YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson635
   意地になってはいけないところ
         −2.読者の勝負どころ


冷静に考えると、そこに敵はいない
ということころで、
無用な戦いを挑んでしまっていないだろうか?

そんな前回のコラムにたくさんおたよりをいただいた!


<日々ふくらんでいたもの>
1年半の産休・育休を終え、
職場に復帰しました。
風邪でダウンしている旦那さんにまで、
心の中で悪態をついてしまうような日々、

どうしてなんだろう???

と、自問しました。前回のコラムの、

「依存は“頼る”という感覚で自覚されるのではなく、
 “責める”という感覚で自覚される」

私は、結婚前よりも遥かに旦那さんに頼っていたんだ。
出産してから、育休に入ってから更に頼っていたんだ。

と、気付きました。
(T)


<結局、オレは>
2年前、会社の対応に
それまで溜まっていた不満が一気に噴出し、
転職活動を始めました。

面接では、
「如何に経営陣が無能か!」
「俺はそんな状況にも匙を投げないで、
 あの手この手を打った」
とじぶんを正当化していました。

自分の客観性が戻る中で気付きました。

「何だ、結局、オレは、
 そんな無能な経営陣に期待してたんじゃないか。」
(Mori)


<私の勝負どころ>
最近失恋をしました。
落ち込みの内容は、
日が経つうちに変わって行きました。

いい大人になってもうまく恋愛できないことや
失恋で激しく動揺しみっともない自分への否定、
この先想い想われる人を見つけられるのか、
そもそも真っ当な人生を歩んでいけるのかという
壮大な不安に‥‥。

前回のおとなの小論文教室の

「自分の影に向かって、戦いを挑む、
 まるでシャドウボクシングのように、
 日ごろ潜在的に不安に思っていることが
 一気に噴き出して、
 ただただ、自分が不安がりたいように
 安がっていただけだ。」

まさに自分は、
失恋で勝手に自分自身を否定されたような気持ちになり、
自分が揺らぎ、日頃潜在的に不安に思っていることが
一気に噴き出して、ただただそれに振り回されている。

私の「勝負どころ」は、
自分自身をまっすぐに見つめながら、
自分で自分の人生を作っていくことです。
(雪猫)


<勝手に自分を全否定されたと思い込んで>
地域おこしのNPOで
報告書をお役所に提出するのに四苦八苦しています。

わたしを全否定された、と思い込み、悲観し、
「対抗」の構えで会うと、「は?」ということがあります。
相手はそんなこと少しも思っていなのに。

感情をナイーブにしすぎると、
自分で自分を傷つけていますね。
裏をよんだつもりになっていたら、
まったく的外れだったり。
(ペルノー)



私自身、
「依存」と「怠慢」という自分の中の敵と、
対峙されられるゴールデンウィークだったので、
読者の気づきのひとつひとつが身にしみた。

多くは、敵は外になく、自分の中の不満の投影。

読者のなかには、
マンションなどの部屋を貸す側の心理を
代弁してくれた人もいた。


<人は拒否されると>
前回の保証会社のお話、
とても興味深く読ませていただきました。

私は、仕事柄、
そのような場面に何度も遭遇するのですが、
いつも最終的には
ご家族や他の人のお名前を借りてでも、
そのアパートを借りることをすすめてきました。

そして、そのことに何の躊躇もしてきませんでした。

だって、その人は何も悪くないのだから。
ちょっとも落ち込むことはないのだから。
私には、その方が
きちんとお家賃を払っていくであろうことも
わかっていましたし、

その人の勝負どころはそこではないと思っていたからです。

でも、ズーニーさんの思いを読んで、
もしかしたら、私はご本人様の気持ちを
どっかにおいてきてしまっていたのではないかなあ
と思いました。

多分、人には拒否されることへの
防衛反応のようなものがあるのではないかと思います。

たとえ、その人が大切な人でなくても、
拒否されたことに正当な理由がなくても、

人は拒否されるとどうしようもなく悲しくなったり、
憤ったりするのではないかと‥‥

その拒否に対して、自分を援護しなきゃいけない、
と思うので、
むきになったり、相手を攻撃してみたり
するのではないかと‥‥

本当の目的は、
部屋を借りることでも、
保証会社に自分の正当性をひけらかすことでも、
ないんですよね、きっと。

そのことを、もっとご本人様の気持ちに沿って、
考えていけたらなあと思いました。

拒否に対して言いたかったことは何なのか、
拒否した人にわかってほしかったことは何なのか、
そして、拒否した方が言いたかったことはなんなのか、
を考えていけたら、と思っています。
(ちえっこ)


<仕事を辞めて気づいたこと>
「女性だから、男性だから」
「独身だから、結婚(離婚)しているから」
「子供がいるから、いないから」
「若いから、年だから」
「無職だから、働いているから」

何かを基準に大きく括られると
シーンによって傷つく言葉はたくさんあります。

本人をよくよく知っている人に
“人格否定”をされたわけではない。
それでも何かのきっかけで
小さなプライドや自尊心が
踏みにじられてしまう経験は
きっと誰もが味わったことのあるものです。

一年前に仕事を辞め
少しの期間、働かないことを選びました。
中学の時から働いてきた私にとって
少しの間でも「働かない」という選択は
例えようのないくらいつらいものでした。
半年以上に及ぶ何にも属していない自分は
輪郭さえ見えていないように感じました。
税金の支払いが重なり
経済的にも困窮したので
無保険で過ごしました。

そんな状況でしたが
驚いたことは自分の世界から
“仕事”という大きな大きな柱が消えても
ちっとも孤独にならなかったことです。
仕事を通じての友達がいないからなのか
私の居場所は変わりませんでした。

働いていようが辞めようが
全く変わらない距離で接してくれる
友達に感謝しつつ
同時に感じたことがあります。

ずっと働いてきたからこそ抱いていた
仕事をしているという優越感
仕事をしていないことへの劣等感は
私だけのもので
周りの友達が私に接する上では
どちらでもいいものなんだと思いました。
(れん)



「ちえっこ」さんの、
「合理的に考えれば、
 まったく本人が落ち込むところではない。
 でも、だからこそ、
 本人が本当に伝えたかったものは何かを考えたい」
という行き方、素晴らしいなと思った。

私自身、審査にはまったくカンケイないと
わかってはいたのだが、
それでも自分の経歴を短く要約して書いて、
不動産の担当者に送った。

書かずにはいられなかった。

私は、編集長として高校生の書く力の教育に携わり、
2000年にフリーランスになり、
いまこんな大学・企業で、
文章表現やコミュニケーションの育成をしているのだと、

驚くべきことに、

書き始めて数分で、
すーっと自分の何かが凪いでいく、
書き終えたときには、すっかり心が落ち着いた。

嬉しかったのは、
不動産の担当者がそれを受けとめてくれたこと。

不動産の担当者には、
そのときまでに何度も、
審査は源泉徴収票のような書類だけがモノを言い、
私が書いたような経歴は意味がないんだ、
と聞かされていたので、

てっきりまた、こんども
「一応、うけとりますけど、こういう内容は
 審査に意味がありませんよ」
と言われるものと思っていた。

しかし、意外にも、
「ありがとうございます、
 山田さんのことがとてもよくわかりました。
 さらに契約に身が入ります」
という趣旨の理解を返してくれた。

審査には全く関係ないやり取りが、
結局、自分を取り戻すうえで、いちばん効果があった。

フギュアスケートで金メダルをとった
荒川静香が、
審査の得点にはならなくても、それでも、
イナバウワーをやった、やらずにいられなかった
というのを思い出す。

「自分が何者であるか」

それが、拒否られたシーンで、
人が無意識に探しているもの、そして
だれかに伝えたいものだ。

読者の「れん」さんは、
仕事に依存しない人間関係を、
その時までにしっかり築いていた。
だから、自分で探さなくても、
まわりの友だちが自然に
「自分が何者であるか」をわからせてくれた。
だから自分を見失うことはなかった。

さいごに、れんさんのおたよりのつづきを紹介して
きょうは終わろう。


<安定は、別のモノサシから見れば>
現在、私はデイサービスで働いています。
ここに集まる高齢者さんは実に様々です。

家の中に川が流れているお家に住む人。
生活保護を受けているボロボロのアパートに住む人。
認知症になっても愛人が通ってくる人。
海外で働いていたエンジニア。

そんな人達が
同じ場所で同じ時間を過ごしていることが
とても不思議で興味深いです。

私達介護や福祉に関わるスタッフにとっては
どんな人でも接し方は全く同じです。
「高齢者」というくくりで線を引くと
差はどこにもありません。

そしてデイサービスに行くからと
皆さんとても小奇麗にしてきてくれるので
働いている私達も見た目だけでは
どんな生活をされているのかが
全然わからないほどです。

ズーニーさんが賃貸契約の時に味わった思い。

会社員とフリーランスという物差しで見れば
会社員の方が「安定」しているように

富裕層と生活保護受給者の人は
お金を持っているかどうかで見ると
雲泥の差なのに

介護施設としての「経営」という観点から言うと
毎月行政から確実にお金が入る生活保護の人には
安心感があるから不思議です。

世の中はそんな風に
あちこち線をひかれたり
グループのように束ねられたりする中で
その線やグループが重なり合って
支えたり足を引っ張ったりしながら
成り立っているのかも知れませんね。
(れん)


「おとなの小論文教室。」を読んでのご意見、ご感想を
ぜひお送りください
題名を「山田ズーニーさんへ」として、
postman@1101.comまでメールでお送りくださいね。

注:講演など仕事の依頼メールは、上記のアドレスでなく、
  直接オフィス・ズーニーまでお送りください。
  連絡先は、山田ズーニーの本を出している出版社まで
  お問い合わせください。

山田ズーニーさんへの激励や感想などは、
メールの表題に「山田ズーニーさんへ」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2013-05-08-WED
YAMADA
戻る