Lesson740
「私とあなたの意見は一緒であってほしい」
という願望
「私とあなたの意見は一緒であってほしい」
そういう願望から出発したコミュニケーションは、
自分も相手も苦しめるだけだ。
過日、SNSで、友だちが、
あきらかに私の言葉尻をとらえて、
辛辣な反論を書いていた。
身が凍った。
たいへん口数が少ない、温厚な人だ。
なのになぜ、
私にだけ、こんなに攻撃的なのだろうか。
小さなことなのに、
いつまでもクヨクヨする自分がいた。
話し合ったほうがいいのではないか、とか
自分はSNSで人に反論しないようにしていることを
メールで伝えてみようか、とか、
やっきになっていた。
そのとき、
「私とあなたの意見は一緒であってほしい」
という、自分の心の底が見え透けた。
つづけて、心の声がした。
「そういう願望は自分も相手も苦しめるだけだ」
前にもあった。
強い意見を持って世の中と接した。
「自分はこれが正しいと信じた意見」を通して、
人とコミュニケーションしていった。
そのとたんに出会う人々がまっぷたつに分かれる。
自分に敵対する人と、
自分と同意見の人と。
家族や友人が、敵対する意見だったときは、
ゾクッと、憎悪さえわいた。
その反動で、
同意見の人に出会うと、
不自然なまでに肩入れする自分がいた。
敵か、ミカタか。
自分ではどうすることもできず、
世界がどんどん分断されていく。
妙にイライラし、やっきになり、
自分で自分を苦しめていくだけだった。
もう懲りたはずだ。
自分と人を一致させようとする徒労はやめよう、
と思うものの、
「じゃあ、この友だちに対して、
何を求めてどう接していけばいいのか?」
思考が止まってしまった。
先日、仕事で、
近々結婚するという女性Aさんのスピーチを聞いた。
Aさんは、
自分と意見が対立する親御さんに反発し、
親御さんのことを嫌い、
まるでその反動のように、
自分と同じものを、自分と同じ価値観で見て、
自分の思っていることと一緒の言葉を言ってくれる人と
つきあったそうだ。
「それは本当につまらなかった。」
とAさんは言う。
親御さんへの反発も、いまから思えば、
自分と同じことを思ってくれないことへの
反発。
ご自身の幼さに気づき、
紆余曲折経て、乗り越えたいま、
ほんとうの意味で自立をされ、
Aさんが結婚される方は、
「自分とまったくちがう考えの人」
なのだそうだ。
そして、それは、
「ほんとうに面白い。」
とAさんは心から言う。
その顔は、美しく、自信に満ちていた。
何かを見ても、自分と全く違う考えをする人、
ときに正反対だったりする。
だから当然、激しい喧嘩もする。
でも、それも含めて、だからこそ、
自分と全く違う人と生きていくのは、
「ほんとうに面白い!」
と心底言うAさんの言葉に、
私は先入観を割られる思いがした。
私はさみしがり屋で、
そのさみしさを埋めようとして、
家族や友人に、意見の一致を求めていた。
「そうね、そうね」
と言ってほしい。
でもよくよく突き詰めれば、
私の言葉にイエスしか言わないのなら、
それは、
私のスマートフォンに入っている人工知能のSiri。
人間の声に反応して、
「そうですね」といってくれる機械やロボットで
とことん癒されて気が済めば、それでよい話なのだ。
わざわざこの時代に、
人間と人間とが、顔をつきあわせて、
コミュニケーションする意味ってなんだろう?
ああ、ああ、そうか。
私は大きな勘違いをしていた。
友だちと私は、意見が食い違っている、
だから寂しい、
のではなかった。
意見が正反対でも、喧嘩をしても、のりこえて、
この人とともに生きていこうと思える
「何か」
この「何か」が育ってないことが寂しいのだ。
意見が対立しても、
そこで縁を切るのではなく、
のりこえてともに生きられる関係がある。
たとえば、親子や夫婦などでは、
ベースの愛をしっかり育んでいれば、
対立をのりこえてともに生きていこうと思える。
職場の上司部下やパートナーであれば、
ことごとく意見が対立し、
会議では激しく口論、どこまでも一致をみない、
そんな二人だけど、コンビを組んで、
仕事に出ると、お客さんが喜んでくれて、
とても成果が上がる。
そんな経験をいくつか重ねていくと、
考えは違うけど、だからこそ、
こいつと一緒に仕事は続けていけるという
ベースの「信頼」とか「尊重」が育まれていく。
いま、私と友だちの間に、
友愛はあるが、長らく水をやっていないせいで、
はかないのだと思う。
愛を育むなど、
いったいどうしたらいいのかわからないし、
意識してやろうとしても、
よけいへんになってできないのだけど、
少なくとも、
意見を一致させようと自分も相手も
苦しめるのではなく、
たとえ意見がま反対になったままだとしても、
たがいに「コイツ面白いやつだな」
「いろいろあるけど
コイツとはずっと付き合っていきたいわ」
と思える
ベース、
ベースとなる何かがあると信じて
そこを太くしていくコミュニケーションをしたい
と私は思う。
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