YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson883
   2つの文章 ― 2.温度差



ある日、SNSで、友だちが、
私の発言へ、批判めいたことを書いてるのを見た。

私に直接コメントしてくるのではなく、
自分の発信で。
ほかの友人たちも見ているまえで。

それが、ポツ、ポツ、続き、私は苦痛で、

友人に、なにげない近況メールをした。
「元気にしてる〜」とつとめて明るく。

すると、その友人から
まったく自然体のメールが返ってきた。
私の久々の連絡が、ほんとに嬉しいようだった。

「ああ、これでやめてくれる!」

私は、安堵した。
こうして心が通ったんだ、もうしないはず、と。

ところが、やめてはくれなかった。

私は、今度は少しだけ、意味深なメールを送った。
「これで察してくれ」と、祈って。

しかし、友人は、まったく悪びれたようすもなく、
むしろ、私がなにか困ってるのか、
ふつうに心配して返信をくれた。

私は、これじゃいかんと、
そうとう婉曲に、遠回しに、
しかし、SNSで苦しんでいる、と
はっきり、長めの文章で伝えた。

すると、なんと、友人からは、
その文章がいいと、私の人間性まで褒めてくれる
「感想」を書いて送ってくれた。

しらばっくれてるのでは決してなかった。

批判は、何か月つづいただろうか。

私は、風呂に入ると泣けてきた。
なぜか、髪をシャワーで流すとき、
苦痛が腹の底からこみ上げてやりきれない。

そうとう追い詰められていた。
私は健康を壊す寸前だ。

「よし! 言おう」

友人にはっきり言った。

すると、あまりにも温かい、
愛あふれるメールが返ってきた。

友人は、
なんてことをしてしまったのかと、
自分の失態だと。
気づき、自分を責め、悔い、改め、
私へ宣言するのではなく、
自分自身に言い聞かせているように、こう言った。

「なんとしてもやめなければいけない。」

本当にピタッとやめてくれた。

そのときのメールを想うと、
いまも心が温かくなる。
私が好きだ、これからもずっと友だちだ、
と真心に胸を打たれるメールだった。

友人は嘘を言ってない。
しらばっくれるような人ではない。
友人は心根が温かく、聡明で正直な人間だ。
では、

「なぜ、あれまで言わないと気づかなかったのか?」

それが、そのあと何年も、謎だった。

先日、
復讐ドラマを見た人が、
このような要旨の感想をネットにあげていた。

「いじめにしろ、パワハラにしろ、セクハラにしろ、
やられたほうは、苦痛にもがき、傷つき、
何年も、何年も、ずーっと忘れることなく苦しみ続ける。

ところが、やったほうは、すっかり忘れている。
思い出すこともなく、だから、
罪の意識に苦しむこともなく、
のうのうと、平穏な日常を過ごしていく。

たとえ、昔の恨みを言ったところで、
そんなこと、いじめた方は覚えておらず、
むしろ、あらたな気持ちで、仲良くしたがってくる。
“そんな昔のことにこだわらず、それより、
これを期に、これから仲良くしよう、よろしく”と。

ひどい場合には、いじめた自覚さえない。」

私は、これを見て、
ずーっと考え続けてきたパズルの
最後のピースがはまった気がした。

「温度差!!!」

ネットでものを書くには、
批判やディスりをのりこえねばならない。
冷静に考えると、そこには、

「2つの文章」がある。

自分の書いた文章と、
そこに批判してきた人の文章と。

そして、2つの文章の筆者の間には、
あまりにも激しい、

「温度差」がある。

批判されたほうは、凍りつき、傷つき、
何度も思い出し、そのたび苦痛にさいなまれる。

しかし、批判したほうは、

ひどい場合は、批判しているという自覚もない。
あっても、「これくらい、いいだろう」
「ほんとのことだし、相手のためだ」
「自分だってこれくらい言われてきたから」
と、とても軽く見積もっている。

批判された人と、する人の間には温度差がある。

された方は、凍りついて「氷点」にいる。

した人は30℃にいて、暑苦しい、むしゃくしゃする
冷たい風を送りたい、気分である。

苦痛のとらえ方は人さまざまで正解がない。

私には「30倍」くらいすれ違っているように思う。

批判する方が1ダメージと思っていても、
されたほうは、その30倍は傷ついている。
ほんのちょっとデコピン、のつもりで批判を書いても、
批判された方は、骨が折れていることもある。

批判・ディスりの問題解決はできなくとも、
30倍にしてみる、30分の1にしてみると、
少しだけ、自分の思考の外側に行けるのではないか。

批判された方は、

「相手はなぜ、私に30ダメージも与えるのか?
それほどまでに、相手は私のことが憎いのか、
それほどまでに、相手は酷い人間なのか。」

と思うから失望する。
でも、相手は1ダメージのつもりでやっている、と思えば、
1ダメージくらいなら気づかず自分も人に、
すでにやってしまってるかもしれないのだ。

逆に、

「ほんのちょっと叱っただけで、
部下が、心折れたの、もう仕事辞めるだの、
過剰反応して疲れる。なんであんなに弱いの?
あれくらいのこと、自分も言われて育ってきた」

と、弱すぎる部下にうんざりしている人も、

「自分の思う30倍も相手は痛かったかもしれない」

と仮定してみれば、
少しだけ平静になれるかもしれない。

いま、氷点にいる人も、30℃でむしゃくしゃする人も、

そうして、少しだけ相手側から見ることができれば、
そこに、少しだけ心の余裕が生まれる、
と私は思う。

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かけがえなく必要とされたい。
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  上記アドレスに送らないでください。
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ラジオで、山田ズーニーが、
『おかんの昼ごはん』について話しました!

録音版をぜひお聞きください。
「ラジオ版学問ノススメ」(2012年12月30日〜)
 インターネット環境があれば、だれでもどこからでも
 無料で聴けます

 聴取サイトは、http://www.jfn.co.jp/susume/
 (MP3ダウンロードのボタンをクリックしてください)
 または、iTunesからのダウンロードとなります。

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ほんとうにおかげさまで本になりました!
ありがとうございます!


『おかんの昼ごはん』河出書房新社
「親の老い」への哀しみをどう表現していいかわからない
私のような人は多いと思います。
読者と表現しあったこの本は、思い切り泣けたあと、
胸の奥が温かくなり、自分の進む道が見えてきます。
この本が出来上がったとき、おもわず本におじぎをし、
想いがこみ上げいつまでもいつまでも本に頭をさげていました。
大切な人への愛から生まれ、その先へ歩き出すための一冊です。

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『「働きたくない」というあなたへ』河出書房新社
「あなたは社会に必要だ!」
ネットで大反響を巻き起こした、おとなの本気の仕事論。
あなたの“へその緒”が社会とつながる!

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『新人諸君、半年黙って仕事せよ』
―フレッシュマンのためのコミュニケーション講座(筑摩書房)
私は新人に、「だいじょうぶだ」と伝えたい。
「あなたには、コミュニケーション力がある」と。
            ――山田ズーニー。

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『人とつながる表現教室。』河出書房新社
おかげさまで「おとなの小論文教室。II」が文庫化されました!
文庫のために、「理解という名の愛がほしい」から改題し、
文庫オリジナルのあとがきも掲載しています。
山田はこれまで出したすべての本の中でこの本が最も好きです。


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『おとなの進路教室。』河出書房新社
「自分らしい選択をしたい」とき、
「自分はこれでいいのか」がよぎるとき、
自分の考えのありかに気づかせてくれる一冊。
「おとなの小論文教室。」で
7年にわたり読者と響きあうようにして書かれた連載から
自分らしい進路を切りひらくをテーマに
選りすぐって再編集!


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▲文庫版でました!
 あなたの表現がここからはじまる!

『おとなの小論文教室。』 (河出文庫)

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ラジオ「おとなの進路教室。」
http://www.jfn.co.jp/otona/

おとなになっても進路に悩む。
就職、転職、結婚、退職……。
この番組では、
多彩なゲストを呼んで、「おとなの進路」を考える。
すでに成功してしまった人の
ありがたい話を聞くのではない。
まさに今、自分を生きようと
もがいている人の、現在進行形の悩み、
問題意識、ブレイクスルーの鍵を
聞くところに面白さがある。
インターネット、
ポッドキャスティングのラジオ番組です。

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「依頼文」や「おわび状」も、就活の自己PRも
このシートを使えば言いたいことが書ける!
相手に通じる文章になる!

『考えるシート』文庫版、出ました。

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『話すチカラをつくる本』
三笠書房

NHK教育テレビのテキストが文庫になりました!
いまさら聞けないコミュニケーションの基礎が
いちからわかるやさしい入門書。



『文庫版『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
ちくま文庫

自分の想いがうまく相手に伝わらないと悩むときに、
ワンコインで手にする「通じ合う歓び」のコミュニケーション術!




『17歳は2回くる―おとなの小論文教室。III』
河出書房新社




『理解という名の愛が欲しいーおとなの小論文教室。II』
河出書房新社




『おとなの小論文教室。』
河出書房新社



『考えるシート』講談社


『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
筑摩書房



『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
PHP新書

内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの 痛みと歓びを問いかける、
心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)

 


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メールの表題に「山田ズーニーさんへ」と書いて、
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2018-07-11-WED

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