ほぼ日 |
雑誌も何も持たないで、お父さんと一緒に
2時間電車に乗るとしたら、
どんな話をすると思いますか? |

賢作 |
うちは映画の話だな。まず間違いなく。
映画の話はけっこうとめどなくできるしね。
最近、何観た? って話になると。
で、圧倒的に観てる本数はヤツのほうが多いから、
悔しいんだよね。オレがたまに先に観ると、
とうとうと語っちゃうなあ。 |

あんだ |
映画の話はいっぱいできそう。 |

賢作 |
うん。
でもやっぱり共通経験がないと語れないから、
誰とでも語れるかっていうと違うよね。
『タイタニック』なんてさ、
ヤツはけっこうボロクソに言ってたんだけど、
オレけっこう好きなんですよ。
良かった良かったって俺が言いまくってたら、
おまえ、どこがだよ!? って言われる(笑)。 |
ほぼ日 |
それを理路整然と言い返すんですか?
お父さんが。 |

賢作 |
言い返しますね。
なんで男がこんなになって、
最後沈んでくんだ、って。
オレは、いいじゃないか、
映画なんだからって(笑)。
意見が合ったのが「おばあちゃんの存在」かな。
おばあちゃんがさ、
最初にコロッと宝石を落とすじゃない?
海の中に。
あー、あそこだけは良かった、って
意見が合ったんだよね。 |

さとみ |
その話をしている親子の図が、
目に浮かんできますね。 |

英 |
映画を通して、
そこの価値観を共有してるような。
|

賢作 |
そうだね、いつも激論になりますね。 |
みんな |
へー! |

賢作 |
でも、人生とか愛についてなんて、
絶対に語らないけど。 |

るか |
なんでですか? |

賢作 |
こっ恥ずかしくて(笑)。
でも、映画のフィルターを通せば、
何でも語れちゃうんだよ。
うん、便利だね、映画。 |

さとみ |
じつはそれを語ってるんですか。 |

賢作 |
うん、そういう部分もあるね。
|

あんだ |
英さんはどうですか?
電車の中で、何を話しそうですか。 |

英 |
電車に2時間乗ってたら・・・。
会社を一緒にやってるので、
やっぱり具体的にそういう話になっちゃうかな。
こっちは儲けないとお給料でないし、
父は「お金なんかいい、好きなことやりたい」
っていう。
それでいったいどうするのかって。
母もいることだし、
ほんと、ついそういう話になってしまう。
僕、今、車の免許が
なくなっちゃったんですけど(笑)。 |

るか |
あらあら。 |

英 |
前は、父が仕事で外出するときは
僕が運転手で父と一緒に行ってたんです。
当日、車の中が2人のコミュニケーションが
いちばんよくとれるし、
けっこうその時間が大切だったなあって
思いますね。
もう3年ぐらい前かな?
ほんっとに車中でいろいろ話した。
またそういう時間が持てればいいなって思います。
そのためには
免許取りなおさなきゃいけないんですけど(笑)。
|

賢作 |
どんな話をなさってたんですか?車の中で。 |

英 |
家族の話ですね。
僕の個人的な悩みや相談ごととか、
恋愛とか友だちが何とかとか、
そういうのではなく。
父に助言してもらえることが
すごくいっぱいありますね。
そういう時間として、
車の中というのは、すごく大切だった。
そういう時間をまた持ちたいなあ。
|
ほぼ日 |
またいい話だ。 |

英 |
ほんとに車は特別な場所でしたね。
母と2人で乗ると、
べつに喋ることはないんですけど、
父とだと、もういっぱい喋ることがある。
家のこととか仕事のこととか。
たぶん車じゃなかったら
話がまとまんなかったこととか、
話さなかったりしたことが
たくさんあったと思う。
車の中での父とのふたりの時間がなかったら、
いろんな話を自分から切りださなかった、
っていうこともあるかもしれない。
事務所で誰かいるから切り出せないとか。
めんどくさいや、とか。
自分のやってることで流されちゃって。
でも運転しているときは、
他にやることがなくって、
話すほうがメインになるから。 |

さとみ |
そっかあ。
わたしも確かにお父さんと
2人だけで話すときって、
けっこういつも真剣な話が多かったですね。
「さとみのアイデンティティはね」とか。
あんだちゃんちはどう? |

あんだ |
普通にわたしのこととか、
これからどうしていきたいの? とか、
そういうことを話すことが多いですね。
けっこうやっぱり相談相手として
すごい頼ってるというか、尊敬してるから。
やっぱりうまいことも言うし(笑)。 |

英 |
うまいこと? |

あんだ |
困ってるときとか、
グッとくることを言ってもらえるから。
そういうことを話したりとか、
あと普通に、なんか面白かったことや
それは「オツ」かどうか、みたいなこと。
あのときの、あのテレビ、観た?とか、
そういう世間話も。
特別なことは、たぶん、ない。
|

るか |
特別だと思うよー。
うちのお父さんには、あんまりグッとくることを
言われたりしないもん。
いつもあんだちゃんが相談して、
お父さんが返すみたいな感じ? |

あんだ |
どっちもありますね。
ちょっとご相談があるんですけどー、
ってメールを打ってみたりとか。
おまえどうするんだい?って、
向こうから振られてきたりとか。
もっぱらメール。
で、じゃあ今度、ゆっくり話そうか、
みたいな。 |

賢作 |
書き出しは「ほぼにちわ」? |

あんだ |
「ほぼにちわ、とーちゃんです」。 |

るか |
やっぱり「ほぼにちわ」なんだ(笑)! |

さとみ |
「とーちゃん」なんだ、糸井さんて。 |

賢作 |
いいね(笑)。
|

英 |
ぜんぜん話違うんですけど、
糸井さんのことで思い出した。
原美術館で父の展覧会があったときに、
ぼくがもらったばっかりの犬を
連れていったんです。
美術館なのに、
よくあんな犬なんか連れていったなって
思うんだけど・・・。
で、父には飼ってることを
言ってなかったんですね。
怒られると思って。
そのとき、糸井さんも来てくださっていて、
父には犬のことを言ってない
って話をぼくがしたら
「あ、いいよ、これオレの犬ってことにして、
それを英くんにあげたっていうことに
すればいいから」
って。
えーっ!? そんな人、いない! って思った。
僕の周りにはいないなあって。
どうしよう!? って。
それで、もう犬のことよりも、
そういうふうに判断してくださったことに、
びっくりしちゃって。
父には、そういう
自然なやりとりをしてくださって。
|

るか |
へえ! そんなことが。
|

英 |
何も知らない父が
「あ、糸井くん、かわいいじゃない。
糸井くんの犬なの?」って、
にこやかに会話が進んで。
で、糸井さんがぼくに犬を渡してくれて
「あ、英くんになついてるよ、
いいよいいよ、あげるよ」って
おっしゃったんです。
|

賢作 |
わあ。 |

英 |
そしたら父がびっくりしちゃって。
ずっとニコニコしてたのが凍りついて。
「えっ!?だって、かわいがってた、
糸井くんの犬でしょ?」って(笑)。
しかも、父にいちばん信用がないぼくに
くれるっていうね。
もうびっくりと嬉しさと面白さがもう。
|
みんな |
わははは! |

英 |
それがきっかけで
僕の犬ってことになったんですよ、
おかげさまで。
|

るか |
でも、なんでお父さんに言えないのかが、
すごく不思議だ(笑)。 |
ほぼ日 |
今、この座談会で明かしちゃってもいいんですか? |

英 |
はい、大丈夫ですよ。
その後、言ったんですよ、父に。
もうあまりにも信じてるから。 |
みんな |
うんうん。 |

英 |
糸井さんからもらったすぐ後、
絵を描きながらぶつぶつ言ってました。
「動物だって生きてるんだよ?」とかって(笑)。
「めんどう見れるのかな?」とか。
それで、あげくの果てに、
ぼくが売るかも、と思ってるみたいで。
ぼくはすぐお金に困ると、
物を売るっていうふうに思ってるみたいなんです。
犬まで売るんじゃないかって。
そこまで信用されてない(笑)。
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さとみ |
心配でしょうがないんですね。 |

英 |
ほんとに、すごい心配性。
ごめんなさい、
糸井さんがせっかくして下さったのに、
タネ明かししてしまって。
ほんとうに感謝してます。
そんなふうに思ってくださるなんて。
そんな糸井さんがお父さんなんですよね? |

あんだ |
はい、うちのとーちゃんです(笑)。 |
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<あさってに、つづきます!>
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