アーカイブ 2002/11/06
 
第7回 選手の声
糸井 プロ野球の選手の中でも、
巨人の選手になっている人たちなんていうのは、
いわばある時代には、
「俺は野球に関しては、日本一だ!」
だとか思っていたはずの、
プライドの高い連中ですよねぇ‥‥。
当然、ワルだって、いたでしょうし。

そういう選手たちを束ねることに関しては、
どういうことが、いちばん重要になるんですか?
藤田 やはり、それ以上のものを、
自分で鍛えておかなきゃいけないですね。
「エリートを見ても別に驚かない自分」を。

自分はそういうことはぜんぶ経験して、
もう一つ上を、きっちり身につけているぞ、
といったようなことが、自分からにじみ出て、
選手側のほうも監督のその状態を、
自然に感じるようにしておかなきゃイカンですね。

エリートにとらえられて、
ポッポポッポついてまわっていたのでは、
それは、できないですね。

ですから、もうちょっとこう、
遠くから眺めているような顔をして、
時には、ズッコケてもイイですから、
そんな顔をしていれば、と言いますか‥‥。
糸井 ぼくからは、そう見えていました。
サル山のおサルが、
自然にボスザルを決めているみたいな、
そんなふうなチームに見えていたんですよ。
藤田さんが率いている時代の巨人は。
もちろん、いつのまにか
ボス猿になっているのは藤田さんで。
藤田 最初は、ちょっと距離をおいていた選手たちです。
長嶋からの監督交代があってしばらくは、
選手たちが、距離をおいて
野球をやっていたことをよく感じました。
糸井 ええ、ありましたね。
藤田 だからぼくは、
徐々に徐々に、話しているレベルを同じにして、
バカな冗談を言ったり、
たまには若い選手が使っている流行語を
一緒になってわかったようにして使ったり‥‥。
糸井 そういうことを、意識的にしたんですか?
藤田 ええ。意識的にやっていました。
糸井 藤田さん、選手と、ふざけてばかりいるように
見えた時がありましたよ。
でも、意識的だったんだ。なるほどなぁ。

ぼくは、藤田さんのことしか
近くで見ていなかったものですから、
藤田さんの選手への接し方は、よく覚えています。

選手と抱きあうようにしていたり、
絶えず、触りあっていましたよね?
「‥‥どうした?」みたいに、叩いたり。
ああいうものが監督なんだと思っていたら、
よそのチームの選手とかから、いろんな話を聞くと、
「監督と触りあうなんて、あり得ないですよ!」と。

ということは、
ぼくが見ていたあの監督というのは
特別だったのかな、と、あとでわかったんです。
「監督に会うこと自体が、めずらしい」
と言っていた人もいますね。
藤田 やっぱり、
選手は「同じ釜の飯を食う仲間」ですから、
できるだけ近い存在に
なっていないといけないと思うんです。
そうしないと、肝心な時に動かない。
そう考えています。
糸井 あぁ、同じ飯、食ってましたよね。
絶えずふざけあっていて、
「じゃあ、俺はもう寝るぞ」
みたいな感じでしたよね‥‥。

ああやって、
若い人と同じ平面に立つというのは、
藤田さんにとっては、
ぜんぜん苦ではないんですね。
藤田 ええ、そんなに苦ではないです。
糸井 選手たちは、息子みたいに見えるんですか?
藤田 そうですね。
息子みたいですね。
年が離れていますから、
そうとうこちらのほうが
若返ったようなことをやらないと、
選手はますます距離を置いてしまうんじゃないか、
ということがありましたし。

どうせやっているんだから、
たのしくやったほうが、
しかめっつらして、嫌な顔をしてやるより、
イイんじゃないかという気がしたものですから。
糸井 ただ、同じ平面に立つと、どうしても、
ヘタするとナメられてしまうというか……。
藤田 それはありますから、引くべき線は
きちっと引いておかないといけませんね。

ここからは、入れない。
これは職分の違いですから。
それはしっかりしておく必要があります。

監督は、選手に
働いてもらわなければいけないでしょう。
ぜんぜん逆の立場です。
ですから、線というのはあるわけです。
そこからは、入りこんじゃいけないという線が。
糸井 ぼくが見ていると、
「大事にされているという感じ」みたいなものが、
藤田さんのチームの選手たちは、
わかっていたように思えたんです。
藤田 そうですか。

実際、ぼくはほんとうに
選手を大事にする気持ちは強かったです。
だから、
「きょうはどうだ?」
「きょうは大丈夫か?」ということを、
毎日ひとりずつ声をかけて聞くようにしましたね。
けっこう、選手にとっては
うるさかったんじゃないですかねぇ、毎日。
糸井 親父みたいなもので。
藤田 でも、ぼくは聞かないと気が済まないんですね。
糸井 「こちら側が、気が済まない」んだ。
藤田 ええ。
選手が、「だいじょうぶです」と言うと、
あぁ、よかったと思う。
糸井 好調、不調が大きく結果を左右するのが、
選手という仕事ですから、重要な質問ですよ。
藤田 そうなんです。

ぼくがベンチにいて、
選手がどんどんグラウンドに入ってきますよね。
グラウンドに飛び出していく時には、
みんな、ワーッと行くんです。

ぼくはその声で判断するんです。
いい声しているか、こもった声をしているか。
それとも、うしろ向きの声をしているか‥‥。

「あ、きょう、コイツはまずい」と思うと、
早めに手を打って冗談を言ったり、
そばへ行って蹴飛ばしたりして、気分を変えないと。

それぞれの選手が、
いったい何を背負ってグラウンドへ来ているのか、
こちらとしては、わからないですから。

悪いものを背負っていると、
人に伝染しますから、
早くそれをいい方へ持っていかないと、
いい仕事をしてもらえないわけです。
ですから、気をつけました。声を聞くんです。
糸井 まるで、植木を育てるような言葉ですね。
藤田 同じですよ。
悪い芽が出ればつまなきゃいけないし。
糸井 そうですよねぇ‥‥。
 
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