おとなの小論文教室。 感じる・考える・伝わる! |
Lesson222 二人にしか過ごせない時間 この春、ほんとにちょっとしたことがきっかけで 友人となんとなく離れてしまった。 でも、それは、きっかけにすぎず、 なにか理由があったように思う。 それは、なにか? 先日、読者から こんなメールをいただいた。 ……………………………………………… <混線> ズーニーさんの文章を読んで思い出した よしもとばななさんの 自選小説集2−loveのインタビューの、 恋愛について語られた箇所を抜粋します。 (読者の大学生 諒子さんより) ↓ よしもと:自分のホームページのQ&Aとか見てると、 みんな恋愛のことではすごくなやんでいますよね ――それは若い子なんですか。 たぶんね、若い人百人いたら百人が 恋のこと考えている感じがする (中略) ――どんなふうに? 私には、なんか混ざっているように見えるんですよ。 自分の将来に対する展望とか、 家族との確執とか、 みんないろんな状況があるでしょう。 それを全部、恋愛沙汰に混ぜ込んでるような印象があって (中略) その人と自分の間でやることの限界って、 運命的に何となく決まっている気がするんですよ。 それを超えてまで、 いろんなことを一緒にしたいと思うのが恋愛なのかなって 気もするんですけど、 私にはあまり範疇を超えたいっていう感じが無い。 それに人に合わせたいって気持ちが全然ないし、 人のやることについていって 何かを見たいという気持ちもさほどない。 でも特に、女性にとっては恋愛って、 そういう要素がとても多いみたい。 (よしもとばなな『日々の考え』リトルモアより) …………………………………………………………………… 「その人と自分の間でやることの限界を超えてまで いろんなことを一緒にしたいと思うのが恋愛」 だとしたら、 これは、男女の間だけでなく、 友人同士とか、家族同士とか、 対仕事とか、いろんなところにおこりそうな感情だ。 私もこれを読んで、「痛テテ…」とおもった。 自分が好きな人と 自分が好きで大事なことと 相手が好きで大事なことと 自分の不安と 相手の未来と それらが、ごちゃごちゃに混線し、 限界なんかとうに超えているのに、 なにもかにも一緒にやりたくて、 無理をさせ、無理をし、苦しんだ日。 でも、そういう日の自分の姿を思い出しても、 不思議にいま、反省したり、裁いたりする気になれない。 それよりも、 では、「自分とその人の間でやること」って何だろう? むしろ、そっちに、いま私の興味はある。 もしも、「自分とその人の間で一緒にできること」に 限界があるとしたら、友人にしても、仕事相手にしても、 その定められた中で、いちばん大切にし、 私とその人がやるべき 私とその人にしかできないことってなんだろう? 私と他の人との間では、できなくて、 その人と他の人との間でも、できなくて、 私とその人の間でしかできないこと。 それを、逢う人ごとに、 悔いのないよう、きっちりやりきっていけたらいいなあ。 このごろ、 人と人との「つながり」を考える。 人と人がつながっているときに、 「総合点」でつながっているような関係と、 「ただ一点」でつながっているような関係があると思う。 「総合点」でつながっているというのは、 仕事の関係で言えば、 マナーをよくして、 段取りをよくして、 ミスがないようにして、 対応を速くして、 愛想よくして、 仕事以外でもいろいろお役にたって、 つきあいもよくして、 というように、八方、そつなくやることで つながっているような関係だ。 平均値をあげ、総合点をかせぎ、 自分と相手の間に、 細い糸をたくさんはりめぐらせるようにして、 つながっている。 でも、そのうちの大事な一本はどれか? いざ問われると、「これだ」というものがない。 そんな関係が、しばしばある。 それとは逆に、 自分と相手は、「この一点」で結びついている。 というような関係もある。 このごろ、つくづく思うのは、 書き手は、「書くものに魅力」がないとだめだ、 ということだ。 書き手と読者、書き手と編集者を結びつけているのは、 「この一点」だ。 ほかがどんなにたくさんの糸でつながれていようと、 いなかろうと、混線しようと、しまいと、 ただ「この一点」が崩れたとき、 関係は切れる。 この一点。 「ヘソの緒みたいですね」と、 この話を聞いていた、編集者さんが言った。 「男の友情にも、そんなところがありますよ。 自分とアイツは、一点、 これだけでつながっている、というような。」 そういう関係の方が強いと思った。 自分は相手に、「この一点」という魅力を感じ、 相手も自分に、「この一点」という魅力を感じている。 それでお互いが、ヘソの緒のようにつながっている。 私は、ほんの小さなきっかけで 離れてしまった友人のことを考えた。 自分がつながろうとして、つながれないとき、 自分は、相手から見て、 「この一点」という魅力に欠けたのだ。 他にあれこれ理由を求めても、結局はそれが大きい。 だったら、じたばたしてもしょうがない。 それ認めて、時間をかけて、リスクしょって、 自分の中に魅力をきちっとつくって出直そうと思った。 遠くからでも相手が足を運んで、 自分に会いにこようと思うだけの何か。 それを自分の中にきちっと育むことだと。 いまは、それができるような気がしている。 「この一点」、ヘソの緒のようなつながりが、 ここのところ、ひとつ、また、ひとつ、と、 自分のまわりに新しく生まれはじめているからだ。 いまは、焦らず、混線せず、 自分の中身をしっかりつくっていこうと思う。 自分とその人の間でしかできないこと。 それに気づき、それをちゃんとやっていくためには、 互いに、「この一点」を育んでおく必要がある。 相手から見たとき、自分には「この一点」があるのだろうか? どうすれば、それは育つのだろうか? 『あなたの話はなぜ「通じない」のか』 筑摩書房1400円 『伝わる・揺さぶる!文章を書く』 山田ズーニー著 PHP新書660円 内容紹介(PHP新書リードより) お願い、お詫び、議事録、志望理由など、 私たちは日々、文章を書いている。 どんな小さなメモにも、 読み手がいて、目指す結果がある。 どうしたら誤解されずに想いを伝え、 読み手の気持ちを動かすことができるのだろう? 自分の頭で考え、他者と関わることの 痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。 (書き下ろし236ページ) |
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2004-11-03-WED
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