アーカイブ 2002/11/12
 
 
第12回 アイデアに裏づけられた愛情
糸井 藤田さんは、ご自分のことを
「貧乏性」とか「気づかい屋」とか
言ってらっしゃるけど、そういうことって
学ぼうと思っても、なかなか難しいことですよね。
どこかで、やっぱり、「自分」が出ちゃうし。
藤田 ふつう、出したいですよね。
糸井 いくら自分を殺すのがだいじだとわかっていても、
「出したくなっちゃうもの」ですよね。
藤田 カネやんみたいに‥‥。
糸井 それは、気持ちよかろうなと思いますよね。
藤田 自分の周りを地球が動いているようになったら、
さぞかし気持ちいいでしょうね。うらやましい。
ああいうふうにやってみたいなと思う。
糸井 でも、ずっと
「やってみたいと思う」という状態のまま、
ここまで、来ちゃったんですね。
藤田 でも、やっぱりワルだった時というか、
ムチャクチャやっているときは、
「自分を殺す」なんていう気持ちは
サラサラなかったんですよね。
その時は、わけわからずにやってますから。

その時に、もうぜんぶやっちゃった、
みたいな感じもありますし‥‥。

結局思うのは、人間というのは、
「好ききらい」と「尊敬」とは、別物として
やらなきゃいけないと考えているんですよ。

人間だから、好きな人もいればきらいな人もいる。
ですけど、その感情の中に、「尊敬」も
一緒に入れてしまってはいけないわけです。

人間的に好きとかきらいとかいうものは、
尊敬するしないとは、また別の問題だと思います。
糸井 ほんとうは、藤田さんは
好ききらいの激しい人なんですか?
藤田 激しいです。
糸井 でも、好ききらいに関わらず、
目上、目下に関わらず、尊敬しているんですか。
藤田 ぼくはどんな若い人でも、
すぐれたところはちゃんと認めるようにしてます。
糸井 なるほどなぁ。
それはぼくも学びましたね。
藤田 自分にないものを持っている人は、
みんな自分より上ですからね。
糸井 藤田さんからぼくが伺いたいのは、
「どうしてそんなに
 愛情をこめていられるんですか」
ということなんですよ。

どうしたら、そんなに細部まで
思いやれるのかということを、
今まで、ちゃんと話す機会はなかったですから、
あらためて、伺いたいんですけれども。
藤田 愛情というのは、むずかしいです。
糸井 「愛情はむずかしい」。
ひょっとしたら、「愛情」という
言葉で呼ぶものではないかもしれないですか?
藤田 「愛情」だけじゃいけないですね。

もちろん、愛情も
ある面で必要ですけども、やっぱり、
具体的な思いやりが、ないといけないですね。

「どうすれば、この人がいちばん
 イイ方向や幸せな方向へ行けるかな?」
ということを、
まず最初に考えていかなきゃいけない。

「じゃあ、この方向でどうだろう?」
「こっちの方法ではどうだろう?」
ということを、その都度つけ加えていくという。
糸井 つまり、思いやりを実現しようと思うと、
「この方法」だとか、「あの方法」だとか、
実現のためのアイデアが、要るわけですね。
藤田 ええ。
アイデアがものすごく大事だと思います。

だから、コーチ連中も、
アイデアのないコーチはいいコーチになれません。
「あれでダメなら、この手でいこう!」
「コレをやってみよう!」
というような発想が、どんどんできる人でないと、
人を育てることは、できません。
糸井 そういうアイデアというのは、
別の言い方をすると、
「いたずら心」でもありますよね。
藤田 そうなんですよ。
糸井 監督のとった作戦の中でも、
「いたずらっ気」でやっているようなことって
きっと、あったと思うんですけど‥‥。
「もう、こうしてやれ!」みたいなものとか、
「これやったら、相手、いやがるだろうなぁ」とか。
藤田 野球なんていうのは、
相手のいやがることをやれば、
勝てるというか、勝ちに近づくんですから、
そればかり考えていますけどね。

相手がよろこぶことを
やっていたんじゃ、負けますから。
糸井 それが楽しい?
藤田 ええ。意地悪なことを、
「何かないかなぁ」と探すという。
糸井 意地悪じいさんみたいなあり方。
そういう姿勢も、アイデアなんだよなぁ。
藤田 大事ですよ、アイデアというのは。
糸井 そうなんですね。
愛情だけは強くて、
「おまえのことを思ってるよ」
といくら言っていても、選手と一緒になって
悩みあっていたら、答えは出ないですものね。
藤田 そうなんです。
だから、1人の選手を教えていくのに、
10通りくらいの方法を持ってなきゃいけない。
糸井 10通りですか。
藤田 もっとありますよ。
糸井 もっと、ですか?
藤田 極端なときは、まったく間違ったウソを教える。
糸井 え?
藤田 それで、
「やっぱりウソだろう?
 だからこの方法はだめなんだよ」
という言い方を、できなきゃダメですね。

ウソを教えたままにしていては、
選手にバカにされて聞いてもらえない。
ウソを教えて、それをできなかったら、
「これはウソだからできないんだよ」
ということまで言ってやらせます。
糸井 ウソを教えちゃっても
潰れちゃわないというか、
次にもう一回、救う道を作るんだ。
藤田 救う道はちゃんと置いておいて、
正しい方法は持っておきながら、
ウソを教えたことが、ありましたね。
糸井 アイデアで練習をやる例を、何か思い出しますか?
ピッチャーですか。
藤田 ぼくはピッチャーが専門ですから、
ピッチャーには、ずいぶんありましたよね。
「上から投げてダメなら
 下から放ってみな」ということです。
糸井 それもやりましたよね。斎藤雅が典型ですよね。
藤田 ええ。斎藤には、最初は、
地面に手を出すくらい下から投げさせた。
でも、そんなことできっこないんですよ。
もともと上からの選手に、それをさせるには、
何百球と自分が手を出して、これより下を通せ、
これより下を通せと、ついてやりました。
で、だんだんだんだん下げていったと。
糸井 それも、アイデアですね、確かに。
藤田 そうなんです。
それで、上から投げさせるやつには、
棒を持って、バレーボールみたいに、
「この棒の上から投げろ」と言いました。
横に金網をおいておくと、
その上からしか投げられないだとか。
そうすると、頭で覚えているよりも、
体がこうしなきゃどうしようもないから、
「あ、これか」というのが出てくるんですね。

何事もそうだと思うんですけど、
アイデアというのはたくさん、
どんどんどんどん生み出していって、
それを使っていかなきゃダメでしょうね。
 
ご感想はこちらへ もどる  友だちに知らせる