怪・その14
招く鉄塔
もう20年も前のこと。
私は田舎の警察官でした。
地元山間部の中年男性が
行方不明になったとのことで、
捜索隊の一員として借り出されました。
行方不明になってすでに数日経過していたので、
春先で気候が良いとはいえ、
「死体」を捜していることは暗黙の了解でした。
しかし、広大な山中を探し回るのは
並大抵ではありません。
午前中は見つからず、
昼食後、午後からも捜索することになりました。
舗装された車道を10人ほどで歩いていると
ふと、獣道のような道ともいえないような溝が
道路脇の山肌に見えました。
「行ってみようか‥‥」
なぜ、そんな気持ちになったのか、
未だに分かりません。
とにかく仲間たちと別れ、
一人でどんどん山奥に入っていきました。
途中何度引き返そうと思ったか‥‥
半ばやけくそになって一時間も歩いた頃でしょうか。
山の中腹に高圧電線の鉄塔が
聳え立っているのが見えました。
「首をつるのにぴったりだな」
へとへとに疲れた心と体を引きずりながら、
不謹慎な冗談を思いつきました。
鉄塔に
首吊り死体がぶら下がっているのを
発見したのは
その直後でした。
(n)
2008-08-11-MON