怪・その15
「生き霊」
アルバイト先での話です。
ある日、とてもにこやかで感じの良い接客をする女の子が
辞めていきました。
「正社員として就職が決まり、アルバイトができなくなる」
それが理由でしたが、もうひとつ、
彼女から聞いていたことがあります。
「バイト仲間を好きになってしまったが、
自分に興味がないのが分かるので苦しくてたまらない、
自分と他の女の子に対する態度が違うのが、
つらくてしかたない‥‥」
彼女が辞めてしばらく経った日のことです。
彼女が好きになったという青年がレジを担当した日でした。
その時はお客様が少なく、気が緩んでいたのでしょう。
青年は隣のレジの女の子とおしゃべりをしていました。
(お客様にも気づかないで‥‥後で注意しなきゃ)
そう思った時、女の子の声が聞こえました。
「いらっしゃいませ」
アルバイトが終わる頃、私達は気付きました。
あの時の声が、辞めていった彼女の声に良く似ていたこと。
あの時は誰も
「いらっしゃいませ」と言っていなかったこと。
その日の帰り、青年が私を呼び止めて言いました。
「あの人、いるんですかね‥‥」
ただならぬ様子だったので話を聞くと、
夜中、彼が寝ていると
「しゅっ、しゅっ」と衣擦れの音がしたそうです。
ぼんやり見えたのは、浴衣の裾と白い足。
皆で行った花火大会に彼女が着てきた浴衣と
同じ柄だったそうです。
(t)
2005-08-17-WED
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