YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

129  新春のごあいさつ

年明け早々,人間ドックにいってきました。
会社を辞めて、この春で3年がきます。
それまでと180度ちがう生活で、
そうとう体に、無理がきているのでは、と思っていました。

ところが、結果は、
バリバリの、ノリノリの、健康そのもの。

さまざまな数値や、
レントゲン、
スキャンを診た先生から、
「きれい!」を連発されました。

肺もきれい!
肝臓もきれい!
おしっこもきれい!
コレステロールも善玉!
驚いたことに、いつも上が80ない低血圧さえ、
きれいさっぱりと治っていました。
ほぼ完璧にきらきらと輝くような結果用紙を渡され、ほめられ、
その意外さに、ぼーっとしました。

なんと、不安とプレッシャーの日々が、
私を前より元気にしていたのでした。

会社を辞めて、
固定給なし、固定職なし。
人生かつてない不安定さ。

上司なし、部下なし、同僚なし。
人間好きな私が、何日も人に会えず、独り仕事。
人に会わないと、自分の中に言葉がたまってしまう。
かつてない孤独さ。

書くことで、自分の正体を見て苦しみ、
言葉にできなくて苦しみ、
言葉にして人目にさらすことに苦しみ、
身ひとつで稼ぎだす痛み。

先は、どうかするとすぐ見えなくなり、
つねに「自分とは何なのか?」
存在の危機にさらされ、
不安に足を救われ、
絶望に、首ねっこを押さえ込まれる、

そんな日々のひとつひとつが、
私をこんなに元気にしてくれていたのでした。

「生命力」というのは不思議だなあ、

不安も孤独も、体にいい、
存在の危機だって、健康にいいことを、
どんなに私の頭が受け入れなくても、
少なくとも、私の体は3年間で、
コツコツと、正直に、証明してくれていたのでした。

状況が自分をおしつぶそうとすれば、
それだけ、自分は「生きよう!」と強く思う。

「自分の身ひとつが頼りなんだぞ」
と、言い聞かすと、体の方も、
「あら、あたしだけが頼り?」
と喜んでがんばるし、
気力や、知恵も、つくして体をいたわろうとする。

自然に自分の能力を生かせる環境がなければ、
どっか、なにかで、「自分を活かそう、活かそう」と
強く思う。
瞬間を逃さず、ひらめきや、経験が、
道をつくろうとがんばる。

企業にいたときは、
ほっといても、降るほどの情報が日々入ってきたけれど、
いまは、何もしなければ情報から遮断される。
だから、どうにかして、何かつかんでこようとがんばる。
読者からいただく、1通のメールを、
おしいただくように、そして、貪欲に、読み込んでいます。
その、まだ混沌とした情報から、
何か、時代との接点を、
不確かな、人間というものを、
つかもう、つかもう、としていたように思います。
気がついてみれば、
それこそが、他の人がもたない情報であり、
マスにのらない独自の情報ソースを持つこと、
につながっていました。

情報や、人や、仕事から、自分を干すことを
こわがってはいけない。

いままでのやり方では太刀打ちできない生活に、
なにも持たず、挑んでいかなければならないとき、
もう、
自分の中で眠ってたものに、
起きてもらってがんばってもらうしかない。
だから、一見、八方ふさがりのような生活こそ、
潜在力は生きる。
生命力も強まる。

いままでの生活の延長にないものを、
早々と、体によくないと決め付けることのほうが、
むしろ、体によくないのだと気づきました。

もうすぐ3年がきたら、
会社でやっていたように、
自分のこの3年間を検証しようと思っています。
何ができて、何はできなかったか、
客観的な数字を見たり、
経済的な収支とか、
仕事の意義とか、
面白さとか、手ごたえのような主観的な部分ももちろん。

でも少なくとも、健康管理面では、
早々とA評価が出せそうです。
3年でやっと、会社員ではない生活ができてきた。
本当の意味で、やっと脱サラができた。
ここから始まる、という気持ちです。

本年もどうぞ、よろしくお願いいたします。





『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円

内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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2003-01-08-WED

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