糸井 |
藤田さんは「球界の紳士」と呼ばれながら、
同時に「瞬間湯沸かし器(すぐ怒る)」と、
2つの矛盾することを、言われていましたけど、
「湯沸かし器ぶり」というのはどうでしたか?
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藤田 |
ぼくは、紳士よりも、湯沸かし器の方でしたね。
紳士のほうは、格好だけ遠くから見てたら、
そう見えたんじゃないですかね。細身だったから。
ただ、湯沸かし器のほうは、かなり沸かしました。
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糸井 |
それはプロ野球に入ってから‥‥。
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藤田 |
‥‥も、続きました。
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糸井 |
ぼくが見ていた時代は、
そういう印象はないんですよね。
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藤田 |
あれは‥‥
怒ると、ぼくも
疲れて不愉快になるんですよ。
で、途中から「これはイカンな」と。
怒らないで済む方法を見つけようと思って、
いろいろ、研究したんですけどね。
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糸井 |
そんなことを研究したんですか(笑)
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藤田 |
はい、研究しました。
何とかして、
怒らないようにしなければいかん。
だから、物の言いかたで、
湯を沸かさなくても済むような言い方は
ないかということで、選手に、
いろいろ話しかけてみたりなんかしたんです。
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糸井 |
そういう姿を、
そばで見させていただいて、
「オヤジ役というのはイイもんだな」
と、ぼくは、はじめて思っていたんですよ。
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藤田 |
そうですか。
やめたあとに、原が言っていましたよ。
「何を言っても
手のひらの中で遊ばされていました」と。
選手には、そう感じたんでしょう。
割合うるさくいっちゃうものだけど、
ぼくは、言わなかった。
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糸井 |
言わなかったですよね。
冗談ばかり言っているように見えていました。
ところどころで、何かをされていましたか?
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藤田 |
ぼくの場合は、マスコミの前宣伝の、
「藤田は、瞬間湯沸かし器だ」
というのが、行き届いていたと思うんですね。
だから、「いつ湯を沸かすのか」と、
みんなが気にしていたんじゃないでしょうか。
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糸井 |
「コワいぞ」と。
コワかった瞬間というのを、
藤田さん、選手に表現したことはありますか?
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藤田 |
はじめてのキャンプの何日目かに
原をセカンドで育てようとしたことがあります。
ノックをはじめると、カメラマンが
グラウンドの中に入って、パシャパシャ写してる。
原がドロんこになって、ボールをとりに行って
ドタンドタン倒れているそばで、やってるんです。
それを見て、ぼくは瞬間湯沸かし器になりました。
それが、初めての爆発だったものですから、
そういうのを、みんな、見ていたんじゃないですか。
「ああ、やっぱり沸かすわい」
そう思ったんじゃないでしょうか。
ときどきは、沸かしますよ。
そんなにひどくないんですけど、
やることはやっておかなきゃいけないものですから。
怒ることは、あることは、あったんですけど。
でも、そんなに大きなのは
数えるほどしか、ありませんでしたね。
やるときはみんなの前でやるものですから。
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糸井 |
呼び出して怒るみたいなことじゃなくて‥‥。
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藤田 |
バーンとやって、その場で終わりにしちゃう。
あとをひかないように。
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糸井 |
巨人が近鉄を相手にして、
3連敗したあと4連勝した日本シリーズを、
ぼくはほんとうによく覚えています。あの時に、
藤田さんに、おしりを叩かれた覚えがあるんです。
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藤田 |
そうでしたか?
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糸井 |
ぼくは、ショボンとして、
「もう、この日で、終わりかもしれない」
と言っていたのですが、藤田さんはニコニコして
「イトイさんどしたの! 元気ないじゃない!」
ポーンと。
本来、こちらが励ます立場なのに、
いま、負ける寸前にいるはずの藤田さんが、
ニコニコして、ぼくのおしりを叩いたんです。
藤田さんは絶対忘れてるでしょうけど、アレは、
「何、この人! スゴイ!」と思わされたなぁ。
藤田さんは、ああいう危機に立たされても、
まったく平気なほうなんですか?
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藤田 |
いえいえ。平気じゃないですよ。
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糸井 |
平気じゃないんですか。
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藤田 |
平気じゃないですよ。
むしろ、人の倍、めいってます。
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糸井 |
はぁ‥‥なるほどなぁ。
ほんとは、そうだったんですか。
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藤田 |
ええ。どん底です、ああいうときは。
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糸井 |
スゴイなぁ。
藤田さんは、危機に見舞われると、
「命を取られるわけじゃないから」
という言いかたを、よくしていましたね。
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藤田 |
ええ、そういうのはね、
「命までは取られんから」
というところが、最後の踏ん張りですね。
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糸井 |
あ、つまり、それを言っている時は
「命」以外のものはかなり取られているという、
そうとう、キツイ時なのですね。
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藤田 |
ええ、かなりキツイ時です。
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糸井 |
「この試合は、イケルぞ!」
とかということを感じはじめるのは、
やっぱり、試合中にあるのでしょうか?
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藤田 |
だいたい、当てにならんですね、それは。
終わってみないと。
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糸井 |
じゃあ、わからないといえばわからない。
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藤田 |
ほんと、わからないですよ。
10点もリードしていて、
ピッチャーが調子がよくて
シュッシュッシュッシュッ言っている時は、それは、
「きょうはイタダキだな」とは思いますけれど、
それ以外は、2、3点では、わからないです。
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糸井 |
「ほんとは、わからない」ということですか。
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藤田 |
わからないから用心深くピッチャーを変えたり、
これはもう、ウロウロウロウロするわけですよ。
ちょっと1人ランナーを出すと、
次のピッチャーを用意をさせたりする
心境になるわけですね。
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糸井 |
ほんとうは繊細なんだ。
それをドキドキしているように
見せちゃいけないわけで‥‥。
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藤田 |
ええ。
全然気にしていないように、
「何言ってんだ。
こっちが2点、3点とるのに
どれだけ苦労してると思うんだ。
相手だって同じだよ」
そんな顔をしていたら、
選手は割合安心できるんですね。
選手というのは鋭いですからね、
チラッチラッと顔色を見ていますからね。
早い話が「あ、きょうはいかんな」と思うと、
ほんとにイカンのですよ。
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糸井 |
じゃあ、表情に出さない練習が要りますか。
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藤田 |
ええ、そりゃあもう、訓練しなきゃいけない。
だから、監督になりましたら、これはもう、
「大喜び」「大悲しみ」をしちゃいけないんです。
いつも同じような顔をしていないと、
かならず喜怒哀楽が出てしまうのです。
勝ったらバカみたいにわめいて喜んで、
負けたらそこらじゅう蹴飛ばして悲しんで、
とそうやっていると、ちょっとした時に
感情のブレが出ちゃって、
選手に伝わってしまうのですよね。
できるだけ、それを防いだほうがいいと思うんです。
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糸井 |
それが指揮官の務めなんですね。
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藤田 |
はい。
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糸井 |
できるようになるんでしょうかね?
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藤田 |
できるようにしなきゃだめです。
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糸井 |
「なる」どころか、
「する」ものなんですね。
なるほど、「しなきゃいけない」と。
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藤田 |
ぼくはそう思うんです。
人間ですから、
大喜びしたり大悲しみをしたりしたほうが
人生としては、それはいいのかもわかりません。
ひょっとしたら、監督としても
喜怒哀楽をはっきり出してやったほうが
いいのかもわからないですけど、
ぼくの場合は、
それはしちゃいけないんだと思っていました。
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糸井 |
みんなへの影響が大き過ぎるということですね。
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藤田 |
いいときはいいんですけどね、
「悪いときの感情」も
選手に伝染してしまうかもしれない、と。
それは勤めました。
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