑)。
市川 絵のイロハもわからない人に
筆を取らしむる心情‥‥。
1点1点見ていくと、
描き崩れがないんです。
これ、すっごい長い巻物なんで、
そういうものって、
最初は気合い入れて描いてても、
途中からいい加減になってきたり
することがあるんですよ。
でも、そういうのがね、ないんです。
下手は下手なりに、
一生懸命描いてるんですよ。
土方の陣羽織の裾に虎が描かれてますが
ほんとうに一生懸命描いてるなぁ、
って思いますよね。
写経みたいだなと思うんです。
写経も1字間違えたら描き直しですね。
集中力持って書かなきゃいけない。
そういうのに似てる。
下手なんだけど、
一生懸命、一生懸命、
一生懸命描いてるわけですよ。
絵の素人をしてね、
そういうことをさせしむる
エネルギーっていうか、
戦友に対する思いが、
やっぱりそうさせてるわけですよね。
そういう普遍的なものを、
感じるんですよ。

戦友絵姿(新選組隊士姿図)中島登筆
市立函館博物館五稜郭分館蔵
ほぼ日 自分は「生き残って
この絵を描いている自分」なんですね。
生き残ってしまった自分から
戦友たちへのオマージュ、
なんでしょうね。
市川 芸術家が傑作を描くときって、
それなりのモティべーションがあって、
アーティストとして描かざるを
得ないような、そういう状況で
描くわけですよね。
描くことによって救われるっていうか。
そういうのを感じるんですよね。
僕らはまだ人生経験が少ないから、
文字で読むしかないわけですけど、
一緒に死ぬか生きるかっていうのを
くぐり抜けた人って
特別な思いがあるのでしょう。
ほぼ日 永倉新八の名前覚(なまえおぼえ)も
いいですね。
市川 ああ、はい。これ、彼が死ぬ直前に、
生涯に出会った人々の名前を
書き連ねているものですね。
これもね、展示しちゃうとね、
大したことないんですけどね。
ほぼ日 カタログをあらためて読んで、
ジーンとくるものがあるんですよ。
市川 そうですねぇ。
自分が死ぬ直前になって、
全部こうやって友人の名前を
書き出してくっていうね。
新選組の関係者の名前もあってね。
ほぼ日 何かやらなきゃ死ねなかった。
生きてしまった、ひと時代先まで
生きてしまったっていう気持ちが、
彼にこれを書かせたのかなって
思いながら見てました。
市川 うん、それはありますね。
この白髪の老人になって。

永倉新八肖像写真(前列中央)
写真提供:北海道開拓記念館
ほぼ日 明治時代、永倉新八は
どういうふうに生きてたんですか?
市川 彼はね、剣術の先生をしながら
過ごしてます。
ほぼ日 島田魁(さきがけ)も、
剣術の指導をしたりしたんですよね。

島田魁肖像写真(中央)
写真提供:霊山歴史館
市川 そうですね。島田魁は、
もちろんやりましたけどもね、
西本願寺の警備員もしていました。
「夜警監督申付」という資料を
展示しています。
ほぼ日 この人は、大男だったんですよね。
このあたり、わりとドラマチックで、
エピローグとしてすごくいいなと
思いました。
市川 あと、スタッフの中には、
いちばん面白かったのは英名録だな、
っていう人がいてね(笑)。
名簿なんですよ。島田魁が書いてます。
これ、新選組の名簿の中では、
もっとも情報量が多いんです。
面白いのは、
隊士の出身が出てるんですよ。
武蔵江戸でしょ? 陸奥白河でしょ?
伊予松山でしょ? 備中松山でしょ?
常州っていうのは水戸ですよね。
薩摩もいれば、播州、肥後、筑後‥‥
和州っていうのは和歌山ですよね。
丹後、甲州、京都、浪花、
ほんとに全国区なんですよね。
で、これはね、やっぱり珍しい。
これはほんとに珍しいことですよね。
全国区なんですよね。

新選組英名録(部分)島田魁筆  霊山歴史館蔵
ほぼ日 なぜ、最後の一部分だけ
筆が乱れてるんですか。

新選組英名録(部分)島田魁筆  霊山歴史館蔵
市川 乱れてますね。
これがまたいいんですよ。
これ、芹沢鴨一派ですね。
ほんっとに初期のころ
粛清して死んじゃった人たちです。
これが書かれたのはおそらく
慶応の何年かだと思うんですけど、
どんどん書いていって、
あ、そういえば、初期のころ、
こういうヤツいたな、みたいな、
最後の付け足しなんですよ。
ほぼ日 芹沢鴨って‥‥。
市川 ドラマでは佐藤浩市ですね。
ほぼ日 そうでしたそうでした。
市川 この英名録は後世になって、
歴史の後の立場から
振り返っているわけなんですけど、
やっぱりこれだけ全国区だった、
ということは、
ある意味で、これはもう単純に
幕府方とか、薩長方とか尊攘方って、
なかなかいえないんですよ。
おそらく、全国におんなじように、
ミニ近藤とかミニ土方っていうのは
ものすごいたくさんいて。
そういう人たちを
組み込んでいったんですよね。

次回で「新選組!」展のお話は、最終回です。


2004-05-21-FRI

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