谷川俊太郎の『家族の肖像』。

エヴァー・グリーンな傑作が
できたと思います。

CD『家族の肖像』は6月2日に、
ポリスターレコードの
サイレント・レーベルから発売されます。
サイレント・レーベルからは、
この『家族の肖像』の前にも
『クレーの天使』『kiss』という
谷川さんの詩の朗読のCDが出ていて、
この『家族の肖像』は、
「詩のCD3部作」の
一応の完結編ということになるんです。

今回は、谷川さんといっしょに
3つの詩のCDをつくってきた、
サイレント・レーベルの
レコーディングスタッフの方に
お話をうかがいましたよ。


サイレント/ポリスターレコードの
プロデューサー、佐々馨さんと
宣伝担当の田中陽子さん。

── サイレント・レーベルから出る
谷川俊太郎さんと賢作さんのCDは、
この『家族の肖像』で3作目ですけれども、
詩のCDを出すということに関して、
最初、周囲の声はどんなものでしたか?
佐々 とにかく「そんなものは売れないよ」という反応が
当初は大半を占めていましたね。
そもそも、レコード店に、
詩のコーナーなんて、ないですし。
でも、ポエトリーリーディングというのは、
大昔の吟遊詩人のころから、
長い歴史があるものなんです。
いわゆるビートニクの再評価、
再流行が最近あって、
DJシーンでポエトリーリーディングが
はやりはじめた時期があったんです。
だから、いままで無謀だって言われてた、
「詩の朗読」をやるにはいい機会かも、って
思いました。
しかも、谷川俊太郎さんでしょ。
谷川さんはふだんから朗読をやってらっしゃるし、
詩の朗読のCDを出すならば、
「まずは、この人が売れないと、
 誰も売れないだろう」

そう思ったんです。
谷川さんが先陣を切れば、
あとに続くすばらしい詩人はたくさんいる。
── でもまずは、この人以外にない、と。
谷川さんは、おふたりにとってどんな存在ですか?
田中 俊太郎さんは、すごいポップな人です。
かっこいいし。
── それは普段の姿をごらんになっていて?
佐々 憧れの人ですね。まずは、
姿勢がスクッとしていて、よい。
そして、持ちものがかっこいい。
あの眼鏡!
どこで買ったのかいまだに訊けないんだけど(笑)。
それからパームっていう電子手帳を
かっこよく使いこなしていてね。
70歳を過ぎたモバイラーは、
私は、谷川さん以外
知りません(笑)。

パソコンのトラックボールはケンジントン社製だし!
マッキントッシュのマニアなツボを
トン、トンって、ついてくるんですよ。
── 谷川さん、おしゃれなものについて
さりげなくご存知ですよね。
佐々 ええ。それからなにしろ
服装がかっこいいですね。
基本的にジーンズにTシャツという
ワークウエアでしょう。
つねに、引き算の、シンプルな
「機能の美学」そのままの人だなあと
ぼくは思ってます。
田中 詩人でいちばん最初に
ジーンズを履いたっておっしゃっていますし。
佐々 いつも人よりも早く早く行っていて、
昭和のなかでいちはやく
西欧化した人かもしれませんね。
詩とか言葉だけではなく、
ほかの部分でも、すごく
美意識の磨き込まれた人
っていうかんじがする。
それは表には出してないけれども、
さりげなくすべてに
行き渡っているような気がします。
そういった姿勢の正しさというのが、
ぼくの感じる、谷川俊太郎さんのオーラですね。

── レコーディングに何度かおじゃましましたが、
谷川さんの詩の朗読は、ほとんどNGが
出ませんでしたね。
2テイクぐらいできちんと録られていました。
佐々 そうですね。
失敗したところは、すぐにご自分で気づかれるから。
ぼくとしては、スピードや声質などの
コンディションを整えたりすることに集中しました。
若い人や、いまから訓練が必要なタイプの人には、
いろんなアドバイスをしますけれども、
谷川さんは、
「がんばってなにかをやる人」というより、
もう「できている人」なんです。
── ところで『家族の肖像』には、本編のCDのほかに、
おまけのボーナスCDがついているそうですね。
佐々 「朝のリレー」という詩の、
ライブバージョンが入っているんです。
谷川さんって、やっぱり
お客さんを前にしたときのほうが
すごくいい表情が出るんです。
愛がいっぱいあふれてる。
これは、ぜひ聴いてください。
それから「Morning Relay」という、
「朝のリレー」の英語バージョンも入っています。
これは、金子奈緒さんが朗読しています。
── 「朝のリレー」は
ネスカフェのCMで親しんでいる方も
たくさんいらっしゃいますね。
田中 ボーナスCDには、このほかにも
アウトテイクで、賢作さんのピアノソロの
「埴生の宿」が入っていますよ。
── 賢作さんの「埴生の宿」には、
ライブでいつも泣かされています‥‥。
佐々 これまでいっしょに、CDの3部作を
つくってきたんですが、今回は
いちばん「ふくよか」なアルバム
できたと思います。
田中 そうですね。
まあるくてあったかいものが
ぽっと入ってきたかんじ。
佐々

ぼくらはこうやって都市生活をして、
21世紀を過ごしていると、
家族のひな形やあり方が
どんどんかわりつつあります。
その、現在の家族のあり方と
昔の、もともとずーっと続いてきた家族の姿が
このCDによって行き来できる、
そんな気がするんです。

それに、家族って
愛と憎しみがこもっているものですよね。
愛だけで凝り固まったり
憎しみだけで凝り固まったりするのではなく、
愛と憎しみをひっくるめて
ちょっと俯瞰して見ることができる。
このCDは、普遍的なホーム
見ているかんじがしてすごくいいなあと思います。

そう感じるポイントが何であるかは、たぶん
人によってちがうと思います。
だから、「ふくよか」だなあ、って思うんです。
── 普遍の「ふくよか」をうむって、
すごいことですね。
佐々 谷川さんって、いつもそうだけど、
気負ってないです。
でも、今回はなんか
「パン」って出ちゃったんだな
と思う。
賢ちゃんも、出たんだと思う。
スタンダードでエヴァー・グリーン。
歴史に属するものができたなあ、って思いました。
田中 3枚目だから、賢作さんも俊太郎さんも、
私たちスタッフも家族っぽく
息遣いが合ってきたってこともありますね。
佐々 もちろん、俊太郎さんと賢ちゃんのことを
いつも応援してくれる
「ほぼ日」のことも
レコーディング中、考えていましたよ。
── それは、うれしいです。ありがとうございます。
ミュージシャンの方、といえば、
今回は歌がふたつ、入っていますね。
歌っているのは、村上ゆきさん。
佐々 村上ゆきは、ふだんは英語でしか歌わないんですが、
日本語であんな表現ができる人だとは思わなかった。
── 「おじいちゃん」の詩あとに、
「さようなら」の歌が入っているんですが、
谷川さんの声で「おじいちゃん」が読まれたあとに、
ゆきさんの声で「ぼく」ってはじまる。
もう、たまらんです。
佐々 詩と音楽のタイミングは、
もちろんぜんぶ計算してつくってます。
それは何回も聴いて、忘れて、またやってと、
徹底して追及してます。
仕上げがしっかりできたのも、
やっぱり、賢ちゃんが
きっちり構成してくれたからだと思います。
── 構成は、すばらしいですね。
詩がおわって、心が高まっているときに、
賢作さんの音楽にホッとして、
でもやっぱり賢作さんの曲も、
結局は心に入ってきちゃう。
田中 ほんとに、1家に1枚。
ぜひみんなで聴いてほしいですね。


山本容子さんのエッチングがすてきな
CDジャケットです。


では、今日も投稿を見てみましょう。
ゴールデンウィークの、ある家族の肖像です。

朝ごはん+ねまきの家族

典型的休みスタイルの家族

ゴールデンウィークに特に予定もなく
寝間着のままだらだらと朝御飯を食べる。
(しょうごろう)


俊太郎

忙中閑ありのだらだら時間も貴重、
ひとりでも他人が入ると
家族ってだらだらできないもの。


賢作
日曜だったらいうことなしだね
だらだら万歳!

「ねまき」と「朝ごはん」のテーマが
みごとに重なった1枚でした。
みなさまのご投稿、お待ちしております。


2004-05-17-MON

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