おさるアイコン ほぼ日の怪談2005

怪・その10
「ファスナーの音」

先日、彼の家のベッドで
ゴロゴロしていた時のことです。
寝不足だった私は、ゴロゴロしたまま、
つい寝入ってしまいました。

しばらく寝ていたようですが、
ふと人の気配で目が覚めました。

きっと彼が私の様子を見に来たのでしょう。
でも、まだ寝足りない私は、
そのまま目をつむり
布団にもぐりこんだままでいました。

するとベッドの端が沈む感じがありました。
彼が、ベッドに腰を掛けたようです。
起こされるかな‥‥と思ったのですが、
そこは寝汚い私。
声を掛けられるまでは、
ぎりぎりまで寝ているんだと心に決め、
まだ布団にもぐっていました。

すると、彼は、
そのまますり足で私の枕元の方へ来ると、
動きを止め、何かをしています。

ジジジジジジジジジー‥‥

カバンのファスナーを開ける音がし、

ジジジジジジジジジー‥‥

またカバンのファスナーが閉まる音が。

そして、そのまま、またすり足で戻り、
さっきと同じ場所に座るのです。

一体何をしているんだろう‥‥?
仕事道具でもとりに来たのかしら?

そう思ったのですが、
そのうち私に声を掛けるだろうと放っておくと、
彼は不意に立ち上がり、そのまま去って行きました。

私はその5分後くらいに、
ベッドからのそのそと起きあがり、
彼の元へと行きました。

さっきは何の用だったのかを彼に聞くと、
不思議そうな顔をして彼は言うのです。

「部屋には行ってないけど?」

驚いた私は、さっきの状況を彼に説明します。
しかし彼は、首をひねり、
カバンを寝室には置いていないし、
ドアノブにすら触っていないというのです。

私は急いで寝室にとって返しました。
確かに、カバンはありません。
そして、思い出したのです。

私が目覚めた時、確かにドアは閉まっていた事。
そして、彼‥‥いえ、
彼だと思っていたモノの気配が消えたとき、
ドアが開く音も閉まる音もしなかった事を‥‥。

後にも先にも、こんな事はこの1回きりです。

(サエキ。)


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2006-08-11-FRI