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サイレント・レーベルから出る
谷川俊太郎さんと賢作さんのCDは、
この『家族の肖像』で3作目ですけれども、
詩のCDを出すということに関して、
最初、周囲の声はどんなものでしたか? |
佐々 |
とにかく「そんなものは売れないよ」という反応が
当初は大半を占めていましたね。
そもそも、レコード店に、
詩のコーナーなんて、ないですし。
でも、ポエトリーリーディングというのは、
大昔の吟遊詩人のころから、
長い歴史があるものなんです。
いわゆるビートニクの再評価、
再流行が最近あって、
DJシーンでポエトリーリーディングが
はやりはじめた時期があったんです。
だから、いままで無謀だって言われてた、
「詩の朗読」をやるにはいい機会かも、って
思いました。
しかも、谷川俊太郎さんでしょ。
谷川さんはふだんから朗読をやってらっしゃるし、
詩の朗読のCDを出すならば、 「まずは、この人が売れないと、
誰も売れないだろう」
そう思ったんです。
谷川さんが先陣を切れば、
あとに続くすばらしい詩人はたくさんいる。 |
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でもまずは、この人以外にない、と。
谷川さんは、おふたりにとってどんな存在ですか? |
田中 |
俊太郎さんは、すごいポップな人です。
かっこいいし。 |
── |
それは普段の姿をごらんになっていて? |
佐々 |
憧れの人ですね。まずは、
姿勢がスクッとしていて、よい。
そして、持ちものがかっこいい。
あの眼鏡!
どこで買ったのかいまだに訊けないんだけど(笑)。
それからパームっていう電子手帳を
かっこよく使いこなしていてね。 70歳を過ぎたモバイラーは、
私は、谷川さん以外
知りません(笑)。
パソコンのトラックボールはケンジントン社製だし!
マッキントッシュのマニアなツボを
トン、トンって、ついてくるんですよ。 |
── |
谷川さん、おしゃれなものについて
さりげなくご存知ですよね。 |
佐々 |
ええ。それからなにしろ
服装がかっこいいですね。
基本的にジーンズにTシャツという
ワークウエアでしょう。
つねに、引き算の、シンプルな
「機能の美学」そのままの人だなあと
ぼくは思ってます。
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田中 |
詩人でいちばん最初に
ジーンズを履いたっておっしゃっていますし。
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佐々 |
いつも人よりも早く早く行っていて、
昭和のなかでいちはやく
西欧化した人かもしれませんね。
詩とか言葉だけではなく、
ほかの部分でも、すごく 美意識の磨き込まれた人
っていうかんじがする。
それは表には出してないけれども、
さりげなくすべてに
行き渡っているような気がします。
そういった姿勢の正しさというのが、
ぼくの感じる、谷川俊太郎さんのオーラですね。
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レコーディングに何度かおじゃましましたが、
谷川さんの詩の朗読は、ほとんどNGが
出ませんでしたね。
2テイクぐらいできちんと録られていました。
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佐々 |
そうですね。
失敗したところは、すぐにご自分で気づかれるから。
ぼくとしては、スピードや声質などの
コンディションを整えたりすることに集中しました。
若い人や、いまから訓練が必要なタイプの人には、
いろんなアドバイスをしますけれども、
谷川さんは、
「がんばってなにかをやる人」というより、
もう「できている人」なんです。
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ところで『家族の肖像』には、本編のCDのほかに、
おまけのボーナスCDがついているそうですね。
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佐々 |
「朝のリレー」という詩の、
ライブバージョンが入っているんです。
谷川さんって、やっぱり
お客さんを前にしたときのほうが
すごくいい表情が出るんです。 愛がいっぱいあふれてる。
これは、ぜひ聴いてください。
それから「Morning Relay」という、
「朝のリレー」の英語バージョンも入っています。
これは、金子奈緒さんが朗読しています。
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「朝のリレー」は ネスカフェのCMで親しんでいる方も
たくさんいらっしゃいますね。
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田中 |
ボーナスCDには、このほかにも
アウトテイクで、賢作さんのピアノソロの
「埴生の宿」が入っていますよ。
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賢作さんの「埴生の宿」には、
ライブでいつも泣かされています‥‥。
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佐々 |
これまでいっしょに、CDの3部作を
つくってきたんですが、今回は
いちばん「ふくよか」なアルバムが
できたと思います。
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田中 |
そうですね。
まあるくてあったかいものが
ぽっと入ってきたかんじ。
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佐々 |
ぼくらはこうやって都市生活をして、
21世紀を過ごしていると、
家族のひな形やあり方が
どんどんかわりつつあります。
その、現在の家族のあり方と
昔の、もともとずーっと続いてきた家族の姿が
このCDによって行き来できる、
そんな気がするんです。
それに、家族って
愛と憎しみがこもっているものですよね。
愛だけで凝り固まったり
憎しみだけで凝り固まったりするのではなく、
愛と憎しみをひっくるめて
ちょっと俯瞰して見ることができる。
このCDは、普遍的なホームを
見ているかんじがしてすごくいいなあと思います。
そう感じるポイントが何であるかは、たぶん
人によってちがうと思います。
だから、「ふくよか」だなあ、って思うんです。
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普遍の「ふくよか」をうむって、
すごいことですね。
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佐々 |
谷川さんって、いつもそうだけど、
気負ってないです。
でも、今回はなんか
「パン」って出ちゃったんだな
と思う。
賢ちゃんも、出たんだと思う。
スタンダードでエヴァー・グリーン。
歴史に属するものができたなあ、って思いました。
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田中 |
3枚目だから、賢作さんも俊太郎さんも、
私たちスタッフも家族っぽく
息遣いが合ってきたってこともありますね。
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佐々 |
もちろん、俊太郎さんと賢ちゃんのことを
いつも応援してくれる
「ほぼ日」のことも
レコーディング中、考えていましたよ。
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それは、うれしいです。ありがとうございます。
ミュージシャンの方、といえば、
今回は歌がふたつ、入っていますね。
歌っているのは、村上ゆきさん。
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佐々 |
村上ゆきは、ふだんは英語でしか歌わないんですが、
日本語であんな表現ができる人だとは思わなかった。
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── |
「おじいちゃん」の詩あとに、
「さようなら」の歌が入っているんですが、
谷川さんの声で「おじいちゃん」が読まれたあとに、
ゆきさんの声で「ぼく」ってはじまる。
もう、たまらんです。
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佐々 |
詩と音楽のタイミングは、
もちろんぜんぶ計算してつくってます。
それは何回も聴いて、忘れて、またやってと、
徹底して追及してます。
仕上げがしっかりできたのも、
やっぱり、賢ちゃんが
きっちり構成してくれたからだと思います。
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構成は、すばらしいですね。
詩がおわって、心が高まっているときに、
賢作さんの音楽にホッとして、
でもやっぱり賢作さんの曲も、
結局は心に入ってきちゃう。
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田中 |
ほんとに、1家に1枚。
ぜひみんなで聴いてほしいですね。
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