おさるアイコン ほぼ日の怪談2008
怪・その30
出てくる石


看護学校で同じクラスだった
Mさんの話です。

彼女とは席が近かったので
実技の授業では大抵同じグループでした。
実技の時はエプロンを着用するのですが
ある日、「あ、まただ」。
Mさんはエプロンのポッケの中から
指先でつまめるくらいの
小さな真っ黒い石を取り出しました。

「なにそれ?」私が聞くと、
「時々入ってる。ポッケやカバンに」
と、Mさん。
「‥‥なんで?」
「分かんない。(病院の)寮の
 誰かのイタズラかなって思ってる。」
「そりゃ訳の分かんないイタズラだね」

しばらくして
別の友人の家で飲み会があって
彼がある国に旅行した時の写真を
見せてくれたのですが、
その中に、
Mさんの持っていたのと同じような石が
たくさん写った写真がありました。

とは言ってもたかが石なので
同じかなんて分かりません。
彼が言うには、
この国で今でも呪いに使われる石で
特別な呪術をかけたこの石を
呪いたい相手の持ち物やポッケに入れると
相手に災いが降りかかるんだったか、
衰弱して死んでしまうんだったか。
そんな感じのことだったのですが
飲みの席だったので忘れてしまいました。

さらに彼はこうも言いました。
「この呪いが本格的にかかると
 石の方で勝手に相手の元へ行くようになる。
 この国には今でも、なぜか体の中から
 黒い石が出てくる人がいるんだって」

看護学校を卒業して
のちに私が勤めだした病院に
Mさんが患者としていました。

彼女は看護学校を卒業して
すぐに交通事故に遭い、
足の手術をし、リハビリに通っていました。
痩せたなぁ、と思いました。

しばらくしてMさんとご飯を食べに行きました。
実は彼女に会ってから
あの黒い石のことが気になっていたので
聞いてみたのです。

「よく覚えてたねー。
 寮は出たんだけど今でもたまに出てくるよ。」

「‥‥そうなんだ。
 ねえMさん。○○○○(呪術のある国)に
 誰か知り合いとかいる?」

「なんで?
 私の彼の話したことあったっけ?」

Mさんはその国の男性と付き合っていました。

でも彼には幼い頃から親の決めた婚約者がいて
それはお国柄破棄出来ない、
絶対的な取り決めなのだそうです。
でもその男性はMさんとの結婚を望み
婚約者との結婚を拒んだことで
彼は実家とずっとこじれたままなのだとか。

私はあえて、
友人から聞いた黒い石の話はしませんでした。
でももしその話が本当で
彼女が呪いをかけられているとしたら
かけたのは誰だろう?
家族か婚約者か?
うーん?

コツッと軽い音がしました。
見ると、
Mさんのお皿の上に黒い石が落ちていました。

(S)
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2008-08-22-FRI