YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson813
    言い方でイキイキさせる



おなじようなことを言っても、
「言い方」で、ずいぶんちがう。

先日、私は、
よい書き物をするために、
お酒を1滴も飲まない日がえんえん続いた。

私は、ほんのひと口でも飲んだら、そのぶん
考えるチカラや書く感覚はニブるので、
自分で決めてそうしている。

しかし、ふしぎなもので、

ふだん飲みたいと思わないのに、
1滴もダメと禁じると、飲みたくなる。

1日で書き上がると思っていたが、
そのときは意外に手こずり、
次の日も、また次の日も‥‥、書き続け、

そのたび、今日こそ飲めるという期待はハズレ、
「我慢」「我慢」と自分に言い続けた。
数日かけて、やっと書き上げて、

「やったー!きょうこそ飲める」

と思ったら、もう、
あすのワークショップの準備が迫っていた。

「あすの仕事のために、きょうお酒をがまんしよう。」

そう自分に言い聞かせたとたん、
きもちがずーん、と沈んでいくのがわかった。

我慢はできるし、自分では全然平気と思っている。

でも、無意識のところで、睡眠不足、書くプレッシャー、
1滴も飲まない我慢が続く日々は、意外に
ストレスとして溜まっていたのかもしれない。

そのとき、ハッ!
同じことでも、言い方をこうしてみたら、と

「明日いい仕事をやりとげてから、
おいしいお酒を飲もう!」

と言いかえてみた。

「あした、ワークショップが大成功で、
参加した方々が素晴らしい文章を書くことができて、
自分もベストが尽くせて、
ああ心からいい仕事ができたと、歓びながら、
おいしーい!お酒を飲もう!

それをたのしみに、きょう、準備をがんばろう!」

パッと気分がかわり、イキイキしてきた。

結果、ワークショップは大成功で、
生徒全員が想像よりさらに素晴らしい文章表現をした。

やっと、たのしみにしていた1杯が飲める!

うれしくて家族にメールしたら、
即座に返事が来て、

「あんまり飲み過ぎるなよ。」

私は、それを見て、なぜかちょっと、
シュン、とした。

言い方。

「あすの仕事のために、きょう酒を我慢しよう。」と、

「あすいい仕事をやりとげてから、おいしい酒を飲もう。」

というのは、おなじようでも
ずいぶん違う。

前者は、「お酒が飲みたい」という想いを
「封じる」、あるいは、「制限する」言葉だ。
以前このコラムでも述べた、

「表現を閉ざす言い方」だ。

後者は、同じように見えても、
「お酒が飲みたい」という想いを尊重し、
あした(いつ)、
おいしく(どんなふうに)行動に表すかと、

「表現させる言い方」だ。

そして、
「あんまり飲み過ぎるなよ」という言葉は、
愛情とわかっていても、
酒への想いに制限をかけるから、

「じっくり味わって楽しんで」、「よいお酒を」、
の言い方のほうが、もらった人は嬉しいのかも。

人には「想い」があり、

どんなにささやかでも、その想いが、
言葉や行動で「出せる」、となったら活気づく。

逆に、想いが制限されたり、抑圧されたり、
「出せない」となると、沈む。

人は「表現したい」生き物だ。

「その想い、表現するな、我慢しろ」でなく、

「その想い、こんなタイミングで、
こんないいカタチで表現しよう!」

と、言い方を変えて、
自他の気分をちょっとだけアゲていこう、
と私は思う。

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2017-02-01-WED

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