Lesson814
メンタルの強さは、自分にかける言葉の強さ
「メンタルの強さは、
その人が自分にかける言葉の強さ」
表現教育を通しメンタルの強い学生を見てきて思う。
学生のなかには、
オリンピック選手もいる。
テレビや広告で見ない日はない芸能人、
プロ歌手としてデビューした学生、
サッカーでプロ入りが決まり
Jリーグに行く人もいるが、
気持ちというより「考え方」が強い。
もっと言えば、
「どんな言葉を選んで自分にかけているか」
が優れている。
ある日
学生100人分の要約文を
採点していたときのことだ。
学生は、
「自分の将来」について、
自己と社会と仕事の3つの要素を関係づけて、
いったん長文で表現したのちに、
300字にぎゅーっと
要約して書いている。
文章を縮めに縮めていく過程で、
「どの要素は捨て、どの要素を残すか?」
「残った要素と要素はどう関係するか?」
その人の大事なものがあぶりだされ、
優先順位や関係性、思考の道筋が明らかになる。
100人通して読んだとき、
「こんなにも違うのものか!」
あらためて驚いた。
たった300の文字。
どう選ぼうが、どう並べようが、
足そうが、引こうが、漢字で書こうが、
ひらがなだろうが、
たかが300字、それなのに、
ある学生の文章を読み終えたときは、
どうしようもなくふるいたたされている。
こちらが力を与えられている。
一方、またある学生の文章を読み終えたときは、
なんとも沈んでしまう。
パワーを吸い取られたような読後感になる。
「どちらの言葉を自分にかけるか?」
自分は、自分の言葉と
一生付き合っていかなければならない。
一瞬、一瞬、自分が自分にかける言葉が
1日、1か月、1年と降り積もると、
自分をふるいたたせるか、
自分で自分を消耗させてしまうか、
その差は大きい。
困難が迫った時に、
私の思うメンタルの弱い人は、
「劣等感」と「被害者意識」
が出てしまう。
「私には、才能がないから、
人より劣るから、
みんなはできるのに、私だけできないから」
「こんなふうに産まれついてしまった私は、
こんなふうに育てられてしまった私は、
かわいそう」
ここで思考が止まる。
そして「才能」と「自信」という2つへの、
ないものねだりがはじまる。
「自分にも才能があれば、自信がもてたら、
あのキラキラ輝いている人たちみたいに
素晴らしい人生になるのになあ」
しかし、実際、
みんなが憧れる夢をかなえている学生の
文章を読むと、
決して、才能がある歓びとか、自信に
満ち溢れているわけではない。
むしろその逆、
拍子抜けするほど、
本人は才能や自信がないと思っている。
または、
才能や自信があるかどうかに固執しない。
だいたい才能といっても、どんな才能だろう?
町内でいちばん強ければ、
次は県大会へ、日本へ、世界へ、プロへ、と
ステージはあがっていき、
そのたび、より才能を持った人間があらわれる。
選手として強いから、キャプテンをやってくれ、
となったら、こんどは別の、新たな才能が求められる。
ひとつの才能に固執してはいられない。
困難が迫った時に、
私の思うメンタルの強い人は、
「人生に困難はつきものだ。」
と自分に言葉をかける。
人生は決して思い通りにいかず、
才能のあるなし、自信のあるなし、にかかわらず、
苦しいことや不測の事態がたくさんある。
試合なら試合、オーディションならオーディションを
数多くやってきた経験値から
彼らや彼女はそうとらえている。
人生に対しても、自分に対しても、幻想が少ない。
うまくいかないとすぐ折れてしまうのは、
「人生は順調なもの」「自分はうまくやれる」
という幻想があるからだ。
私が思うメンタルの強い人は、
「自分はまだ、まだ、まだ、これからだ。」
という方向で言葉をかける。
だから、失敗もするし、
これからも苦しいことのほうが多いだろう、
と認めたうえで、
「いままでそうしてきたように
自分はこの困難をきっとのりこえて続けていくだろう」
と、そういう自信の持ち方をしている。
これは、才能があるからうまくいく、とか
自分は失敗しない、という自信とは、
またちがう、しなやかで折れない持ち方だ。
「ここを乗り越えたら、いい景色が見えるんじゃないか」
困難にぶつかったとき、そう自分に言葉をかけ、
その景色をたのしみに、
実際のりこえた学生がいた。
そして、私が思うメンタルの強い人は、
自分のために頑張る、だけでは、とうてい
のりこえられない壁を、他者を想うことで突破する
強い言葉を持っている。
「人を想う言葉」
がとてつもない力になることを知っている。
「チームのために」
「家族のために」
「この試合を見ている人のために」
どうも日本には、「人のためは偽」という
先入観がある。
だから多くの人が、「全ては自分のためだ」と
思い直して邁進するのだけど、
自分のために、と限界まで邁進したときに、
結局、それだけではのりきれない壁にぶつかる。
自分を無にしてチーム力をあげた結果、
劇的な成果が出て、自分だけでつっぱしるのでは
とうてい見ることのできない境地を知ったりもする。
そうした経験を経て、
自己中心でない、偽善でもない
深い「利他」の言葉が生まれてくる。
そしてやっぱり「志」が高い。
自分がこれをやりたい・こうなりたい
ももちろん大切なのだけれど、
その先に、
「世の中がいまより少しこうなったらいいな」
「自分の働きかけを通して受け取る人が
こんなふうに歓んでくれるといいな」
という、自分の理想をカタチにし、
つらいときに希望を照らしてくれる言葉
を持っている。
「メンタルの強さは、
その人が自分にかける言葉の強さ」
言葉をかえれば、
思考も、心も、追いついてくる!
と私は思う。
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