おさるアイコン ほぼ日の怪談2009
怪・その31
それぞれの姿で


救命士である
父の身に起こった出来事です。
救命士とは、
救急車で病人やけが人を運ぶお仕事です。

ある日も通報があり、
父と若い隊員2人で出動しました。
そこは古い一軒家で、
玄関を入ってすぐに廊下があり、
手前にリビングの入り口、
奥に和室があるつくりでした。

入ってすぐに嫌な気配を感じた父が、
奥の和室へ目をやると
ふすまが少しだけ開いています。

その隙間から、大人の男性が
横たわって寝ているのが見えました。

父は、
“一家の一大事に手伝いもせずに寝てるなんて”と
ムッとしたそうです。
ちなみに通報をしてきたのはその家に住むご夫婦で、
娘さんがリビングのテーブルの前に倒れていました。

3人でてきぱき娘さんを運びだし、
病院へ連れて行きました。

無事に搬送が済み、談笑していると
父は和室にいた男の事を思い出したので、
他の隊員に話しました。

でも二人は首をかしげて
「そんな男は見てない。」と言います。

父によると、その時は
“偶然見なかっただけかもしれな〜”程度の
気持ちだったそうです。

すると別の隊員が、

「それを言うなら、
 リビングの奥でつったって手伝おうともしない
 男のほうが頭に来ましたよ!」

と言うのです。

しかし父ともう一人は、
娘さんの倒れていた部屋で
そんな男なんて見ていません。

そこでもう一人の隊員に
「おまえは何か見たか?」と尋ねました。

「僕は、
 和室と男もリビングの男も見てません。

 でも、
 娘さんが倒れていたテーブルの上に
 
 大きな骨壷と遺影が置かれていたので、
 変な家だなと思ってました。」

もちろん父をふくむ残りのふたりは
骨壷や遺影などは、見ていません。


幽霊や怪談の類を一切信じない父が体験した、
人生で初めての怪奇現象でした。

(パンチョ)


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2009-08-27-THU