YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson891
 自分は下からどう見える


「たった1回注意しただけで仕事をやめたいと言う」、

職場で若い人にどう接していいかわからない
という声をよく聞く。

時代は変わった。なのに古い考えのままの人。

これは以前の「私」だ。

以前の私は、古い考えそのもの、
私の言葉に後輩が傷ついても、こう感じていた。

「なんて弱いの?」
「なんで私に直接言わないで、他の人に弱音を吐くの?」
「私は、ごはんに誘ったり、
何でも話せるよう努力してるよね」
「私にはいい顔し、いいことしか言わない、あれは嘘?」

そんな私を塗り替えたのは、ある高校生との出逢いだ。

その高校生は、

「上の人と、下の人、どうしたら、
ものを言いやすいコミュニケーションを
実現できるか」

をテーマに研究を続けている。

おどろいたのは、ここからだ。

私は、先入観で、
高校生という弱い立場で、おとなの圧力を
感じてるのだろう、と思い込んでいた。

逆だった。

その高校生は、3年生。

「1、2年生は、3年生の私に話しづらい。
部活で、下級生は、部長に意見ができない。
どうしたら公平に話せるか?
環境づくり、コミュニケーションに
工夫をつづけているんですが、
なかなかうまくいかなくて…」

がーーん!

私は打たれた。

ああ、ああ、そうだった!
私の胸に、

高1のとき、剣道部で、
3年生がとてつもなく大人に、恐く、強く、見えた事、

中1のとき、通学路で
中3の女子たちにまちぶせされ、囲まれ、
威圧感に手足が震えたことが蘇った。

「おとなから見れば、たった1、2歳差!!!
でも、あんなに恐かったんだ」

なのになぜだろう。

自分が年上になると、コワさを忘れ、
会社に入って、先輩になって、部下ができて、
古株になって、どんどんコワかったことなど忘れ去り、

5歳、6歳、いや10歳も、後輩に、

「私って、ぜんぜん恐くないでしょ、対等でしょ、
威厳もないし、友達感覚で話せる先輩よね、ね!」

と自分で思い込んでいた。

いやそれどころか、
馬鹿にされまいと、威厳まで出そうとしてた。
高校生が日々、1,2歳差を破る努力を
しているというのに、
ああ、私のバカ、ほんとうにバカ。

「いや自分は部下からバカにされてるから大丈夫」とか、
「立場は上司でも、部下と同年代だから大丈夫」とか、

そういうことではない。

これには、2018年度の小論文入試でも採り上げられた
日本独特の労働問題が関係している。

「過従属」

社会的セーフティネット(安全網)がなく、
つねに解雇されたら路頭に迷うという恐怖を抱えて働く
日本の労働者は、会社に精神的にも過剰に従属してしまう。

上の反感をかうことは死活問題、コワくてものが言えない。

「下の者にどう接していいかわからない。」

という切実な声を、出講先で、
切実に、頻繁に、聞くようになった。
接し方を考える前に、まず、

「自分は下からどう見えているのか?」

年長、それだけで威圧を感じる人だっているのが現実だ。
そこに、人事権・決定権など立場が加わればさらに。

「自分が思っているより、もしかしたらずっとずっと、
下から見た自分はコワい存在なのではないか?」

と一度問い直してみて、私はとてもいいことがあった。

上から投げ落とされた小石は痛い。
2階、3階…10階からと、上から投げるほど凶器になる。

上司から投げかける「言葉」も同じではないだろうか。

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2018-09-12-WED

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