
賢作 |
朗読を、3回にも分けて録ったのも、
これがはじめてかもしれない。
なんとなくそこで気持ちが
すり寄ったところもあるよね。
父は、すごいスタジオが嫌いなんです。 |

糸井 |
そりゃあ、好きになれないでしょう。 |

賢作 |
一度、人を入れて録音したこともあるけど、
スタジオに人がいるっていうのも、
なんか変なんだよね。 |

俊太郎 |
ほとんど意味なかったね。 |

糸井 |
スタジオに入った人のほうが、
何をしていいかわかんないから、
たぶん辛いんですよね。
僕、ストリップ劇場で
1対1になったことがあって。 |

俊太郎 |
えぇーっ! それはおもしろいね。 |

糸井 |
これは、今でも思い出しますね。
ひとりで温泉に行くのって、なんだかいいかも、
なんて、ちょっとバカなことを思って、
温泉地にひとりで行ったんです。 |

俊太郎 |
うん。 |

糸井 |
ひとりで温泉街をブラブラ行くと、
ストリップ劇場があった。
前で男の人がお水とかまいてるんですよ。
「やってんですか?」っていったら、
「アイッ!」って、
急に電気をつけるんです。 |

賢作 |
すっごいとこですね(笑)。 |

糸井 |
訊いちゃった手前、
入んないわけにはいかなくなった。
もちろん入りたいから訊いたんだけど、
ひとりで、電気つけるとこに入ってくつもりは、
なかったですよ(笑)。
弱ったな~、と思いながらも、入りました。
自分でもおかしいんですけれども、
ちょっと引いた席に座るんですよ(笑)、
誰もいないのに。
そしたら、中の電気がついて消えて、
ライティングが始まって、
おねぇさんがひとり、出て来たんですけど
「ひとりだったら、もっとこっち来れば?」って。 |

俊太郎 |
ははははははははは。 |

糸井 |
弱ったなあ(笑)。
きっと向こうも弱ってるんだと思うんですけど、
向こうは、演じるというそぶりについては、
訓練してますから、
踊ったりしてればいいんです。
困るのは、客ですよ。
そのときに、けっこう真面目なことを
ひとつだけ思ったんです。
やっぱり演劇空間というのは、
観客と一緒に作るんだと。 |

賢作 |
ふはははは。 |

糸井 |
観客も、大事な構成要素なんですよね。
ま、長いたとえになりましたが、
レコーディングのスタジオに
連れてこられた人々は、
そのときの僕の気持ちみたいになってた
かもしれないですね。
谷川さんがあまりにも
赤裸々に見えると思うんですよ。
そこに日常の匂いを連れてきたままで
座ってるのは辛いですよね。 |

俊太郎 |
で、‥‥最後、どうなりました? |

糸井 |
あ、ストリップですか?
「何か飲む?」って言われました。 |

俊太郎 |
へぇー。そのおねぇちゃんに? |

糸井 |
ええ。「おごるから」って、
その人、コーラを2本持ってきてね。
ふたりで、ただ、飲んで(笑)。
「いまここは、あたししかいないから」って、
それから3回、出て来ましたからね。 |

俊太郎 |
はははは! |

糸井
|
どうなるんだろうと思って、3回観ました。
それで、
「あたししかいないから、
このままいてもいいし、
もし他の子を待ってるんだったら、
1時間ぐらいすると帰ってくる子もいるよ、
どうする?」
って言われて、
じゃあ、これで帰ります、って、
帰ってきたんですけどね。 |

俊太郎 |
う~ん。 |

糸井 |
僕は、わりと、
おごられることのすごい多い人間なんです。
そのときもコーラをおごられましたし(笑)。 |

俊太郎 |
へぇ‥‥。
すごくそれ、いい話だね。 |

糸井 |
結果的にはいい思い出です。
蛍光灯がつくときに、チンッて音が
しますよね? |

俊太郎 |
うん。 |

糸井 |
あの音を聴いてからストリップ劇場に入るのって、
すごい体験でした(笑)。
その音のことを、いちばん憶えてます。
チンチン、チンチンッみたいな。 |

賢作 |
そうか‥‥。
そんなかんじで、困っちゃう人もいるんだな。 |

糸井 |
そうなんですよ。たぶん。
イヤホンで聴きながら、困ってる人もいる。 |

俊太郎 |
ほっほっほ。 |

糸井 |
力のあるものって、人を困らせて、
どこかに連れていくんだよね。
谷川さん、困らせないフリをしながら、
困らせるからね。
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