糸井 |
プロ野球の選手の中でも、
巨人の選手になっている人たちなんていうのは、
いわばある時代には、
「俺は野球に関しては、日本一だ!」
だとか思っていたはずの、
プライドの高い連中ですよねぇ‥‥。
当然、ワルだって、いたでしょうし。
そういう選手たちを束ねることに関しては、
どういうことが、いちばん重要になるんですか?
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藤田 |
やはり、それ以上のものを、
自分で鍛えておかなきゃいけないですね。
「エリートを見ても別に驚かない自分」を。
自分はそういうことはぜんぶ経験して、
もう一つ上を、きっちり身につけているぞ、
といったようなことが、自分からにじみ出て、
選手側のほうも監督のその状態を、
自然に感じるようにしておかなきゃイカンですね。
エリートにとらえられて、
ポッポポッポついてまわっていたのでは、
それは、できないですね。
ですから、もうちょっとこう、
遠くから眺めているような顔をして、
時には、ズッコケてもイイですから、
そんな顔をしていれば、と言いますか‥‥。
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糸井 |
ぼくからは、そう見えていました。
サル山のおサルが、
自然にボスザルを決めているみたいな、
そんなふうなチームに見えていたんですよ。
藤田さんが率いている時代の巨人は。
もちろん、いつのまにか
ボス猿になっているのは藤田さんで。
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藤田 |
最初は、ちょっと距離をおいていた選手たちです。
長嶋からの監督交代があってしばらくは、
選手たちが、距離をおいて
野球をやっていたことをよく感じました。
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糸井 |
ええ、ありましたね。
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藤田 |
だからぼくは、
徐々に徐々に、話しているレベルを同じにして、
バカな冗談を言ったり、
たまには若い選手が使っている流行語を
一緒になってわかったようにして使ったり‥‥。
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糸井 |
そういうことを、意識的にしたんですか?
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藤田 |
ええ。意識的にやっていました。
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糸井 |
藤田さん、選手と、ふざけてばかりいるように
見えた時がありましたよ。
でも、意識的だったんだ。なるほどなぁ。
ぼくは、藤田さんのことしか
近くで見ていなかったものですから、
藤田さんの選手への接し方は、よく覚えています。
選手と抱きあうようにしていたり、
絶えず、触りあっていましたよね?
「‥‥どうした?」みたいに、叩いたり。
ああいうものが監督なんだと思っていたら、
よそのチームの選手とかから、いろんな話を聞くと、
「監督と触りあうなんて、あり得ないですよ!」と。
ということは、
ぼくが見ていたあの監督というのは
特別だったのかな、と、あとでわかったんです。
「監督に会うこと自体が、めずらしい」
と言っていた人もいますね。
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藤田 |
やっぱり、
選手は「同じ釜の飯を食う仲間」ですから、
できるだけ近い存在に
なっていないといけないと思うんです。
そうしないと、肝心な時に動かない。
そう考えています。
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糸井 |
あぁ、同じ飯、食ってましたよね。
絶えずふざけあっていて、
「じゃあ、俺はもう寝るぞ」
みたいな感じでしたよね‥‥。
ああやって、
若い人と同じ平面に立つというのは、
藤田さんにとっては、
ぜんぜん苦ではないんですね。
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藤田 |
ええ、そんなに苦ではないです。
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糸井 |
選手たちは、息子みたいに見えるんですか?
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藤田 |
そうですね。
息子みたいですね。
年が離れていますから、
そうとうこちらのほうが
若返ったようなことをやらないと、
選手はますます距離を置いてしまうんじゃないか、
ということがありましたし。
どうせやっているんだから、
たのしくやったほうが、
しかめっつらして、嫌な顔をしてやるより、
イイんじゃないかという気がしたものですから。
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糸井 |
ただ、同じ平面に立つと、どうしても、
ヘタするとナメられてしまうというか……。
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藤田 |
それはありますから、引くべき線は
きちっと引いておかないといけませんね。
ここからは、入れない。
これは職分の違いですから。
それはしっかりしておく必要があります。
監督は、選手に
働いてもらわなければいけないでしょう。
ぜんぜん逆の立場です。
ですから、線というのはあるわけです。
そこからは、入りこんじゃいけないという線が。
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糸井 |
ぼくが見ていると、
「大事にされているという感じ」みたいなものが、
藤田さんのチームの選手たちは、
わかっていたように思えたんです。
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藤田 |
そうですか。
実際、ぼくはほんとうに
選手を大事にする気持ちは強かったです。
だから、
「きょうはどうだ?」
「きょうは大丈夫か?」ということを、
毎日ひとりずつ声をかけて聞くようにしましたね。
けっこう、選手にとっては
うるさかったんじゃないですかねぇ、毎日。
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糸井 |
親父みたいなもので。
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藤田 |
でも、ぼくは聞かないと気が済まないんですね。
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糸井 |
「こちら側が、気が済まない」んだ。
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藤田 |
ええ。
選手が、「だいじょうぶです」と言うと、
あぁ、よかったと思う。
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糸井 |
好調、不調が大きく結果を左右するのが、
選手という仕事ですから、重要な質問ですよ。
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藤田 |
そうなんです。
ぼくがベンチにいて、
選手がどんどんグラウンドに入ってきますよね。
グラウンドに飛び出していく時には、
みんな、ワーッと行くんです。
ぼくはその声で判断するんです。
いい声しているか、こもった声をしているか。
それとも、うしろ向きの声をしているか‥‥。
「あ、きょう、コイツはまずい」と思うと、
早めに手を打って冗談を言ったり、
そばへ行って蹴飛ばしたりして、気分を変えないと。
それぞれの選手が、
いったい何を背負ってグラウンドへ来ているのか、
こちらとしては、わからないですから。
悪いものを背負っていると、
人に伝染しますから、
早くそれをいい方へ持っていかないと、
いい仕事をしてもらえないわけです。
ですから、気をつけました。声を聞くんです。
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糸井 |
まるで、植木を育てるような言葉ですね。
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藤田 |
同じですよ。
悪い芽が出ればつまなきゃいけないし。
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糸井 |
そうですよねぇ‥‥。 |