── |
いま見てきたんですが、
面白くて! 展覧会が。 |
市川 |
面白かったですか!
よかったです!
ああ、そいつはほんとに嬉しいです。
ああー、嬉しい! |
── |
とくに寺子屋のところが
面白かったです。
江戸時代ののびのびした感じ、
うらやましい感じがしました。
寺子屋で学ぶ‥‥というか遊ぶ、
イキイキとした子どもたちの絵が
印象的でしたね。 |
▲寺子屋遊び(いたずら)歌川広重/画 公文教育研究会蔵
▲諸芸稽古図会(部分)歌川広重/画 公文教育研究会蔵
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市川 |
歌川広重ですね。
今回、絵は、公文教育研究会から
お借りしているんですが、
そこの研究者の方にお聞きすると、
やっぱり広重って、
子供が好きなんですって(笑)。 |
── |
好きですよねぇ(笑)!
ほんとうにイキイキとしてて。
寺子屋って何だったのかっていうのが、
いちばんよくわかりますよね。
たくさんの子どもたちが
寺子屋に通っている風に見えたんですけど、
実際‥‥みんなが行ってたんですか? |
石山 |
どれくらいの子供たちが
寺子屋に行ったのかっていいますと、
関西のひとつの村で、
7割から8割という研究があります。
で、関東農村ですと、もっと下がるんですね。
商品経済の発達した地域ですと、
だいたい4割から5割まではいくんですよ。
どんな農家でも。むしろ、準農村といって、
あまり商品経済の発達してない、
農業だけで生活してるような村ですと、
1割から2割くらいしかないっていう
村もあります。
地域によって様々なんですが、
日本の平均でどれくらいかって言われると、
40%くらいと言われます。 |
── |
江戸の市中はどうですか? |
石山 |
江戸はもっと高かったでしょうね。
ただ、実際の数値が出てないんです。
乙竹岩造さんという方が、大正期になって、
就学児童の数値と、
当時あった寺子屋の数を換算しているんです。
江戸時代の幕末には1200くらいの寺子屋が、
あったって言われてるんですが、
それを換算すると、
だいたい80%になるんですよ。 |
── |
関西の、経済の発達した農村が
7〜8割ってことは、
江戸の市中が8割でもおかしくないですよね。 |
石山 |
僕らも、感覚的にいって、
江戸はものすごかったと考えています。
これはやっぱり、経済の発展と
かなり強い相関関係があって。
商品的な農業生産が始まる前っていうのは、
そんなに文字を必要としない社会で、
技術的に言っても、
親から子に伝承されていくだけですむんです。
しかし、農作物を他所に売るようになると、
その段階になって初めて文字が
必要になってくる。例えば、出荷する時に、
どこに出せば高いのかとか、
いつ出荷すればいいのかって、
それは記録をとっとかないといけない。
例えば今年は寒い年だったから
このくらいだった、とか。 |
── |
ああ! そうですね!
口伝えでは、わからなくなりますね。 |
市川 |
どのタイミングで、
どの肥料入れたらよかった、
というような農法についても、
文字で記録をする必要が出てきますね。 |
── |
8割っていうのは、
残りの2割の子っていうのは
どうして行けないんですか。
お金ですか? |
石山 |
んー。必要ないってことなんですね。 |
── |
行かなきゃいけないものではない? |
石山 |
そうです。義務教育じゃないんですよ。 |
── |
だけど、8割ということは、
一般的な親は、子供を寺子屋に
通わせていたわけですよね。
でもなかには「必要がない」と
思っている親もいたということですか。 |
石山 |
特に男の子の場合は、
だいたい8歳から9歳になれば、
ちょっとした小遣い走りも、
仕事としてできますよね。
だから、働いちゃうんです。
男の子の場合はね。
でも女の子の場合は、
そうはいかないんですよ。
やっぱりなかなか肉体労働に
耐えられませんから、もう少し教養を積んで、
いいところへ嫁さんに行くために、
勉強しなきゃいけないっていう。
だから、今回の展示でも、
江戸の女の子がいかに忙しいかを
式亭三馬の『浮世風呂』を例に
説明しているんです。
『まアお聴きな、朝むつくり起ると
手習のお師(し)さんへ行て
お座を出して来て、
夫(それ)から三味線のお師さんの所へ
朝稽古にまゐつてね、
内へ帰つて朝飯(まんま)をたべて
踊のけいこから御手習へ廻つて、
お八ツに下ツてから湯へ行て参ると、
直にお琴の御師匠さんへ行て、
夫から帰て三味線や踊のおさらひさ。
其内に、ちイツとばかりあすんでね。
日が暮ると又琴のおさらひさ』
(式亭三馬 『浮世風呂』より) |
── |
江戸の女の子の
1日のスケジュールって! |
石山 |
超過密スケジュールですよね! |
▲諸芸稽古図会「おどり」(部分)歌川広重/画 公文教育研究会蔵
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市川 |
これはね、フィクションだと
みんな思ってたし、僕も思ってました。
面白おかしく書いてんでしょって。
ですけど、乙竹岩造さんて人の研究だと、
それに近いことが指摘されてるんですよ。
まずね、寺子屋だとね、
女の子は、休んじゃう子が多いんですよ。
ひける時間も早いんです。
ていうのも、お稽古があるから、
男の子に比べると早く帰っちゃうし、
休む日も多いんですよ。
でも、在学期間は、
逆に男の子よりも長いんです。
何でかって言うと男の子は、
もう10歳とかになると
力仕事とかできるようになっちゃう。
働き手として、どんどんどんどん
出て行っちゃうんですけど、
女の子はもうちょっと教養を積んで、
いいとこのお屋敷に奉公すれば、
将来何かがあるかもしれませんから。 |
── |
いいお嫁さんの口が。 |
市川 |
もちろん、もちろん。そう。
ほんとにそうです。
ご生母様になるっていう可能性まで
あるわけですから。
近代になると、等しく、みんな、
試験さえできればね、
末は博士か大臣かの世界になりますよね。
つまり、功利的な動機がすべての人に
平等に開放されてるわけです。
でも、江戸時代って身分制社会だから、
そういった功利的な動機は
ほとんど発生しないんだけど、
数少ない功利的な動機が発生してるのが、
江戸とか城下町の、女の子たちなんです。 |
── |
昇っていける可能性があるわけですね。 |
市川 |
昇っていける可能性があるんです。
だから鞭が入るんです。
で、自分もやんなきゃっていうのがあるし、
親もやれやれって話になる。
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