おとなの小論文教室。 感じる・考える・伝わる! |
Lesson218 自分に問う ----高校生のため一発でわかる小論文講座(3) あなたは、自分の頭でものを考える方法を 習ったことがありますか? この教室では、もう何度も言ってきたことですが、 考える道具とは? そう、 「問い」です。 私たちは、テーマを与えられると、 すぐ、答えを出そうとします。 たとえば、 「なぜか人に好かれる人の共通点は?」 と聞かれたら、 「やさしい人。」 など、すぐ答えを出そうとします。 あまりに一般的で、だれでも言えそうな意見です。 そうではなく、 自分で考えるためには、答えではなく、 問いを探すのです。 身のまわりの「なぜか好かれる人」はだれか? 逆に「なぜか好きになれない人」の共通点は何か? 自分は、なぜ、あの人が好きなのか? というふうに、 テーマを考えるのに有効で、 具体的な問いを、いくつも立てて、 自分に問いかけ、 自分の中にある意見を引っぱり出していきます。 考えるとは、自分に問うこと。 高校生の論文コンクールでも、 一次を通過するものは、 必ず、よい問いかけがあります。 たとえば、「いのち」というテーマなら、 「人間関係がどういうとき、 人は自分の命が重いと感じるのか?」 というような、オリジナルの問いがあります。 反対に、思考停止の答案は、 幼児虐待 → 自分の子を殺すなんて許せない。 少年犯罪 → いまの若者は命の重さを知らない。 テロ → 暴力反対。 というふうに、一足飛びに答えを出し、 自分に問うことがありません。 自分の子はかわいいのに、 それでも暴力をふるってしまうのはなぜか? 武力で問題は解決しないのに、 テロがなくならないのはなぜか? 命は重いはずなのに、 自分でも軽いと感じてしまうときがあるのはなぜか? なぜ? 結論の前に、1回でもいい、 自分に「なぜ」を問いたい。 なぜを考え、なぜを書くのが小論文。 よい問いを発見してください。 あなたが抱く問いには、莫大な価値があります。 ところが、 小学校から正解を出す訓練をしている私たちにとって、 問いを見つけるのは、なかなかおっくうです。 テーマについて「問い」を30出してください、 というと、プロのライターならスイスイ出ますが、 大学生では、出てこなくて怒り出す人までいました。 要は慣れですが、慣れるまでむずかしい。 いきなりよい問いを探そうとして、難しいとき、 どうするか? そんなときは、 「よい問いを含んでいそうな具体例」を探すのです。 たとえば、テーマについて、 強い「違和感」を感じた経験があれば、 それはまだ言葉にできないけれど、 かならず、「よい問い」を含んでいます。 タネを持ってきてくださいと言われて、難しいときも、 りんごなら、 近くのスーパーで買ってくることができる。 りんごの中には、タネがある、 ちょうどそんな感じです。 心にひっかかっている出来事には、よい問いがある。 まずは、テーマについて、 自分の中で、もやもやとわいてくるものを、 全部はきだしましょう。 方法は、白い紙の真ん中に、 テーマを書いて、まるでかこみ、 そのまわりに、思いあたることを書きだしていきます。 まずは、テーマから、直感したこと、連想したこと。 それから、いままで生きてきた自分をふりかえって、 テーマに関連した体験。 とくに、違和感、 もやもや、ひっかかりがあったできごと。 発見や感動があったこと。 つよく印象に残ることは、大切です。 これといって体験がないというときも、 人や、本から見聞きしたこと、 「見聞」のなかから、思いあたることはありませんか? 入試の小論文で、資料文が与えられている場合は、 資料文を読んでいて、心がうごいたところ、 違和感やひっかかり、 強く筆者に共感するところ、 発見があったところも、書き出しましょう。 さらに、「現在」の世の中に目をあげて、 テーマに関係して、最近、見聞きしたニュース、 日本や世界の動きで、思いあたることも 書きだしてみましょう。 そして、今度は、ちょっと「未来」に目を向けて、 いきたい学部、将来の仕事とテーマも考えあわせてみて、 思うことがあれば、それも書きだしてみましょう。 白い紙に、書き散らかした、あなたの思い、 これが合格答案のタネです。 この中から、 主題となるものをひとつ、選びましょう。 選ぶ基準は、自分にとってより切実に響くものです。 書き散らかした事項のうち、 どれかひとつを起点にし、 それと、これと、どっちが自分にとって より強く自分にひっかかってくることか、 心から書きたいことか、 というふうに比べながら、 弱い方を、斜線で消していってください。 そのようにして、 最終的に残ったひとつ、 これが、あなたの主題の候補です。 これは、入試で示された字数、時間の中で、 自分の力量で扱える問題かどうか、チェックしてください。 また、出題の要求や条件から はずれていないかも、チェックしてください。 OKなら、これが、あなたの主題です。 かならず、よい「問い」を含んでいます。 ですから、先週お話した、次のような、 「具体例と、→その分析、→そして意見」の3段構造も、 比較的、考えやすいと思います。 事実 人に好かれる人に関して、こんな事実があった。 ↓ 考察 「 ? 」 ↓ 意見 だから、人に好かれる人の共通点は、 ……であると私は考える。 もともと、この「事実」の部分は、 あなたの心に一番強く、違和感やもやもやとなって、 ひっかかっているものですから、 まず、そのもやもやの正体は何か、 「問い」の形にすること。 次に、その「問い」に自分の答えを打ち出すこと。 に心を砕いてみましょう。こんな構造になります。 事実 人に好かれる人に関して、こんな事実があった。 ↓ 考察 問い:「なぜみんなはあのとき、……たのだろうか?」 その答え:「それは、…が、……だからである」 ↓ 意見 だから、人に好かれる人の共通点は、 ……であると私は考える。 具体例からの問題提起、もっとも書きやすい、 小論文の型のひとつです。 (次週につづく) 『あなたの話はなぜ「通じない」のか』 筑摩書房1400円 『伝わる・揺さぶる!文章を書く』 山田ズーニー著 PHP新書660円 内容紹介(PHP新書リードより) お願い、お詫び、議事録、志望理由など、 私たちは日々、文章を書いている。 どんな小さなメモにも、 読み手がいて、目指す結果がある。 どうしたら誤解されずに想いを伝え、 読み手の気持ちを動かすことができるのだろう? 自分の頭で考え、他者と関わることの 痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。 (書き下ろし236ページ) |
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2004-10-06-WED
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