おさるアイコン ほぼ日の怪談

「足首」

僕は海辺の町で生まれ育ちました。
毎年のように水難事故がありますよね。
海って、けっこう怖いところなんです。

中学生の頃、ほぼ毎日友達と海へ行っていました。
ある日、沖まで泳いで疲れた僕は、
背泳ぎの姿勢で
海面から顔だけ出してぷかぷか浮いていました。

その時です。
すごい勢いで右足を引っ張られました。
引きずり込まれそうになった僕は、
あわてて両手と左足をばたつかせました。
体勢を変えて水の中を見ても、誰もいません。
だけど、誰かの手が足首をがっちり掴んでいる。
その後、自分がどうやって岸までたどり着いたかは、
正直な話、よく覚えていません。
無我夢中で泳いで、
なんとか振りほどいたのでしょう。

二度と、その海岸に行くことはありませんでした。
数年後、遠くの町から海水浴に来ていた男性が
溺れて死んだことがニュースで報じられました。
ちょうど、僕が引きずり込まれそうになった場所で。

見えない誰かに足首を掴まれたその感触は、
今でも忘れられません。
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