おさるアイコン ほぼ日の怪談2009
怪・その33
シングルルーム


いとこが出張で
安いビジネスホテルに泊まった時のこと。
そっけない一人部屋(シングルルーム)で
他に誰も入れないくらいに狭かったそうです。

いとこの疲れはピークで、
翌朝が早いこともあり、
すぐに眠ってしまいました。

少しすると、誰かがドアを叩きました。
とても激しく、何度も叩いています。

びっくりして起き上がり、
ドアののぞき穴から外を見たのですが、
誰もいない。

酔っ払いか、いたずらかと思い、
再びベッドに横になり、寝たそうです。

また少しするとドアを誰かが叩く。
しかし覗くと誰もいない、
というのが3回ほど続きました。

あまりにもしつこいので腹が立ち、
次に来たら捕まえてやろうと、
眠いのを我慢してドアの前で待っていました。

しばらく待っていると
誰かが激しくドアを叩きました。

いとこが勢いよくドアを開けると、
そこには誰もいません。

部屋を変えてもらおうかと思ったそうですが、
眠気に勝てず、再び眠ることにしました。

そこからはドアを叩く音はぱったりと止み、
ゆっくりと眠れたそうです。

翌日、チェックアウトする時に
このホテルで昔何かあったのか、
フロントの人から20年近く清掃をやっている
おじさんを紹介してもらい、
話を聞いたそうです。

おじさんによると、
以前そのホテルでは大きな火災があり、
大勢の人が亡くなった。
いとこのいた階から出火したそうで、
いとこが泊まった部屋のあたりは
特にひどかったのだとか。

いとこは、きっと部屋の中に取り残された
家族か恋人かがいて、
助けたいがために、ドアを叩いていたのだろう、
と私に言いました。

その話を聞いてなるほどと納得しました。

しかしいとこが帰った後、
私はホテルの話を思い出した時に
何か違和感を感じました。

「取り残された家族」の部分でした。

いとこの泊まった部屋は一人部屋です。
他に誰も入れないような狭い部屋、
とも言っていました。

なんだ、怖がらせるための作り話か、
と思いました。
しかしもやもやした話が嫌いないとこは、
嘘や冗談ならば最後に必ずネタばらしをします。
いとこにしては珍しいなあ、と思いました。

この話を後日友人に話したら、

「それ、部屋に入りたかったんじゃなくて、
 出たかったんじゃないかな」

と言われました。

何者かが、いとこが覗き穴を覗いている隣で
ずっとドアを叩き続けているのを想像して、
ぞっとしました。

いとこは次の土曜に来ると言っているのですが、
このことを伝えるべきかどうか、迷っています。

(与太郎の奏でる音楽)


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2009-08-27-THU