ほぼ日刊イトイ新聞 フランコさんのイタリア通信。アーズリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。
2008-06-10-TUE
イタリアの「ゲイ・プライド」事情。



ゲイであることは、
いまだに世界の少なくない場所で罪とされています。
イタリアでは「違法」ではありませんが、
国教であるキリスト教ローマ・カトリック教会は、
それは許されざる恥ずべき大罪の
ひとつであるとしていますから、
じっさいにカミングアウトするのは難しいことです。

イタリアのゲイたちは、
自国ほど厳しくないヨーロッパ他国の法律を、
イタリアに導入するべきだと考えています。
たとえば、すでにスペインと英国、フランスでも、
同性同士のパートナーシップが
通常の結婚と同等にみなされています。
英国の人気歌手のエルトン・ジョンが
男性の恋人と「結婚」した時、
多くの人々が彼らを祝福し、乾杯しました。

そんな法的な保証を、
イタリアという国に求めるとしたら?
ローマカトリックの総本山である
ヴァチカンを抱えているイタリアに。
ローマカトリックの偉大な長である法皇がいて、
政権は、ホモセクシャルの問題に寛容ではない
右派ににぎられている、イタリアに。
‥‥おのずと、それがいかに困難なことか、
おわかりだと思います。

そんななかで、ゲイたちがはなやかに着飾ったり
鍛え上げた肉体を誇示しながら
堂々と大通りをパレードする、
「ゲイ・プライド」が開催されました。



パレードを、阻止しようとするひとびと。

イタリア社会の中の差別は鋭く、
ローマで開かれる「ゲイ・プライド」には、
毎年、多くの人々が禁止を望んだり、
参加者を阻止しようとします。
このパレードは、
いまや世界各地で毎年ひらかれる催しなのですがね。

中止させようとしたのは、たとえば、
今年4月、ローマの市長に選ばれた、
保守的な右派の人間であるアレマンノ氏でした。
彼はパレードを中止させるために
あらゆる手段を試みましたが、
上手くは行きませんでした。

もうひとり、パレードを阻止しようとして
失敗した人物がいます。
マーラ・カルファーナ国会議員です。
彼女はセクシーな映画に出る美しく若い女優でありながら
国会議員に選ばれ、
ゲイ・プライド反対の側につきました。

これにはゲイたちも黙ってはいません。
彼らはカルファーナ議員に
「なんと、ヌード写真や、そこまでではなくても
 ともかく半分裸のような格好で
 キャリアを築いた貴女が、
 今、私たちを憎むというのですか?
 結局のところ私たちは何も悪い事はしていませんよ」
と言って、彼女を狙い撃ちにしました。

こうして今年も、ローマのゲイ・プライドが
6月7日に開かれようとしています。
イタリアやヨーロッパの各地から多くの若者たちが、
少々若くはない人々も一緒に、ローマに到着し、
ゲイであるというプライドを表明するのです。
この記事を書いている今日(6月6日)は、
まだ金曜日ですので、
写真は昨年のものをご紹介します。



ゲイ(女性同士も含めます)だけではなく、
バイセクシャルやトランスジェンダーな人々も、
多くの論争の中で、
ゲイ・プライドのパレードを彩ることでしょう。
そこには約80組の「夫婦」もおり、
この日のためにイタリア中部の
スルモーナという町で作られた、
青やピンクのコンフェッティ
(結婚式の砂糖菓子)をばらまいて、
自分たちの「結婚」をアピールします。

アラブのコミュニティーや、
定まった住居を持たない「ロム」と呼ばれる人々も、
主催者に招待され、参加の予定です。

参加者たちが掲げるスローガンには、
少年愛の重大な罪を犯している集団のひとつと
彼らがみなしている、
カトリック教会への抗議もあります。
近年、特にアメリカにおいて、
カトリック教会の聖職者による
少年愛が問題にされており、
その被害者に謝罪した法皇ベネデクト16世に向けられた
抗議のスローガンもあります。
ゲイの恋愛、性的な行為は
大人同士の合意の上でのことなのに対し、
少年愛は罪だというのが、ゲイたちの見解です。

侃々諤々の議論を呼んだパレードですが、
結局、いまのところ、良識的な展開をみせています。
ちょっとした小さな衝突はあったとしても。

つまりイタリア人のゲイたちが望むことは、ひとつです。
世界の他の多くの地と同様に、
彼らの声に耳を傾けてほしいということです。

「ゲイ・プライド」というパレードで
彼らが示したいのは、
多くの人々が良しとしない彼らの自尊心です。
自分たちと感覚が異なる人たちに、
自分の意見をおしつけようというのではありません。
ただ自分たちのことを理解してほしいのです。

自由とはこういうことではないでしょうか。
成人が自分の判断で意見を同じくする人と
心身ともに愛し合い、
その事を自然に認めて欲しいと願うこと、
いや、まずそう願う彼らの声が阻止されないこと、
それが自由への第一歩ではないかと、ぼくは思うのです。

francorossi


訳者のひとこと

カトリック教会、ホモセクシャル、
という単語で思い出されるのは、
ウンベルト・エーコ作の
『薔薇の名前』という小説です。
中世の修道院と殺人事件、
そこにまつわる謎解きがテーマで、
ショーン・コネリー主演の映画にもなりました。
今回のフランコさんの記事と
直接関係があるわけではありませんが、
私個人的には『ダ・ヴィンチ・コード』より
面白いと思いましたので、ご紹介しました。

コンフェッティですが、
もともとはアーモンドを砂糖でくるんだお菓子で、
アーモンドの形をしていましたが、
最近ではいろいろな形があって、
色もとりどりのようです。
本当の銀などで器を作り、
引き出物にするカップルもいます。


confetti


翻訳/イラスト=酒井うらら



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