糸井 |
藤田さんは、監督在任中に、
「もっとこうしておけばよかったなぁ」
ということは、ないですよね?
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藤田 |
いえいえ、とんでもないですよ。
アレもやっておけばよかった、
コレもやっておけばよかった、です。
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糸井 |
え? 後悔だらけ?
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藤田 |
後悔だらけです。
欲をいえば、キリがありませんけど、
ずいぶん、やり残したことがありますし。
その時に気がつかなくて、
あとで気がついたというのもあります。
その時その時は、
精一杯にやっていたつもりなんですけど、
その「精一杯」が、自分では
どのへんまでの精一杯だったか、わからないですね。
人から見たときにどれぐらいが‥‥。
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糸井 |
「こうしておけばよかった」
という話をしている時、藤田さんは、
とても悲しそうにおっしゃるんだけど、
やっぱり、痛いんですね。
みんな他人のことなんですけどね。
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藤田 |
他人のことなんですけれども、
傷を持っているんですよね。
その傷にさわると、痛いということになるんです。
今でも、「しまった‥‥」と思ってね。
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糸井 |
そんな人の家族の方は、大変ですね。
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藤田 |
そうですね。
もうまったく申しわけないけど、
家族は捨てましたね。
だからいま、
カタキを取られていますけどね、女房に。
女房は、ほんとによく我慢してくれていますね。
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糸井 |
それ、なっちゃいますよね、そういうふうに。
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藤田 |
それでいて、特に何か
お礼をするかと言えば、そうじゃなくて、
オフになれば自分の遊びに一生懸命で、
朝から晩までゴルフに行って義理を果たしたり、
自分で楽しんだりしているわけですから。
だからそれはもう、
家族には悪いことしました。
娘にも、言われましたが、
親父らしいことは、1回もしてこなかった。
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糸井 |
選手に対するあれほどの気づかいを、
家では、できないんですね。
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藤田 |
家ではほんとに、できなかったです。
それを家族が認めてくれたから‥‥。
ふつうだったら、持たないでしょうね。
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糸井 |
唯一、甘えられる場所が家だった?
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藤田 |
ええ。
家でグチャグチャ言われたら、たまらないです。
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糸井 |
やっぱり何かに殉じちゃった人なんですね。
思えば、特別な仕事だったんですよ。
そういう仕事をされてきた藤田さんに、
ぜひ、聞きたいことがあります。
仕事と休みとは、裏と表でしょう?
これからの自分の課題は、
「休むということ」について、
どうやってアイデア出すんだろうかと‥‥。
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藤田 |
休みかたって、むずかしいですよね。
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糸井 |
アレもコレも、と順番に考えていると、
休みについて考えることは、
どうしても、最後になっちゃいますから。
藤田さんは、何か休む工夫は、ありましたか?
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藤田 |
ぼくは、先に休むことを考える。
休んでおいて、あとでやる。
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糸井 |
‥‥あぁ、それは、
不良出身の人でないとできない大ヒントですね。
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藤田 |
まず休むことからやらないと、
やってから休むなんて、ムリです。
時間なんていうモノは、
都合をつければどうでもなるんですから、
先に、休みを取っちゃうんです。
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糸井 |
わかりました。
ぼくはずっと、愚痴のように、
「休み方のアイデアがない」って、
人にもいうし、書いたりもしたし‥‥
でも、いつも、
「あれを、ああしてやろうかな?
これを、こうしてやろうかなぁ?」
と考えるのが好きで、ついついやってると、
絶対に休みがあとまわしになっていました。
休みがどれだけ大切かということは、
ほんとうに、よく知ってます。
うちの社員の子だとかチームの子にも、
「休みは、だいじだよ」といっているクセに
ついつい、逆のことをしちゃうんですね。
でも、それじゃ「持たない」と思うんです。
そうかぁ‥‥休みを先に、かぁ。
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藤田 |
ええ、先にとっちゃう。
それで、やらなきゃいけないことって、
集中的にやれるはずなんです。
いよいよ最後になれば、
それをやらなきゃしょうがなくなるから、
できますよ。
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糸井 |
ぼくは、下手すると、一日じゅう
「桑田のグラウンド練習状態」
になっているんです‥‥。
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藤田 |
休みを入れないと、消耗してしまいますよ。
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糸井 |
いまのぼくのように、
「バッタリ倒れて寝る」
みたいなことをくりかえしていたら、
枯れますよね?
そうか、藤田さんはそう休んでいたんだ。
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藤田 |
ええ。
ぼくはもう先に休んじゃう。
で、ためてためて、
仕方なくやっちゃうという感じですね。
昔は、インタビューだとかいろんな仕事は、
すべて、1日に集めてしまったんです。
その日にダーッと全部やって、あとは休みをとる。
やればできます。
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糸井 |
そうかあ。やっぱり先達は違う。
そんなこと、思いつきもしなかったです。
いつかイイ考えが生まれて、
「上手に休めるような俺」
というのが誕生するんだと思ってましたもの。
その日を、待っていたんですよ‥‥。
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藤田 |
待っていたって来ないですよ。
ヒマというのは、自分で作らなきゃ。
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糸井 |
よくわかりました。たしかに、
上手に仕事している人は、パンと飛びますね。
無条件にどこかへ行っちゃったりしますから。
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藤田 |
ちょっと後ろ髪引かれることはありますけどね。
「これでいいのかな?」
「やらなくていいのかな?」
そう思う時は、あるけれども、
もう、遠くに行けばそれでいいんですから。
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糸井 |
なまじ週休2日みたいになって、
カレンダー上は、
2日も休みがあるように見えるけど、
今はインターネットの時代だから、結局、
家でどんどん仕事ができてしまうんですよね。
そうすると、休みって、なかなかないんですよ。
夜も夜中も朝も、いつでも時間を使えると思うと、
結局「仕事に自分が使われている」という
状態になって、別の意味で自分が消えていく。
それは、自分らしさが
やっぱりだんだん失われていくことだと思うし、
自分の「クセ」がなくなっちゃいますよね。
いま、休みに関して、
とてつもない大きなヒントをいただきました。
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藤田 |
そうですか。
ぼくはその休み方を、
当たり前みたいにしていましたから。
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糸井 |
それは、どこかで見つけた方法ですか?
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藤田 |
いえいえ。
やっぱりぼくは、根が怠け者なんでしょうね‥‥。
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