Lesson252 毒
文章でも、
ものづくりでも、
完成度って、なんなんだろう?
あなたが、
仕事でも趣味でも、とにかく、
なんかつくるとして。
その中身が、1から10まであるとしたら、
「1から10まで、全部、完璧にしあげたいですか?」
じゃない、とすれば、
じゃあ、
「何を目指してる?」
先日、妙な光景を見た。
これを読むことで、ムカつく人もいるだろうけれど、
それを承知で、あえて書こうと思う。
先日、友人とあるライブにいった。
5〜6組のミュージシャンが出る中の
1つが目当てだったのだ。
ところが、会場に行ってすぐ、
自分たちが場違いのところに来たことに気がついた。
若い女のコばっかりなのだ。
それも、とてもおとなしそうな、
ごくふつうのかっこうをした女のコ。
みな似たような感じの、かっこうをしているので、
一見して、みんなおなじに見える。
私がよくいく、吉祥寺や高円寺のライブハウスとか、
ロックのライブに来ている、
内面や格好のどっかとんがった空気の漂う若者とは、
まったく対照的な景色だった。
こんなおとなしそうな、
なかなかライブに動員しようとしても、
足を運んでくれなさそうな層を
動員するなんてたいしたもの。
動員したミュージシャンはいったいどんな人なのか?
どうやら、女のコたちのお目当ては、
うち2組の、
かっこいいお兄さん系のミュージシャンらしく、
この2組が、会場の人気を二分しているようだった。
そんな会場で、私と友人、中年2人が浮いていたが、
私たちが観にいった中年ミュージシャンもまた、
このイベントの中で、完全に浮いていた。
とうとう、
女のコたちのお目当てのミュージシャンの番が来た。
これが、「つまらない」のだ。ところが、「うまい」。
こう書くそばから、批判メールで、
「音楽のよし、あし、って、
人それぞれじゃないですか。
そりゃあ、ズーニーさんには
つまらなかったかもしれません。
でも、それを好きな人には100%なんですよ!
それをバッサリ斬るなんて、何様のつもりですか!
ズーニーさんの書くものだって、
つまらないという人がいるんですよ!」
と言われる声が聞こえてきそうだが、
そう、そのとおり。その「何様」を承知で、
ムカつくだろうけど、もう少しだけ聞いてほしい。
2組のうち1組は、音楽において、
言いたいことが何もないんだな、と、私は感じた。
1曲1曲が、すでにいるミュージシャンの焼き直し、
しかも、曲ごとに、その対象が変わる、
「この曲は、あのひと風、次の曲は、このひと風……」。
もうひと組は、言いたいことはあるんだけど、
それが、つまらない。
「つまる」か、「つまらない」かの境目はむずかしい。
ごく平凡な個人の日常を描いたって、響くものはひびく。
つまらないものは、つまらない。
たとえば、こどもの写真を年賀状にしていても、
その人が、わが子が
かわいいんだなということはわかるが、
イマイチ、見る方には伝わってこないものと、
なんだか、見ている方まで、ほのぼのあったかくなって、
家族っていいな、と、見る人に思わせるものがある。
この人の場合は、全曲が、女性に対するラブソングで。
ほんとうにその人のことが好きなんだな、
その人と、完全な内面の一致をみたいんだな、
ということはわかるが、それ1点ばりで、それ以上の、
聞く側の心をもっていかれるようなものがない。
では、ステージはつまらなかったのか、というと、
これが、「うまい」のだ。
2組とも、若く見えたが、30代、
ライブ経験は10数年ということだ。
ずっとずっと、ライブ畑で、観客の反応をまのあたりにし、
その息づかいを感じながら、10年以上やってきて、
磨き上げたものがある。
ふしぎな熟練がある。
それは、やっぱり、現場にいると無視できない。
技術、なのだ。
あきさせないように、テンポよく展開するし、
トークで場をもりあげるのがうまい。
客を乗せるのもうまい。
観客の、「この辺で、うまく盛り上げて、立って踊りたい」、
「ここで笑わせて」「ここで泣かせて」という期待にも、
ちゃんとはずさず、応える。
私の目の前で、女のコがハンカチで涙をぬぐっていた。
私も、つい、のせられて、立ったり、手拍子をしたりした。
最後まで、そのペースに、つい巻き込まれてしまった。
だけど、みょ―――な感じなのだ。
のせられているけれど、のりきれない。
のってないんだけど、巻き込まれてしまう。
このミュージシャンたちは、ひと言でいって、
「つまらなうまい」のだ。
生まれて初めて体験したこの、みょ―――な感じに、
ライブが済んでからも、いつまでも、
ぐるぐると、自分の中で、嫌な感じがとぐろを巻いていた。
しだいに、いきどおり、のようなものが
こみ上げてきた。
「そんなつまらないものを、
そこまで、磨き上げちゃいかん。」
なにさまを承知で、私は思った。
そんなふうにして、30歳そこそこで
できあがってしまうまえに、
もっとはやい段階で、
どっか突き破ったり、打ち壊したりして、
もっとふてぶてしくて、やな奴でもいいから、
ゴツゴツと、可能性の突き出した30代に
なれなかったのだろうか?
「小さな完成品をめざすな、大きな未完成品であれ。」
という亡き人の言葉がよみがえる。
この人たちの20代に出会いたかったな、と思った。
そのときは、もっととがって、
斬れるナイフのようだったろうか?
こんなに早く、ちいさくまとまってしまい、
すでに、音楽性も、ステージも完成されている。
このままぐんぐん、どんどん、磨き上げても、
ブラックホールのように、ただ密度を増していくだけで、
何かが変わる予感がしない。
ファンも、いまさら、もう、変わることを許さない。
緊密な世界。先が、ない。
きっと20代に突出したものをもっていただろう、
彼らが、なぜ、
こんなにも早くできあがってしまったのだろうか?
それは、彼らが、
1から10まであるとしたら、
1から10までぜんぶ磨き上げるようにして
「完成度」を追ったためというよりも、
彼らの「親切心」からではないだろうか?
彼らは、みるからに
無垢で、繊細、やさしい人柄が感じられる。
ライブにくるお客さんの気持ちがよくわかった、
わかりすぎた。
良心的に、それに、
「応える」ということをしすぎてしまった。
親切に、100%お客さんの期待に
「応えて」いった結果、
ステージの完成度は高いが、
なにか小さくまとまってしまったのではないか。
ときに、お客が、どん引きしても、
ぬけっ、と、ずけっと、
「俺は、きょう、これでいく」というような「毒」が、
彼らにはなかったのではないだろうか。
表現する者には毒がいる。
小さく完成するな、と、じっと自分に言い聞かせてみる。
あなたが、なにか、つくるとして、
その中身が、1から10まであるとしたら、
1から10まで、全部、完璧にしあげたいですか?
じゃない、とすれば、じゃあ、
何を目指していますか?
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(書き下ろし236ページ) |