糸井 |
是枝さん、
きょうはありがとうございます。 |
是枝 |
こちらこそありがとうございます。
本当にありがとうございます。 |
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糸井 |
『エンディングノート』、
きっとみんな、褒めちゃうと思うんですよね。
僕も褒めますし。
だから、プロデューサーの是枝さんとは、
監督と作品のカゲグチを言って、
楽しい盛り上げ方をしたいと思って。 |
是枝 |
カゲグチ(笑)。はい。わかりました。 |
糸井 |
「おまえ、ラッキーなだけだよ?」
でもなんでもいいから、
とにかくカゲグチを言いましょう(笑)。
映画が、やっぱり“運のいい子”だっていうか、
あのお父さんの気立ての通りに、
うまいこと転がって。 |
是枝 |
そうなんです。
このタイプのものが100本作られたら、
99本は失敗すると思うんですよ。 |
糸井 |
あり得ないと思います。 |
是枝 |
それが本当にね、
綱渡り的にうまくいってるんですよ。 |
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糸井 |
「これが当たったりするって、
普通は、ないんだよ?」
っていうことですよね(笑)。 |
是枝 |
いや、僕ね、あいつ(砂田監督)は
そんなに覚えてないと言ってるんですけど、
「ドキュメンタリーをやる時に、
身内を最初に撮っちゃうと、
あとが続かない人、多いし、
対象への気持ち、
モチベーションが強すぎるから、
よくないよ」
っていうことを結構言ってたんですよ。
「しかも、取材対象の内面を
ナレーションで語るとかって、
それは邪道だから」って。 |
糸井 |
そうでしたねぇ。 |
是枝 |
「普通は邪道なので、それはしちゃいけない。
ドキュメンタリーは、
『私はあなたではない』が基本だから。
それを基本に作るのが
ドキュメンタリーだから」
っていうことを、
そんな、まともにドキュメンタリー論として
語ってるわけじゃなくて、
日々一緒にいる中で、話していたんですよ。 |
糸井 |
当たり前でしょう、みたいなことですよね。 |
是枝 |
はい。そう話していたつもりだったんですけど、
その2つとも外したものを持ってこられた。 |
糸井 |
本当ですねぇ。 |
是枝 |
正直ね、「なんだ、こいつ?!」っていう(笑)。 |
糸井 |
どのくらいまでできてたのを観たんですか? |
是枝 |
細かいシーンの入れ替えとか
並べ替えはしてるんですけど、
最初の印象と、
できあがったものは、
そんなに変わってないです。
ということは
ほぼ完成形で持ってこられたんですよ、
いろんな意味で。 |
糸井 |
たいしたもんだなぁ(笑)。 |
是枝 |
編集も、すでにこのリズムがありましたし、
ナレーションの入れどころとか、
笑いの持っていき方とかも
すごくよくできてて。
父親と自分の関係だけじゃなくて、
ちゃんと観る人のことを意識して
作られていたので、
「あ、これだったら、
いろんなことクリアして
作品として外に出せるな」
って思ったんですね。
エンターテインメントとして出せる。
もう最初の、その段階で。
泣けるだけではなくて、
ちゃんと笑えるものになっていた。
未完成で持ってこられて、
「どうしたらいいんでしょう」
って相談されたわけじゃないので、
よけい癪にさわったんですけど。 |
糸井 |
(笑)「できてるんですけど」って? |
是枝 |
本人は相談してるつもりかもしれないんですけどね、
もう、ほぼ、できてたんですよ。
編集とか、そういうことに関して言うと、
そういうセンスはアシスタントをやってる頃から
あったことはありました。
文章も書けましたから。 |
糸井 |
いや、実力すでにある子だなっていうのは、
もう、撮ってる現場を想像するだけで感じますよね。 |
是枝 |
そうなんですよね。 |
糸井 |
家族の中で黙ってあれを、
視線をあんまり動かさずに撮っていた。
どうしてそんなことができるんだよって。 |
是枝 |
なんかねぇ、
いい意味で卑怯なんですよね。 |
糸井 |
そうだね。そうかもしれないですね。 |
是枝 |
あの家族の中で撮っていながら、
本人はそうは言ってないけども、
完成形が見えてたり、
編集点が見えてたりしてるんだと思うんですよね。
だから、ずるいなぁと思って。 |
糸井 |
映画を撮り慣れてる人で、
生活してる時も、
「私は映画人として生きてる」
っていうつもりがある人は
山ほどいると思うんです。
是枝さんも、たぶんそうだと思うんですよ。 |
是枝 |
はい。どう撮ろうかと。 |
糸井 |
あらゆるものが、きっと
「シーン」に見えますよね。
でもそれって、撮ってる人だからできるんで、
作品をいくつも作ってないうちに、
映画を生きてるみたいなことができてるって、
「あんた、だれ?!」って思うわけです。 |
是枝 |
そうですよねぇ。
だから“手馴れてる”んですよね。 |
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糸井 |
この前にいくつも作っているんでしょうか、
実験作のようなものを。 |
是枝 |
ほとんど、ないです。 |
糸井 |
いちいちおかしい(笑)! |
是枝 |
助監督の経験すら、ほとんどない。
現場で、撮影日誌みたいなものを付けてもらったり、
編集の助手とかはやってもらったんですけど、
実際に演出助手はほとんどやってない。 |
糸井 |
ほぉ。 |
是枝 |
ただ、僕のところに来る前に、
岩井俊二さんのところにも何年かいたりして、
何ヶ所か回ってきてはいるんですけど、
キャリア的に言うと、33歳という年齢に比べれば、
現場経験は浅いんですよ。
だから、よけいわかんないんです。
なんでできてるのかわかんないし。
‥‥褒めてもいいんだけど、
なんか批判口調になるのはなぜなんだろう。 |
糸井 |
いや、そういうふうにしましょうよ(笑)。 |
是枝 |
(身を乗り出して)
いちばん癪にさわるのは‥‥。
(是枝さんが乗ってきたところで、続きは次回!) |