糸井 |
選手たちとは、いま、会うことはあるのですか。
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藤田 |
もう、ないですね。
ぼくは行かないですもの、第一。
もう、できるだけ顔も出さない、
口も出さないで、やっていますけれど。
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糸井 |
ほかのOBと比べるわけじゃないですけど、
藤田さん、監督をおやめになってから、
見事に、練習に行かないですよねぇ‥‥。
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藤田 |
もう隠居ですから。
うしろからひとこと言ったとしても、
現場としては気になると思うんです。
自分の思っていることと違うことをいわれて、
その方法を取らなければ
OBに無視しているかと思われるかもしれない、
と気にしたりするでしょう?
しかし実際のところ、
キャンプのときなんかでも、
OBが来てえらそうに教えるのは、
実は、現場としては、迷惑なんです。
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糸井 |
それはご自分が監督なさった時に
感じられた?
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藤田 |
ええ。
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糸井 |
でも、藤田さんの時代には、
OBが訪問することはなかったでしょう。
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藤田 |
たしかに、
そんなには、なかったですけど。
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糸井 |
来にくかった?(笑)
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藤田 |
だと思いますよ。
粗末にしたわけじゃないんですけど、
言いづらかったんでしょうね。
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糸井 |
それって、ある種、
さっき言いましたけど、藤田さんのまわりにある
「ボス猿」の雰囲気があるからでしょうかねぇ。
「あいつには逆らわないほうがいい!」みたいな。
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藤田 |
やっぱり、ここでも、
「瞬間湯沸かし器」という前評判が、
鳴り響いていたんじゃないですか。
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糸井 |
いまは、ぷっつりと、練習場には行っていない。
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藤田 |
まぁ、そうじゃなくても、
原との関係が何だかんだと言われますから。
そんなもの、ないんですけどね。
ドラフトで、クジを引いただけの関係ですけど。
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糸井 |
原さんからは、犬をもらったりしてましたね。
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藤田 |
犬は、原が、優勝祝いに
ロッカーに持ってきてくれたんですよ。
ぼくは犬を好きなものだから、
抱えて家に帰ったら、女房が
「どうするの」ってびっくりしてました。
でも、今度は女房のほうがハマっちゃってね。
あれで、ずいぶん、楽しませてもらいました‥‥。
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糸井 |
今はおもに、おうちでゆっくりなさって‥‥。
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藤田 |
病院に通いまして、あとは家にいます。
ぼつぼつ、体調が戻ってきたから、
「カートでゴルフ場をちょっとまわってみるかな」
という気が起きてきましたから‥‥。
でもね、
人間が進む分かれ道があるとして、
ひとつが、元気でいて
どんどん何かをしていける道だとすると、
ぼくはもうひとつのほうの、
一歩一歩ダメなほうに行く道を
走っているような気がしていますね。
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糸井 |
すごく冷静におっしゃいますが、
「それはそれで、かまわない」
みたいなところが、あるんですか?
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藤田 |
それはもう、ぼくは実際に
去年から今年のはじめにかけて、
2回ほど死んでいましたからね‥‥。
1回は心臓が止まって、
「もうダメです」と言われましたし、
もう1回は、医者から、
「どうやって生かそうかと思って苦労しました」
と言われましたから。
いつ死んでもおかしくない状態が
ずうっと続いていた。
でも、自分はいま、トコトコ
病院に通ったりなんかしているんですけど、
体の中身としては、そんなだったらしいです。
その状態からの生命力があまりにも強いので
医者がびっくりしていたけれど。
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糸井 |
2回も、ですか‥‥。
もともとニトロを持って
監督をやっていらっしゃいましたね。
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藤田 |
今も入ってますけどね。
この前、手術してくれた先生のところに
半年ぶりに会いにいったら、
「藤田さん、足がありますね!」と言われました。
もう、いなくなって当たり前だったのに、
足がついているということなんですけど。
あぶないところを、たくさん歩いてきましたから。
でもね、麻酔をかけて手術をするでしょう?
あれは、何にもわからないんです。
「死んだ世界ってこんなものかな」
と、はじめて思いました。
覚えも何もないんですから、目が覚めるまで。
魂が残るだとか何だとか、
本人はまったく何も覚えていないんですから。
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糸井 |
そんな経験すると、
また、コワいものがなくなっちゃいますね。
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藤田 |
でも、一時は自分でも
イヤだなぁと思っていましたよ。
「もういいや、今日でおしまいでいいや」
毎日そういうことを考えていました。
死ぬということが、ほんとに間近に来ていて、
「もういいや、きょうで終わりだ」
今日の約束はできても、明日の約束はできない。
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糸井 |
それは、去年ぐらいですか。
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藤田 |
去年から、ことしのはじめのあたりまで。
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糸井 |
知らなかった‥‥。
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藤田 |
それでいつのまにか元気になってくると、
今度は、執着心が出てくるんですよ。
「死なないように頑張ろう」ってね。
これだけ、人がみんな
心配してくれているんだから、
家族も医者も看護婦さんも、これだけ心配して
自分の面倒を見てくれるんだから‥‥
いいかげんなことしちゃいかんな、と。
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糸井 |
また何かをしようと。
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藤田 |
そうなってくるんですよ。
もちろん、監督はもう無理ですし、
体を使うことは、できないですけど。
人間って簡単に変わりますね。
それまで、「死んでもいいや」と、
死ぬことばっかり考えていました。
人は、自殺をよくするでしょう?
バカな話ですよ、と思っていました。
「自殺までしなくたって、
頑張っていれば何とかなるのに」
とある時期までは思っていたのですが、
その心境がわかるときが、あったんです。
「あぁ、こういう時に
死にたくなっちゃうんだなぁ」と。
夢も希望もないようになってくるんですね。
あの気持ちが、ちょっとこっちへ来ると、
逝っちゃうんでしょうね。
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糸井 |
紙一重なんですね。
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藤田 |
そう思いました。
「あぁ、これか」と思いました。
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糸井 |
いまは、じゃあ、欲が出ているんですね。
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藤田 |
がんばって、もっとおもしろいことを
見つけてやろうと思ったりね。
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糸井 |
でも、奥さんにとっては、
監督をおやめになってから、
藤田さんと長くいる時間というのは、
やっと新婚が来た、みたいなものですね。
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藤田 |
そうですね。
病気してからはあれですけど、
病気する前は、どこに行くのでも一緒で、
女房とは、ゴルフに行ったりしていました。
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糸井 |
前に、ぼくが新幹線の2階席に座っていたら、
ホームにいる藤田さんがぼくに気づいて‥‥。
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藤田 |
あれはね、京田辺へ、
あそこに治療するところがあるんですよ。
小さなお寺さんなんですけどね。
はじめ、「誰だろうなぁ」と思っていたけど、
あ、糸井さんだ、と思ったから。
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糸井 |
あの時は驚きました。
「何て勘のいい人なんだろう」と思った。
ふつうは、新幹線に乗っている人なんか、
まず、見ていないですよね。
それがホームで、売店のところにいる藤田さんが、
こっちを向いて、お辞儀を先にしてくださった。
「ああ、藤田さんは、こういう人なんだよ。
こういう人なんだよ、あの人は‥‥」
新幹線がガーッと出発したあと、そう思って。
よろしかったら、
また茶飲み話でも、相手になってください。
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藤田 |
どうぞ、いつでも。
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