おさるアイコン ほぼ日の怪談

「女郎蜘蛛」


父親から聞いた話です。

まだ私が10ヶ月の赤ちゃんだった頃、
父親の運転する車で
河口湖までドライブに行きました。
当時住んでいた山梨県甲府市からは
1時間半ほどのドライブ。
夕方出ても7時には予約したホテルに着くはずです。
ところが山道で迷ってしまったのか
何時間走っても林を抜けられず、
気づいたら夜中の12時近く。
もうこのまま車中泊しようかと思い始めた頃、
突然山道から抜けて、田んぼの並ぶ平野に出ました。

田んぼの真ん中には小さな一軒の宿。
その夜は急遽その宿に泊まることになりました。
宿に入ると陰気な番頭さんが夜番をしていて、
離れへ案内されました。
ただでさえ薄暗い宿なのに離れなんて‥‥
と思いながらも歩いて行くと、
離れの扉には母親の顔くらいある大きな女郎蜘蛛が
8本の足を広げてとまっています。
気持ち悪かったのですが
とりあえず蚊帳と蚊取り線香を借りて布団に入ると、
疲れもあってすぐに寝てしまいました。
夜中の2時過ぎ頃、
隣で私がすっくと立ち上がる気配がして
電気をつけると、
そこにはお岩さんのように
顔の半分が腫れてただれた私がすっくと立っていて、
母親に
「お母さん。こんな顔になりました‥‥」
と話し掛けたのです。
ちゃんとした言葉は話せない、
這い這いしかできない私の普通じゃない様子に
父親もすっかり目が覚め、
気も狂わんばかりになった母親が私を抱えて
その宿を飛び出しました。
車に飛び乗り、10分も走ると湖が見えてきて、
予約していたホテルの紹介で救急病院に行きました。
一通り診察した後に、変な顔をしている医者に
父親が原因を尋ねると、

「恐らく蜘蛛の毒でしょうね。
 ただ‥‥蜘蛛の形というよりも‥‥
 大人の手が押し付けられたような形に
 ただれていますが。」
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