糸井 |
勝負ごとには、
逆風がずっと長く吹く時期がありますよね。
そういう時に、
藤田さんが努めてやることというと、
例えば、どんなことなのでしょうか?
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藤田 |
これは自分もそうだけど、1回、
「基本って何だったんだろうな?」
ということを、じっくりと考えるんです。
「基本をやってみようか」
だから走ることとか、守備の練習をしっかりやる。
ミニキャンプってよくやるでしょう?
ああいうものに選手を入れて、
体をまず動かせるようにした方が早いんです。
頭でなんぼ考えても、どうにもなりません。
だからたとえば、昔からよくやる方法で、
ロッカーにスケジュール表を張って、
勝敗をずうっと書いたものを掲示してから
「負けはきょうで終わりで、
汗もビュッと引いて、次の日から切りかえだ!」
なんてみんなに伝えがちだけど、
そんなことは何の役にも立たない。
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糸井 |
効果ないですよね。
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藤田 |
それに、縁起を担いで、
「月が変わったらツキが変わる」
‥‥そんなもの、当てになりません。
やっぱり体を動かしてやるしかないんですね。
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糸井 |
なるほどなぁ。
間違いなく向上することをやって取り戻す。
守備練習ですね。
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藤田 |
やっぱり、成績が悪いという結果は、
体がうまくキレなかったり、
バッティングが落ちたりすることの
あらわれですから、
体のキレをよくするのには、やっぱり、
キリッとした守備練習をやって……。
打つのなんか、打てる球を
投げてくれるんだったら
誰でも、いくらでも打てるんですよ。
だからそういうときは速い球を投げさせて、
少ない本数をホントに集中して、パッと切り上げる。
そういうことをやった方が
早いんじゃないかと思います。
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糸井 |
いま、それを聞いて
会社で生かそうとしますと、
会社とかの仕事でいうと、
「守備」に当たるものというのは
何だろうということを、思っていました。
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藤田 |
そうですね‥‥きっと、
「自分は何で生活しているんだろう?」
ということを、
モトに戻って考えた方がいいですね。
「何で月給をもらっているんだ」
「自分の仕事は何だ」
……個々にそれを、しっかりと
考え直したほうがいいと思うんです。
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糸井 |
それが見えないと、困るわけですね。
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藤田 |
そうです。
会社経営なんていうのは
大きな波で動いているから、
ぼくには、はっきりつかめないものですけどね。
ただ、我々みたいな商売だと、
その日その日、その瞬間その瞬間に
結果が出てきますから、
割合に、ペースをつかみやすいんです。
その中で、どこが悪くて
どこがこういうふうな状態だ、と早く感じとる。
そしてチームにいる個々にも、感じてもらう。
同じことのくりかえしをやっていたって、
よくなるわけが、ないですからね。
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糸井 |
なぜ自分がその仕事をしていて、
どういうことを、仕事にしているのか。
それが、はっきり見えなくなるんですね。
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藤田 |
そうなんですね。
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糸井 |
「頑張ろう」ばっかり、言っちゃうんですね。
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藤田 |
ええ、簡単なものですよ、
「頑張ろう」なんていう言葉は。
しかし、そう言っている人間が
ほんとうに頑張ってるかというと、
そうでもないんですね。
頑張ろうという言葉で
頑張ることができるのは、短いですよ。
長く続かないです。
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糸井 |
じゃあ、原さんは来年、
そういう経験を
もしかするとするかもしれないですね。
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藤田 |
おそらくね。
原は、長い監督生活を
やらなきゃいけないと思うんです。
ですから、いっぱいいろんなことを、
いいことも悪いことも経験すると思うんです。
本当は今年あたりは、
あんなに調子がよくなくて、
苦しんで苦しんでいった方が、
後が楽じゃないかとは感じていたんですけど。
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糸井 |
ただ、やっぱり今年の原監督が
「運がよかったな」と思ったのは、
頭の阪神戦で見事にキャリアの違いで負けて、
アレをちゃんと、糧にしてゆきましたよねぇ。
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藤田 |
何試合か終わったときに、
原の顔がガラッと変わりましたよ。
はじめの阪神のときなんかね、
甘ちゃんの顔ですよ。
テレンとした顔して、
「やってりゃ勝てる」みたいな顔、してました。
あれでゴーンと負けたときに、
顔つきがギュッと締まってきたから、
うちではテレビ観ながら言ってたんですよ。
「原の顔色が変わったから、もう勝つよ」と。
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糸井 |
原さんは、運がいいといえば、
ほんとにいいですよね。
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藤田 |
いい運を持ってますよ。
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糸井 |
また、露骨にいろんなことを
表現したがる星野監督との試合で
ああいう目に遭ったということで、
マスコミその他から叩かれるでしょうし、
勝ち誇られるでしょうし、原さんって
はじめにガツンとやられて、運がいいなぁと。
あのあたりの時期の試合見ていると、
「あ、これ、やられちゃうな」と見えていたので、
このままだったらまずいなと思っていたら、
立ち直りましたものね。
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藤田 |
ええ、立ち直りましたよ。
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糸井 |
星野監督のマネしましたよ。
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藤田 |
確かにね。
なかなかあれも運だけじゃないところを、
ちゃんと理屈を踏んで選手を動かしているから、
あれは長続きします。
かえた選手はちゃんと活躍するし。
あんな年って珍しいですよ。10年に1回ないですよ。
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糸井 |
藤田さんのときも、
たまにはあったかもしれないですけど‥‥。
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藤田 |
1年だけ、ありました。
やったら、いい方へいい方へ。
88勝近く。何やっても成功するんです。
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糸井 |
チーム防御率が2点台で
1年終わったみたいな年ですよね。
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藤田 |
はい。
ああいうのは10年に1回ぐらい、何かあるんですよ。
あれが当たり前だと思うと大きな間違いですけど。
「俺はそんなところにいるんだ」
なんて思うと、大きな間違いですが。
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