おさるアイコン ほぼ日の怪談2005

怪・その4
「手が、生えた」

かれこれ40年近く前のことです。
当時、私はまだ3歳くらいだったと記憶しています。
私たち家族は、
木造で和室の小さなアパートに住んでいました。

ある晩、夜も更けたので、
さて寝ましょうかということになり、
両親がちゃぶ台を片付け、
部屋の照明をオレンジ色の小さな明かりだけにしました。

私は、忙しそうに布団を敷く両親の姿を
ぼんやりながめながら、
ふと目の前にある、
畳と畳の隙間に目をやりました。

すると。
おかあさんが水仕事のときにはめる
ピンクのゴム手袋そっくりな「手」が、
畳と畳の隙間から、
にょっきり「生えて」きました。

びっくりしながら眺めていると、
その「手」は、畳の上を、まるで
高い棚の上を手探りするような手つきで、
パタパタと、動き回っています。

不思議に思いながら、
何かしないと悪いかな? となぜか考えた幼い私は、
何のためらいもなく、
その「手」に自分の手を伸ばしました。

すると、まるで私のしぐさが見えているかのように、
その「手」が私の手のほうに
にゅうっと伸びてきて、

私の手を(大きな手だったので、正確には、手と手首を)
きゅっと握ったかと思うと、

まるで、テーマパークのぬいぐるみがするかのように、
「握手」をしながら
数回、大きく手を振り回しました。

あっけにとられる幼い私。
それを知ってか知らずか、次の瞬間、
「手」は、私の手をぱっと離すと、
しゅっと、畳と畳の隙間に消えていきました。

不思議と「怖い」という感覚はなく、
「手」が畳の隙間から生えてきたのがただただ不思議で、
すぐそばで布団を敷いていた両親に
そのことを話しましたが、
「なに寝ぼけてるの、早く寝なさい!」と、
ひとことで片付けられてしまいました。

あれは、なんだったんでしょう‥‥?

(E)


「ほぼ日の怪談」にもどる もう、やめておく 次の話も読んでみる
2006-08-07-MON