CHILD
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日野原重明さんに聞く
「これでも教育の話」より。

第4回 禁止はおもしろくない


こちらは日野原先生の近著です。

生きかた上手

日野原 重明 (著)
価格:¥1,200
ユーリーグ ;
ISBN: 4946491260 ;

日野原 ぼくはいま、
75歳以上の人にとても注目しているんです。
いまは平均寿命が80歳を超えているわけですから、
60歳が「老人」なんて、とんでもないことでしょう?
糸井 ええ。
日野原 だから、わたしは今の75歳以上を
「新老人」という名前にしたいと思っているんです。
そういうボランティアの運動をしていまして。

例えば、75歳以上の
戦争体験を持つ人たちが、孫に、
「この戦争というのはこういうことだよ」
と伝えることは、とても大切だと思います。

害のない人でも原爆では死ぬし、
日本人もどんどん人を殺していった日々です。

アメリカは
ベトナムでいろいろなことをやったし、
戦争になると、どこでもみんな、
もう気が狂ったような状態になるんだから、
どうしても戦争は中止しなきゃならない・・・。

これは、直に戦争を体験した人や、
広島の原爆を受けた家族が、自分の物語として
孫の世代に伝えていくべきだ、と
ぼくは考えています。
糸井 皮肉なもので、戦争の悲しさや
恐ろしさを知っている人というのは、
経験をさせられたということで
教育されるわけですね。
日野原 そうですよ。
糸井 嫌なことは、
これからだって味わないような
世の中になった方がいいんですけど、
それを教えるというのは、
やっぱり口伝えがいちばんなのですか?
日野原 そう。
経験した人が直に話すと、本を読んだのと違うの。
糸井 直に話す……あぁ。
日野原 しっかり自分の声で。
糸井 ええ。
日野原 本を書いても、いいですね。
今新老人の会は、本を出版しているんですよ。
『遺言』という。それを子どもに読んで聞かせる。
糸井 あ、読んで、耳から聞かせる?
日野原 はい。
実感を、耳から聞かせるんです。
そういうようなことをして、
失われた家庭とか家族といったものを
日本は取り戻さないと、
どうなっていくかわからないですから。
子供の犯罪ということも、
やっぱり、家庭が問題である、
ということだってあるんでね……。
糸井 ええ。
日野原 例えば、なんですけど。
今の世の中では、「殺すな」とか、
「人に迷惑をかけるな」という教育は、
お医者さんが患者に向けた言葉にも現れる。

ただ単に、「禁止」している言葉って、
おもしろくないですよね。

「肝臓悪いよ、酒なんか飲んだらとんでもない」
「心臓が悪いんだから、急に動いたら死にますよ」
「こんなもの食べたら、胃潰瘍になって出血します。
 やわらかいおかゆじゃないと、ダメだよ」
すべて、「ドント・ドゥ」の話でしょう?

でもほんとは、よーく噛んだら、
クチの中でベタベタになるわけでして、
それも同じじゃないかと思うんです。
だから、「おかゆじゃなきゃダメ」じゃなくて、
「ベタベタにすれば食べられる」
ということを伝えるべきだと思うんです。
糸井 なるほどね。
日野原 「熱を出したら、お風呂に入るな」
ということにしたって、そうですよ。
糸井 え? そうなんですか?
日野原 このあいだ、珍しく風邪で熱が38℃出たんです。
朝、出るときに寒いからおかしいなと思って、
そしたら熱が上がってました。
でも、500人の会合を中止することはできない。
頑張って、そして夕方帰ったんだけど、
お風呂に入りたくなってしまって。

でも、お医者さんみんなが、
「風邪をひいた時にはお風呂に入るな」
そう言うの。わたしもそう言ってきた。
でも、何でそう言うかということを考えると、
「昔からお医者さんが言ってきたから」
というだけなんです。

だったらもう、ぼくは、
風呂に入ったらいいじゃないかと思った。
自分が実験台になればいいと。
糸井 はい(笑)。
日野原 それでおふろに入ったら、
さわやかなんだよ、もう。
これからも入ろうと思った。
糸井 (笑)もともとは、なんでなんでしょうか?
日野原 いや、やっぱり「ドント」なんですよ。
学校でもね、これは汚してはよくないとか、
この塀から越えてはいかないとか、あるいは
スカートがこれより短いとよくないとか、
みんな「ドント」ばかりでしょう?学校の規則は。

それを私はね、
レッツドゥーに変えようと思ったの。
糸井 いいなぁ。

(つづく)

2002-09-15-WED


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