怪・その19
「女子トイレの鏡」
小学生5年の冬のことです。
学校の帰り道、
忘れ物をしてきたことに気付きました。
それはその日のうちに絶対に返すという約束で、
ひとつ上の姉に借りた面相筆でしたので、
もう辺りは薄暗かったのですが、
友達と別れてひとり学校へ取りに戻りました。
学校に着くと下校時刻をとっくに過ぎており、
すっかり日も暮れていました。
先生に見つかったら
叱られるかも知れないと思った私は、
ランドセルを昇降口の陰に下ろし、
上履きを履かず
足音をさせないようにこっそりと、
目的地である3階の図工教室に向かいました。
しかし残念ながら
図工教室には鍵が掛かっていました。
私はがっかりして、
姉に謝るしかないと覚悟を決め、
そのまま引き返すことにしました。
トイレの前まで来たとき、
急におしっこをしたくなりました。
灯りを点けると
先生に気付かれるかも知れないと思い、
6年生用の慣れないトイレでしたが、
廊下と窓から漏れてくる灯りを頼りに
どうにか用を済ませ、
暗がりを探って手を洗い終えました。
そしてふと顔を上げると、
目の前に青い顔のようなものが
ぼんやりと浮かんでいました。
私はぎょっとして、
トイレを飛び出しました。
階段を駆け降り靴をつっかけ、
ランドセルを掴み無我夢中で校門を出たところで、
ようやく気持ちが落ち着いてきました。
そこで改めて思い返してみると、
あの顔のようなものを見たのは
手を洗い終えた直後。
洗面台の上の壁には鏡が掛けてあったはず。
という事は。
あれは鏡に映った自分の顔だったのでは?
程無く笑いがこみ上げてきて、
そこから家までは、
これをネタに家族を笑わせることを考えて、
ニヤニヤしながら帰りました。
家に帰ってから、
筆を置いて来てしまったことを姉に話すと、
案の定叱られました。
でも一応ひとりで学校へ取りに戻ったんだよ言うと、
暗い道ひとりで帰ってきたの!?
とさらに怒るので、
その場を和ませようと、
トイレでの間抜けな話をしました。
しかし姉はますます不機嫌になり、
学校に取りに戻ったというのは
嘘だろうと言いました。
姉曰く、
6年の女子が
トイレの鏡を使って化粧をしていたので、
学級会で問題になり、
3階女子トイレの鏡は今、取り外されている、と。
その晩はどうにも眠れず、
いやがる姉の布団に無理矢理入れてもらいました。
(げこ)
2006-08-18-FRI