YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson226 フリーであるということ

「企画で勝負したい。」

先日お会いした
フリーランスの編集者さんが、そう言った。

彼女は、フリーランスの編集者として
企画をあげ、それを出版社に持ち込んで本を出す、
という、独自の仕事のスタイルを
つくっていこうとしている。

そういうときに、
まだ、企画もみてもいないうちから、
「いつでも企画持ってきなよ、
うちで、あなたの本を出してあげるよ。」
というような、もの言いをする人を
どうしても信用する気になれない、という。

「企画のよさ、それのみで勝負したい。」
という彼女の志にとても共感した。

私も、立場のある人から、
「うちでさー、あなたを全面バックアップしてあげよう」
というようなもの言いをされたときに、
体中に嫌悪感が走った。

この人は、組織とか、仕事というものを誤解している。
何よりも、「読者」をなめている、と思った。

私は、なにかの権威におもねって
仕事をもらおうとすることが大嫌いだ。
あらゆる権威にシッポをふらない、
依頼元の会社や、担当者におもねらない、
その姿勢を貫いてきた。
権威が嫌いなんじゃない、「読者」を優先したいからだ。

私が勝負をかけるのは、「読者」に対してだけだ。

純粋に、「企画」のよさだけで、
純粋に、「読者」だけを見て、
仕事をしていこうとする私たちの姿勢は、
人によっては、青臭いとうつるだろうか?

フリーランスは、とても立場が弱く、不安定だ。
人によっては、ある会社のある担当者にツテを見つけ、
そこから安定的に仕事を得ようとするスタイルの人もいる。

「仕事は人間関係だから」

とそういう人は言う。まず「ツテ」だと。
それこそ、中元・歳暮・接待ではないけれど、
担当者に奉仕して、もちつ、もたれつ、
担当者とのパイプを太くして…、と。

でも、私は、そこにしがみつかなかったからこそ、
今日まで生きてこられたように思う。

もっと言えば、ツテがなかったからこそ、
つねにアウェイで、未知の「読者」に向けて
一回一回、勝負をかけていくしかなかった。
それがよかったのだと思う。

まず「ツテ」、で、
そこの「守り」にはいるカタチで仕事をしている人は、
担当者が辞めたとき、異動になったとき、
逆に不安定ではないかと思う。
それは、「会社」を辞めて
せっかくフリーランスになっても、
ある会社のある担当者という「個人」に
就職しなおすようなものだからだ。
そもそも安定的に仕事を得たいのなら、
会社を辞めないほうがよかったということになる。

私は、フリーランスを選んだときに
「安定」という価値は、すっぱり手離し、悔いはないのだ。
その代わりに「自由」を選んだ。

フリーランスになって5年、
いまは、志のある編集者さんが、
次々と、出版の企画をもちかけてくれるようになった。
分野も、
「文章」「コミュニケーション」「仕事論」と広がり、
より自由な感じだ。来年は、教育テレビに出演も決まった。

ほんのときたまだけど、
自由を、胸いっぱいに呼吸し、味わうような瞬間がある。

私は、5年間、一度も営業をかけなかった。
自分から出版社を訪ね歩くことも、
編集者さんにアピールしてまわることもなかった。

私は、まず「表現」をしたのだ。

その向こうに、それを受け取ってくれた「読者」がいた。
読者が動けば、それを見た「編集者」さんが動く、
編集者さんが動けば、その人のいる「出版社」が動く。
私は、いつもその順番で「結果」として仕事を得てきた。

まず「読者」だ、逆はない。

いまは、自由にやれているし、心が強いけれども、
これからもし、心が弱って、
しがらみに、しがみつきたくなったら、
そのときは、思い切り、そのしがらみを断ち切って
できるだけ遠くへ、放り捨てようと思う。

そして、「表現」しよう。

「表現」すれば、そのむこうに新しい「読者」がいる。
読者から選ばれる人は、必ず生き残る。
迷わず、読者の方だけ見て、仕事をしていこうと思う。

「表現」しないから、人はしがらむのだろう。

「企画のよさのみで勝負したい」という編集者さんが
持ってきてくださった企画は、
ほんとうに面白いものだった。
見た瞬間、私がこれまでやってきたことと、
いまの問題意識、時代と読者、
私の未来がピタリとつながった!

ツテもコネも権力もなくても、
あれこれ画策なんかしなくても、
「本当にいい企画が一本あれば人は動く」ということを
何より、私の心が証明した。




『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
筑摩書房1400円




『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円


内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)

山田ズーニーさんへの激励や感想などは、
メールの表題に「山田ズーニーさんへ」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2004-12-01-WED
YAMADA
戻る