おとなの小論文教室。 感じる・考える・伝わる! |
Lesson 287 南さんの表紙 単行本『おとなの小論文教室。』が 舟出してから一ヶ月。 もう4刷がでた。 これまでの、 どの本よりも出足ははやいんじゃなかろうか。 新聞や雑誌から相次いで取材がきて、 読者からいただく感想を読んでも、 伝えたかったことが、伝わってるなー! という実感が、 ずしっ、ずしっ、と響いてくる。 自分がやりたかったのは、こういうことだ、と 深い歓びに日々、満たされる一冊となった。 正直、こういう展開はまったく予想していなかった。 出す前は、 これまで出したどの本よりも売れないだろうな。 と思った。でも、 これまで出したどの本よりも出したい本だった。 地味な出版になるけれど、 コツコツ時間をかけて売っていこう。 そう思ったのには、わけがある。 売れるという価値をゆずってでも、 ゆずれないものが、この出版化にはあったからだ。 まずタイトル。 「中身がわかりにくい」という指摘を複数いただいた。 そう言ってくださる方たちの意図はよくわかった。 これでもマーケティングがすすんだ企業の編集者出身、 中身をいかにわかりやすく一発で伝えるか、 みたいなことは、考えずにはおられない性分なのだ。 でも、このタイトルだけは、 それを超えたところにあった。 言葉にすると笑われそうだけど、 アイデンティティ、なのだ。 5年半、人生の七分の一をかけて、 読者といっしょにつくってきた、このコラムの。 小論文の面白さは、 未知のテーマにどうどうと向かい、 自分の頭で考え、 自分の意見を、 自分の言葉で、表現することにある。 おとなになっても、 おとなだからこそ、考えることは、ある。 小論文は、私の歩いてきた道のりであり、 会社を辞めてどうしていいかわからなかったとき、 未来への道しるべは、 「もういっぺん教育の仕事をするんだ」 という想いだけだった。 短いタイトルの中で、 自分の過去と未来がつながっていく。 糸井さんからこのタイトルをもらったときは、 そこまで深く考えていなかったけど。 「おとなの小論文教室。」 タイトルは、これ以外にない。 そして世界観。 出版化にあたって、 たくさんの出版社からお話をいただいたが、 「切り口をつけて」 「実用部分を特化させて」 というオーダーがほとんどだった。 たしかに、ひと言で言うにいえないこのコラムに、 切り口をつけて、交通整理をしたら、 わかりやすく、使える、一冊にはなる。 効能もうたいやすい。 だけど、 この味。 テーマについて、読者が議論してると思ったら、 ほろり、感情の波が走り、響き合い、 エッセイかい、と思ったら、技術におちていき、 技術が、また、その人の想いや、人生を引き出す。 どこに行くのか、私も毎回わからない。 毎回、「考える」からだ。 私も、読者も、 考えて、考えて、あたらしく道をつくっていく。 こういう混沌とした世界観、そのまんま、 熱いまんま、出したかった。 そんなようなことを、 「ほんとうはやりたいんだけど、 いまの自分では、まだ無理だろう。 なかなか通らないだろう」 と、臆病に、あれこれ考えた時期があった。 実際、ふたをあけてみると、 あっけないほどに、すい、すい、と物事はすすんだ。 企画も一発で通り、タイトルも一発で通った。 それが読者に伝わって、ほんとうにうれしい。 あれやこれや、遠回りしないで、 ほんとうにやりたいことを直球でやってみるべきだ。 そういうことを、この本によって いま私は、読者から、日々教えられている。 励まされている。 表紙は、南さん以外に考えられなかった。 先日、読者の方から、 こんなおたよりが届いた。 <『おとなの小論文教室。』を読んで> 「おとなの小論文教室」たいへんおもしろかった。 言葉がすっとんできた。 あっ・・と息を呑む言葉がありました。 痛々しいくらいに 疾走してる人を観たような読後感です。 本文ではありませんが南伸坊さんの 表紙のイラストにもたいへん感銘を受けました。 最初は気にもしなかったのだけれど 読み終えた時に本を閉じて「あっ」っと。 南さんの優しさを感じました。 南さんも本文を読まれてから このイラストを描かれたのでしょう。 雨に濡れた人の肩に そっとタオルを掛けてあげるように、 この本は暖かなイメージで包んであげないと・・ という気持ちになられたのだと思います。 こんな表紙で包んであげなきゃ 本文だけじゃ痛すぎる本です。 南さんのイラストは 書店で手を伸ばしてもらうためじゃなくて、 読んだ後のためのイラストのような気がしました。 とてもいいです。 (高崎のGUCCI_) 南さんのつくるものは、 私の視野の振り幅をはるかにこえた、 おおきなまなざしから来る。 そのことに100%の信頼がある。 だってラフはださなくて、いきなり色校を見るのだ、 じゃないとお願いできない。 私が編集者をしていたときに、 『老人力』の表紙を見て、なんともいえない 本自体が光っているような感じがした。 のちに、それが南さんだと知り。 赤瀬川原平さんが南さんについて 新聞コラムに書いていたのを読んだとき、 この人だ、というような、直感があった。 コラムには、南さんの「品」について書いてあった。 私が『老人力』の表紙に感じたものは、 人の品格、というものだったんだろうか。 『あなたの話はなぜ「通じない」のか』 の表紙をお願いしたとき、 実用書はほとんどやったことがない、 初めてでは、という南さんは、 ずいぶん考えたそうだ。 書店の実用書のコーナーに足を運ぶうちに、 「水色だ」と、迷いはなかった。 当時、実用書コーナーは、 赤、オレンジなどの暖色が多く、 他に、金とか、黒とか、 いかにも役に立ちますよと 自己主張の強い色彩だったからだ。 この中で、水色は、それだけで目立つ。 主張をしない、ひいた、優しい水色の表紙は、 本屋で妙な目立ち方をしていると、 ほうぼうから言われた。 表紙の、吹き出しを擬人化したイラストを見て、 (言霊くんと私たちは呼んでいる) 「すれちがっているのは、人と人ではなく、 すれちがっているのは、言葉なんだ」という この本の核を、私のほうが気づかされた。 さらに驚いたのは、章トビラのイラストだ。 5章、5点のイラストを、南さんにお願いした。 各章のトビラには、たとえば、 「短いやり取りでなぜあの人は信頼されるのか?」 というような言葉がある。 経験の浅いイラストレーターだと、 その章、その章、で書かれている言葉ごとに、 言葉を、そのまんま、なぞったような、 説明的なイラストを描く。 でも、文字で言っていることを、もういっぺん、 わざわざイラストでなぞる必要はない。くどくなる。 イラストは、文字から、ほどよく翔んでほしい。 と、編集者だったから、この程度のことまでは考える。 でも、南さんのイラストは、そこをさらにこえていた。 南さんは、細かい言葉にはとらわれない。 もっと、おおきなまなざしで、5章の展開を見ていた。 1章で、通じ合えなくて泣き出しそうな二人が、 しだいに、しだいに、通じていって、 5章では、通じ合う歓びに笑いあう。 丹念に文字を読み込まなくても、 パラパラとながめただけで、 章を追うごとにコミュニケーションが、 「通じない痛み」から、「通じ合う歓び」へと グレードアップしていくさまが、一発で読者に伝わる。 ほーーー! そうきたか。 そのとき私は、 自分のスケールを越えたまなざしというものに、 ぞっとするようなリアリティを感じた。 南さん、今度はどうくるか? 読者のGUCCIさんのメールを読んで、 本と読者にはストーリーがあることに気づかされた。 表紙は、書店で買わせるためだけのものじゃなくて。 まず、読者が本に出会って、 すぐ買わなかったり。 でも、気になったり、ちらちら見たり。 取り上げて、レジに運んだり、 包まれるのを待ったり。 その間、別の本に目が奪われたり。 家に帰って、袋から取り出したり、置いたり、 読んだり、閉じたり、持ち歩いたり。 読み終えて、しみじみとながめたり。 人にあげたり。 売ってしまったり。後悔したり。 本と読者が役者なら、 表紙は、そのストーリーの前編にわたって、 それを包む、舞台装置のようなものだ。 いま、表紙のいくつかは、買わせる、 ためだけのものになっている。 うまくひっかけて買わせようと言う表紙は、 作り手の根本思想が伝わってしまうのか、 やっぱりそういう人相をしている。 南さんの本は、 書店で妙な目立ち方をしていると、よく言われる。 もしも、そのコーナーの本の表紙が、全部、 買え、買え、と大合唱しているとしたら、 1点だけ見たら、自己主張の強い表紙も、 その中に埋もれてしまって、かえって目立たない。 そこではない、もっとおおきなまなざしで、 本と読者をながめている。 そういう表紙があったとしたら、 そういう、つくり手の根本思想も、 やっぱり、かくしようなく伝わって、 主張しなくても、目立つんだろうな。 3月には、 『おとなの小論文教室。』の第2弾が出る。 南さん、今度はどうくるだろうか? ………………………………………………………………… 『おとなの小論文教室。』河出書房新社 『考えるシート』講談社1300円 『あなたの話はなぜ「通じない」のか』 筑摩書房1400円 『伝わる・揺さぶる!文章を書く』 山田ズーニー著 PHP新書660円 内容紹介(PHP新書リードより) お願い、お詫び、議事録、志望理由など、 私たちは日々、文章を書いている。 どんな小さなメモにも、 読み手がいて、目指す結果がある。 どうしたら誤解されずに想いを伝え、 読み手の気持ちを動かすことができるのだろう? 自分の頭で考え、他者と関わることの 痛みと歓びを問いかける、心を揺さぶる表現の技術。 (書き下ろし236ページ) |
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2006-02-15-WED
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