おとなの小論文教室。 感じる・考える・伝わる! |
Lesson440 一斉メールの死角2 なにげなしに、「一斉メール」に「全員返信」 でやりとりしていると、 やがて、もやもや違和感が漂ってきた、 なんて経験はないだろうか? 一斉メールは何に注意したらいいんだろう? まず読者のこんなメールから紹介したい。 (プライバシー保護のため改変して紹介する) <一斉メールに書いてほしくなかったこと> 私も一斉メールを送られて困ったことがありました。 よく遊んでいる仲間同士で、 お花見をすることになりました。 例年、2次会・3次会ともりあがるため、 終電がはやいメンバーは、 終電にのりそこねて大変だったと聞いていました 今年、私は初めてお花見に参加することになり、 幹事さんから内容確認の一斉メールがきたのですが、 メールに私(=「佐藤さん」)を名指しして 下記の一文が添えられていました。 「ところで、佐藤さん、 終電の早い、後藤田さんと米山さんを 泊めてあげてくれないかな。 タクシー代とかも負担でしょう? 佐藤さん家が宴会場からいちばん近いし。」 私としては、確かに後藤田さん・米山さんは 友達でよく遊んでいますが 家に招いたり、泊まってもらったりする関係では ないつもりでした。 家も、純粋な一人暮らしのための家で、 布団も一つしかないので お客さんに快適に過ごしてもらえる 環境ではありません。 ですが、一斉メールで、みんなの前で言われると 断るに断れなかったです。 断ると、意地悪な人みたいに見えますよね。 自分としても終電のはやい人に、 うちに泊まってもらっては、 ということも検討してはいて、 後藤田さんなり、米山さんなりから 直接私に頼んでくれていれば こんな気持ちにはならなかったと思います。 家というのは全くの私のプライバシーなのに、 それを公然と(一斉メールの送信で)、 共有のもののように使ってもよい と幹事さんが思っていたことに、 すごく抵抗を感じてしまいました。 (佐藤よし子・仮名) *読者の投稿をもとに山田が改変を加え再構成しました。 登場人物の名前・設定は架空のものです。 一斉メールの2人称=読者はだれか? 「“みなさん”に決まってるじゃないか」 と言われそうだが、 ほんとにそうだろうか? たしかに、一番最初に一斉メールを書くときは、 「みなさん」をイメージし、 「みなさん」に向けて、心して書く。 しかし、来た一斉メールに 「全員返信」をするときはどうだろう? 「一斉メールの送り主1人」に向けて書いている? それとも「みなさん」に向けて? このへんで2人称が揺れ始める。 それでまた、一斉メールに 個人あてのメッセージも、おうちゃくグセが出て、 つい便乗して書いてしまったとする。 「それから佐藤さん、この前お土産ありがとねー!」 などと。 このメールの読者はだれ? 1つのメールに、「佐藤さん」と「みなさん」 2つの2人称がまざる。 「なに? 佐藤さんにお土産もらったの? 私、もらってないよ!」 など、「みなさん」のほうがザワザワし、 名指しされた「佐藤さん」も迷惑ということもある。 花見のケースでも、幹事さんと佐藤さんのやりとりは、 現実には全員にジロジロ見られているわけだし、 一斉メールの書き手から名指しされた佐藤さんも、 結果的に全員からジロジロ見られるはめになる。 文章は1人称である「私」を どうポジショニングするかも大問題だが、 2人称である「あなた」=読者をどう設定するか、 つまり、 「だれに向けて書くか」 も大問題だ。 ちょっとあなたが「お花見」というタイトルで エッセイを書くことを想定してほしい。 1.とくに読者など考えずに書くとすると? 2.出身校の小学生たちに向けて書くとすると? 3.お母さんただ1人に向けて書くとすると? 4.会社の全社員に向けて書くと? 5.17歳のときの自分に向けて書くと? それぞれ、自分の中から引き出されるもの、 ねらいや文体まで変わってくることがわかるだろう。 「2人称=読者」の設定は、 それくらい文章に決定的に影響を与える。 2人称の違う文章を 「ついでに」「考えなしに」「無自覚に」 つい、一斉メールに書いてしまうのは、 実は危ういことなのだ。 にもかかわらず、 「一斉メール」に「全員返信」をつづけていくと、 「みなさん」で書きはじめたつもりでも、 そのうち、「佐藤さん」1人に呼びかけたり、 「佐藤さんと鈴木さん」という 2人へのメッセージになったり、 ふたたび「みなさん」にもどったり、 2人称が変化する。 このときトラブルが起こりやすい。 花見の件でも、幹事さんの2人称が、 「みなさん」から「佐藤さん1人」に移動した瞬間に、 トラブルが生まれている。たとえば、 みなさん みなさんの中に、もし、終電の早いメンバーを 泊めてあげてもいいという方がいらっしゃったら 事前に幹事までお知らせくださると幸いです。 と、2人称「みなさん」で書ききっても この場合よかったかもしれない。 書くほうは、2人称を変えた“つもり”になっている。 でも、一斉メールでは、 どんなに「自分は1人だけに言ったつもり」も 通用しない。 現実にフタをあけてみると、結局「全員」読者なのだ。 「書き手の思う読者」と「実際の読者」 にブレがあるとき、読者はもやっとする。 たとえて言うと、 テレビの出演者は究極には、視聴者に向けて、 視聴者を喜ばすために、しゃべっている。 2人称=視聴者だ。 ところが出演者がそれを忘れ、 視聴者のことがお留守になり、 司会のみのもんたさんに ずっとコビをウリ続けているとすると、 視聴者はもやっとする。そんな感じだ。 「こっちは書き手を見てるのに、 書き手はこっちを見ていない」 そこに死角が生まれ、トラブルが起きやすい。 一斉メールでは、 2人称が「みなさん」から「個人」へ動くとき、 要注意だ。 一斉メールの「読者」=書き手が最優先で気を配り、 奉仕すべき2人称は、現実的には常に「みなさん」だ。 その自覚を常に忘れず、 どんなにやりとりが進んでも、 個人へのコメントをそえることがあっても、 雰囲気がくだけてきても、 集団へのコミュニケーションをしているのだという 一定の緊張感は持って臨みたい。 一斉メールで奉仕すべきは、特定の個人ではない。 好きな人、嫌いな人の選り好みも、 ここではしてはいけない。 場のために個人を犠牲にしていいということでは 決してないけれど、 奉仕すべきは「場」だ。 2人称の使い方では次を心がけてみよう。 1.「みなさん」「みなさま」という2人称を 意識して要所に用いる。 2.個人あてのコメントを添えるときは、可能なら 他の全員にも声がけできないかと心を配る。 3.個人あてのコメントを書いているくだりでも、 「みなさん」に向けて書くような心で書く。 これって、具体的にどうすること? とくに3の、「1人に向けて書いているんだけど、 みんなに向けて書く」ってどういうことだろう? 次週は、上記3つの2人称の使い方を具体例で説明する! |
山田ズーニーさんへの激励や感想などは、
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2009-04-15-WED
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