怪・その12
信号の色は
深夜、とある大きな交差点で
信号待ちをしていた時の話です。
人通りが無い中、
私は携帯でメールを打ちながら、
信号が青になるのを待っていました。
隣に立っていた男性が
ゆっくり歩き始めたので、
青信号が見えた私は、
液晶画面から目を離さないままで
横断歩道を歩き始めました。
程なく、唐突に、
クラクションが何度も鳴り響きました。
驚いて顔を上げると、
真正面の信号は青ではなく、赤。
状況が把握できず呆然と辺りを見回すと、
私は4車線の道路の真ん中に立ちつくしており、
辺りに人影は無く、
真横からは1区画向こうまで迫った大型トラックが
猛スピードでこちらへ走って来ながら、
クラクションを必死に鳴らし続けていました。
ぼんやりそれを眺めるうち
我に返った私は、
慌てて歩道に駆け戻り、
車に轢かれることもなく済みましたが‥‥。
思い返すたび不思議に思うのです。
信号が青だと思ったあの瞬間も、
私の周囲には誰も居ませんでした。
代わりに私の隣にあったのは、
男性の形をした色のない輪郭なのです。
隣の風景も見えていたのに、
その時の私は男性が「居る」こと、
携帯を持って俯いていたのに
「青信号」が「見えた」ことを確信していました。
そして、そっと背を押すように
促されたあの空気と、脳裏に浮かんでいた言葉。
「歩け」。
未だに現実感の持てない、不可解な体験でした。
(空知)
2008-08-08-FRI