YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson250 伝わると伝わらないの境界


この就職難をかいくぐって
たくさんの企業から
「一緒に働きたい」と思ってもらえる人は、
就職活動で、いったいどんなコミュニケーションを
しているのだろう?

このところ、取材をすすめているのだが。
先日、あるパーティで偶然お会いした人が、
NHK、TOYOTAなど、4社受けて4社合格し、
「あとは選ぶだけ」の就職活動だったという。
いったいどうすればそうなるの? 面接でなに話したの?
と興味津々で聞いてみた。すると、

「面接では、とりあえず、
ぼくの就職問題みたいな規模の小さい話は、
いっさいしないでおこうと決めた」という。

まわりの人をみると、
「私を企業にとってくれるの? くれないの?」
「とってくれたら待遇はどうなるの?」
みたいな、自分が就職できるかどうかが
関心の中心になっている。
それが、彼からみると、スケールが小さく見えたという。

「自分が就職できるかどうかなんて、
とりあえず、どうでもいい、
相手の企業や社会からすれば、規模の小さい問題だ。
それより、もっとスケールの大きな話をしてきてやろう」
ということで、

その企業の課題は何か? それをどう解決するか?
だけを徹底的に話してきたという。

「その企業の課題を解決するうえで、
自分にできることがあるとすれば、
何ができるか? やりたいか?」

これと対照的に、
自分の思春期、片想いをしていたころを思い出す。

たとえば、グループで、遊んでいるようなときに。
その中に「好きな人」がいると、
どうも、うまくふるまえない。
まわりのウケもわるい。
あとで、自分の言動を思い出しては、どっと、へこむ、
なぜか自己嫌悪、の日々だった。

反対に、その「好きな人」が、集団からいなくなると、
とたんに、自分らしさが発揮されてくるように感じた。
言っていることもまわりに通じて、
その場の雰囲気もぐっとよくなる感じがした。
「ああ、この自分を、好きな人に見てほしかった」
とおもうが、後の祭り。

考えてみれば、その場に好きな人がいる空間では、
なんとか自分をよくみせよう、とか、
相手は自分のことをどう思っているのか、とか、
自分の恋愛問題が、
無意識の、そして唯一の、関心事になってしまっていた。

でも、グループで遊んでいて、
みんなで居心地のいい時間・空間を
つくろうとしているときに、
あとから想い出しても「あー、あのときは楽しかった」と
言えるような瞬間をつくろうとしているときに、

自分の恋愛問題など、グループから見れば、
規模の小さい問題、どころか、楽しい場づくりには、
お邪魔な問題だったのかもしれない。

そこにとらわれていては、自分の言動が、
集団の中でうまく通じていかないのも無理はない。

「好きな人はいても、我は、われ。」
いったん、規模の小さい自分の恋愛問題は手離して、
その場の向かうベクトルに身をひらき、
本来の自分を発揮できれば、よかったんだろうな。

今週、取材をさせてもらう人は、
最初は、就職活動に難航していたが、
ある時期を境に、一気に、
多くの人気企業に採用されるようになった。

その「伝わると伝わらないの境界」を、
今週、聞いてこようと思うが、
その人が、就職活動中に書いていたメールマガジンの、
ちょうど「転機」になったというあたりに、
このようなくだりがある。

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それまでは、自己PRは
「自分を売り込む、自分をよく見せる、自慢する」
ということだとなんとなく思っていて、
それがものすごくしっくりこなかった。こそばゆい感じ。
言葉が踊っている感じ。

「私は何々ができます」とか
「私はこれこれこういう人間です」とか。

うん、その「こそばゆい感じ」が変化したのが、
自己PRという定義を考え直したときだと思う。あくまで、
「自分が社会とどう関わっているのか/いきたいのか?」。

そういう問いを立てたから、
初対面の相手に対して熱い内容の話をしても
あんまり照れなくなった。

そうすると、スパーンと図がイメージできる。
「自分が考える<社会>」と、それに対する「関わり方」。

そこに、「自分はこういう人です」
という形容詞は、ないんだなあ。
あるとしたら、それは「意志」のカタチをしている。
         (Kさんの文章より、引用・抜粋)
……………………………………………………………………


自分を売りこもうとすれば、なぜかへこむ。

「売るのは“意志”だけ!」

あの片想い中、へこんでた私にも、そう言ってあげたい。


『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
筑摩書房1400円




『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
山田ズーニー著 PHP新書660円


内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの
痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)

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2005-06-01-WED

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