YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson616
  友は恋よりうつろいやすく 2



友だちは一生、と思いがち、

でも、実際には、
「片想いの友情」もあれば、
失恋ならぬ、「失友」もある。

失友の哀しみをどう乗り越えたらいいのだろうか?

先週先々週のコラムに
たくさん反響をいただいている。
1回では紹介しきれないので数回に分けて紹介しよう。
まず、この2通をお読みください。


<認めがたかった気持ち>

先々週のコラムで、
ズーニーさんが、

腹が立つ相手のことを実は好きで、
でも自分は力不足で
という状況への苛立ちがムカムカに繋がっていた。

ということに気付くだけで気持ちが治まった
というのは何だか不思議な話ですね。

イメージとしては
胃の中の塊が消化されて
自分の一部になったような感じかと思います。

私からみると
空回りしていることがあきらかで
気付くだけで済むことなのに

何故気付こうとしないのか?

と思うことがあります。
そんなときは、やはり

好きだったり嫌いだったりする気持ちを
認めたくない気持ちが
邪魔なのかもしれません。

会社で叱られたとき相手が正しいし、
叱られてありがたいことなのに
いつまでもわだかまりが消えないことがありました。

今も関係はこじれてわだかまりはきえてませんが、
先々週のコラムを見たあと
久々にその人に会って、

「要するに嫌いなんだ。」

と腑に落ちました。
無意識に自分と評価が似てるそのひとを
好きになろうとしていました。
好きになる義務から解放されたら
その人の有能さが素直に腑に落ちました。

また嫌いだからこそ高く評価しようとしてるだけで
実は大したことない面も見えました。

好きだとか嫌いだをまず受け止めないのは
目を閉じてるのと変わらないし、
いつまでも何も見えないんですね。
だから不安でもやもや消化不良になる。

何か上手くいかなくなったら
まず目を開け、耳をすまそうと思います。
(アメ)


<昔とてもよく似合っていた服>

先週のコラムを読み、
思い出したことがあります。それは、

「体が大きくなると、
 前の洋服が着られなくなるように、
 心が育つと、
 それまでの友達と合わなくなることもあります。
 それは誰でもあることで、
 自分が悪いわけではないんだよ」

という一文です。

小学生の頃。
私は同世代の子供との付き合いが下手くそでした。
みんなが面白い、と思っていることが
ちっとも面白くなかったし、
わたしが面白い、と思っていることは
みんなにちっとも伝わらなかった。

自分を曲げて隠して生きていかなければ、
集団の中では生きていけないぞ、
とずーっと思っていました。
でも、やっぱりそういう気持ちって
他の子に伝わっちゃうんでしょうね。
ろくすっぽ友達らしい友達がいない日々を
暮らしていました。

それでも、転校先でようやっと
一緒に過ごしてくれる友達と出会いました。
何かある時、集団の中から必ず私を選んでくれる彼女。
心のよりどころでした。

彼女と過ごすようになって一年ほど経ち、
彼女以外にも友達が何人もできました。
一人ぼっちになることも少なくなったある日。

恐ろしい事に気づいたんです。

一番の友達である、大切な彼女。
なのに、最近、一緒にいても、ちっとも楽しくない。
それどころか、少し疎ましくすらある。

とんでもないことだ。
彼女はいわば私の恩人。
なのに、こんな感情を持ってしまう
自分はわるい人間で、何かおかしいのだろうか?

この疑問は親にも友達にも話せず、
ずーっとぐるぐるとただ一人で溜め込んでいました。

悩み始めてどれほど経ったか。
当時受講していた通信教育の教材に挟み込まれた、
用紙が目に入りました。
「悩みなんでも相談室」
そんな名前だったと思います。
その用紙に相談を書いて送ると、
どんなことでも答えてくれるというのです。

はじめて出来た友達で、最初はずーっと仲良しだった。
けど、最近、私が彼女を大事に思えない。
ほかの友達のほうが一緒にいて嬉しい気がする。
私はおかしいんだろうか。

そんなことをしたためて、手紙を出しました。

何週間か経った頃、返事が届きました。
業務用の便箋に、
きれいな大人の字がたくさん綴られていました。
その中に、

「体が大きくなると、
 前の洋服が着られなくなるように、
 心が育つと、
 それまでの友達と合わなくなることもあります。
 それは誰でもあることで、
 自分が悪いわけではないんだよ」

そう、書かれていたのです。

そうか。友達と合わなくなってもいいんだ。
背が伸びたみたいに、歯が抜けるみたいに、
好きな人が変わったっていいんだ。

肩の荷が下りたようでした。

それから、すーっと自然と、
「一番」の友達は変わっていきました。

何十年も経って、大人になりました。
その間、いろんな友達と出会い、別れ、再会もありました。
でも、あの悩み相談室から貰った言葉があったから、
「まあ、そんなこともあるよ」
と大きく構えていられました。
わかっていれば、辛くないし、
自分や相手を責めることもない。
友情というひと時の花を愛でて生きて来られたのは、
あの一文のおかげです。

身体はもう育ちませんが、心は一生育つと思うのです。
だからこれからも私は、友達とべったりだったり、
すーっと離れたり、を繰り返すのだと思います。

今は、縁あってその通信教育の会社で働いています。
残念ながら今の教材に
「悩みなんでも相談室」はありません。
でも、自分が子供の時に貰ったものを、
ほんの欠片でもいいから、
今の子供たちに渡したい、
そう願い、祈りながら、働いています。
(ハゼ)



自分は友だちでいたくても、
相手に飽きられ、離れられ、したようなあと、

共通の友人を介しての集まりなどで、
相手に会うのはツライ。

妙に、よそよそしい態度をとってみたり、
かと思えば、相手をほめまくっていたり、

いちばんイタイのは、
必死で自慢をしている自分に気づくときだ。

飽きられたという引け目から、
しらずしらずに挽回しようとして、
自分はこんなに面白い人間なんだぞとか、
しばらく会わない間にこんないい仕事をしたんだぞとか、

気づけば必死で、私は面白いんだアピールを
相手に対して繰り広げている自分がいた。

だけど、自慢ほど、人に嫌われるものはない。

案の定、相手は引いていて、
あとから思い出して自己嫌悪、
というようなことが自分にはよくあった。

私は、去っていく人に対して、驚くほどあっさりしている。

それは38歳のときに、
大きな進路変更をして、
それまでの自分の一切を捨て、
その潔い喪失が、良い結果を結んだ
という原体験があるからだ。

以来、手放しすぎで不安になるほど、別れに対し、
手放しっぷりがよくなってしまった。

去る人を、恨んだり、こじれたりが一切ない。
それどころか、引きとめたり、ふりむかせたりの
そぶりさえ一切しない。

こじれない分、相手の醜いところを
見ないまま別れるせいか、
そこに、ただただ純粋な哀しみだけがあるようになった。

先々週のコラムに書いた夏以来、

純粋な哀しみの正体は、「相手を好きである」
という気持ちだと自覚するようになった。

たぶん、私の場合、
好きになった人間はずっと、へたすると一生好きだ。

ああだこうだと理屈で好きになったのでなく、
操作もできないところで自然に惹かれたのだから。
どうしようもない。

痛い目にあわされても2年くらいたつとすっかり忘れて、
無邪気に好きという気持ちが湧き上がってくる。

いまは私は、疎遠になった友人に逢うとき、

「私が、この人のことを好きなのだ。
 そのことを自分でわかっていれば大丈夫だ。」

と言い聞かすようになった。
するととても落ち着いて自然体でいられる。

アメさんがいうように、
ある人間を好きだと認めるのも、
キライだと自覚するのもやっかいだ。

とくに、似合わなくなった服のように
置いて行かれた立場では、
どこかで必死に、
嫌いにならねばという義務感にかられている。

嫌いになる義務から自分を解放してやり、
好きな人間は好きだと認める。

ただそれだけで心は穏やかに、
そして強められると私は思う。

最後にこのメールを紹介してきょうは終わろう。
来週も引き続き、友情について考える。


<宿根草>

友は恋よりうつろいやすく、
とても心に染み入りました。

読んでいて花には宿根草と一年草があることを
思い出しました。

一年で枯れてしまう花が一年草。
毎年条件が良ければ花を咲かせる宿根草。

庭の花々を育てていると、
手をまったくかけなくても
毎年綺麗な花を咲かせてくれる花や
宿根草でもたくさんの条件が揃わないと
毎年は咲かない一年草扱いの草花があります。

つい忙しくて、水を十分に与えず枯らせてしまったり、
肥料が多すぎたり、合わなかったり、
少なすぎたりで花が咲かない時もありました。

それでも、枯れてしまったけれど、
名残惜しくてそのままにしておいたら、
半年後に、新しく芽吹いた花木もありました。

その時のとても嬉しかったこと、子供の頃
クリスマスプレゼントをもらった驚きに似た嬉しさでした。

数年に一度しか咲かない花もあり、永遠というよりも、
花を咲かせたいという思いが
そして「その人とどうありたいか」ということが
大切なのかなと感じました。

このメールを書きながら
以前、仕事でご一緒した人を思い出しました。
しばらくは咲かなかった宿根草の花芽の気づき、
とても会いたい気持ちです。
(弘美)

山田ズーニーさんへの激励や感想などは、
メールの表題に「山田ズーニーさんへ」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2012-12-12-WED
YAMADA
戻る